第99話「三つの扉、開く」
あの、二つの発見が報告された会議から、ちょうど、ひと月が過ぎていた。湊は、四十四歳のままだった。
この間、村には、六人が加わっていた。うち、四人が、この村で生まれた赤ん坊だった。人口は、三百七十九人になっていた。
この朝の会議は、いつもより、多くの者が、集まっていた。前回、決定された三つの取り組みの、結果が、報告される日だったからだ。
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「では、始めよう」
湊が、そう、切り出すと、まず、レンが、立ち上がった。
「湊さん、高純度の砂石の生産体制について、ご報告します」
レンは、そう言って、いくつかの、結晶を、机の上に、並べた。
「この、ひと月で――ようやく、安定して、同じ純度のものを、作れるようになりました」
「どれくらいの、量が、作れる?」
「今のところ、一日に、この大きさのものが、十個ほどです」
レンは、そう、答えてから、続けた。
「ですが――重要なのは、量ではありません。すべてが、同じ性質を持つ、ということです」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「それが、いちばん、大事だ」
「はい。これまでは、百個作って、使えるものが、数個でした。今は――ほぼ、すべてが、使えます」
この報告に、会議の場から、感嘆の声が、上がった。
続いて、イワが、報告を、始めた。
「湊さん、光印刷の改良について、ご報告します」
イワは、そう言って、一枚の板を、取り出した。
「レンズを、使って、光を、絞ってみました。その結果――」
イワは、そう言って、その板を、湊に、手渡した。
湊は、それを、じっと、見つめた。だが――何も、見えない。
「イワ、これは……何も、写っていないように、見えるが」
「はい。目では、見えません」
イワは、そう、答えてから、続けた。
「あまりに、細かすぎて――肉眼では、確かめられないのです」
湊は、この言葉に、深く、驚いた。
「では、どうやって、確かめた?」
「レンズを、逆に、使いました。拡大して、見るのです」
イワは、そう言って、簡素な、拡大の装置を、取り出した。
湊が、その装置を通して、板を、覗き込むと――そこには、確かに、極めて、細かい模様が、刻まれていた。
「これは……」
湊は、しばらくの間、言葉を、失っていた。
「以前の、十分の一ほどの細かさです」
イワは、そう、報告した。
最後に、サギが、報告を、始めた。
「湊さん、新しい素材について、ご報告します」
サギは、そう言って、いくつかの、成形された物を、机の上に、並べた。
器。管。板。そして――薄い、透明な膜。
「型に、入れて、様々な形に、してみました」
サギは、そう、説明した。
「特に――この、透明な膜が、面白いです」
湊は、その膜を、手に取った。薄く、軽く、そして、確かに、透明だった。
「これは、水を、通さないのか」
「はい。まったく、通しません。それに――破れにくい」
湊は、この素材の、可能性の大きさに、深く、感心していた。
「それに、湊さん」
サギは、そう、続けた。
「ご指示いただいた、回収の仕組みも、試してみました」
「どうだった?」
「使い終わったものを、細かく砕いて、もう一度、熱すると――確かに、また、柔らかくなります。そして、別の形に、作り直せます」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「よくやった。それが、いちばん、大事なことだ」
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三つの報告が、終わった後、湊は、しばらくの間、沈黙していた。
「みんな、よく、やってくれた」
湊は、そう、静かに、告げてから、続けた。
「今日は、この機会に――これまでの、村の全体を、改めて、確かめておきたい」
湊は、そう言って、壁に、大きな紙を、掲げた。
「一つずつ、報告してもらえないだろうか」
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**食料と農業――ミオ**
「作物の舎の、味の問題ですが」
ミオは、そう、切り出した。
「光の当て方を、変えてみました。ずっと、同じ強さで、当てるのではなく――昼と夜のように、強弱を、つけたのです」
「結果は?」
「味が、良くなりました。外で育てたものと、ほとんど、変わりません」
湊は、この報告に、深く、感心した。
「よく、気づいたな」
「植物にも、休む時間が、必要だったのだと思います」
ミオは、そう、答えてから、続けた。
「それから――川向こうの干拓ですが、あと、ふた月ほどで、使えるようになります」
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**医療――シラ**
「病舎の労働時間ですが、三交代の仕組みを、始めました」
シラは、そう、報告した。
「学び舎からの、新しい者も、五人、加わりました。おかげで――随分と、楽になりました」
「透かし写しは、どうだ?」
「必要な時だけ、使っています」
シラは、そう、答えてから、続けた。
「それから――外科の手術も、これまでに、十二例、行いました。うち、十一例が、回復しています」
湊は、この報告を、深く、噛み締めていた。
「一例は……」
「はい。助けられませんでした」
シラは、そう、静かに、答えた。
「その方のことは、記録に、残しています。何が、足りなかったのか――ずっと、考え続けています」
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**土木――ドウ**
「鉄道の、河口までの工事ですが」
ドウは、そう、切り出した。
「ようやく、八割ほどが、終わりました。あと、半年ほどで、繋がる見込みです」
「よくやった」
「それから――南側の住宅地ですが、第一期の、四棟が、完成しました。すでに、六十人ほどが、入居しています」
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**工業――レン**
「工業規格の統一ですが、主要な部品については、ほぼ、終わりました」
レンは、そう、報告した。
「これで、どの工房で作った部品でも、確実に、噛み合います」
「それは、大きいな」
「はい。修理が、格段に、楽になりました」
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**経済――トウ**
「輪の流通量ですが、今、およそ、千二百枚です」
トウは、そう、報告した。
「人口に対して、適切な量だと、考えています」
「貧富の差は、どうだ?」
湊の、この問いに、トウは、少し、表情を、曇らせた。
「正直に、申し上げます。まだ、開いています」
「そうか」
「ただ――以前、議会で決めた、拠出の仕組みが、少しずつ、効いています。輪を、多く持つ者からは、多く、拠出してもらう。その分を、学び舎や、病舎に、回す」
湊は、この報告に、深く、頷いた。
「続けてくれ。これは――終わりのない課題だ」
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**外交――ナギ**
「アガルとの関係は、良好です」
ナギは、そう、報告した。
「常駐の使者を通じて、月に、二度ほど、やり取りしています」
「多国間の場は、どうなっている?」
「まだ、交渉中です。ですが――三つの集落が、前向きな返事を、くれています」
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**治安と防衛――ロタ、ガル**
「村の中の揉め事は、区画での解決が、うまく、いっています」
ロタは、そう、報告した。
「盗みも、この三ヶ月で、二件だけです」
続いて、ガルが、報告を、始めた。
「恐竜の接近は、この期間で、七回」
ガルは、そう、報告した。
「すべて、事前に、察知できた。被害は、ない」
「タズは、どうだ?」
「よく、働いている。あいつらのおかげで、随分と、早く、気づけるようになった」
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**教育――ケイ**
「探究の舎は、順調です」
ケイは、そう、報告した。
「今、三十七名が、学んでいます。うち、十二名が、外から来た者です」
「成果は?」
「今日、報告のあった、三つの発見――すべて、探究の舎から、生まれたものです」
湊は、この報告に、深い、感慨を、覚えていた。
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すべての報告が、終わった後。
湊は、しばらくの間、壁の紙を、じっと、見つめていた。
「よく、ここまで、来たな」
湊は、そう、静かに、つぶやいた。
それから、湊は、レンと、イワのほうを、向いた。
「二人に、一つ、頼みたいことが、ある」
「なんでしょう」
「今日の、二つの成果――高純度の砂石と、細かい光印刷。これを、組み合わせて、試してほしいことが、ある」
湊は、そう、切り出した。
「まず、一つ目だ」
湊は、そう言って、続けた。
「光を、電気に、変えられないだろうか」
この言葉に、二人は、顔を、見合わせた。
「光を、電気に、ですか」
「そうだ。あの、光石は――電気を、光に、変えている。なら、その逆も、できるはずだ」
湊は、そう、説明した。
「もし、それが、できて――しかも、その素子を、細かく、たくさん、並べられれば」
イワが、はっとした表情を、見せた。
「まさか――写真を、板に、写すのではなく」
「その通りだ」
湊は、そう、頷いた。
「光の強さを、そのまま、電気の信号として、取り出せる。そうすれば――写真が、すぐに、確かめられるようになる」
この構想に、イワは、深く、興奮した様子を、見せた。
「面白いです。やってみます」
「もう一つ、ある」
湊は、そう、続けた。
「今の、あの表示装置――光石を、並べたものだが。あれは、大きくて、電気も、たくさん、使う」
「はい」
「もっと、薄くて、電気も、少なくて済む、表示の方法が、あるはずなんだ」
湊は、そう言ってから、しばらく、記憶を、たぐり寄せた。
「確か――ある種の液体を、電気で、並べ方を、変える。そうすると、光を、通したり、通さなかったりする」
「液体で、ですか」
レンが、そう、尋ねた。
「そうだ。ただ――どんな液体なのかは、俺にも、わからない」
湊は、正直に、そう、答えた。
「探してみるしか、ない」
この、二つの構想は、その日から、探究の舎で、新たな研究課題として、着手されることになった。
会議の後、湊は、一人、書庫に、戻っていた。
湊は、記録帳に、この日の出来事を、丁寧に、書き記した。
『高純度砂石の生産体制が、確立。ほぼすべてが、使える品質に』
『光印刷が、レンズにより、従来の十分の一の細かさを実現。肉眼では確認できない領域に』
『新素材が、様々な形に成形可能であることを確認。回収・再利用も、実証された』
『各分野の状況を、確認。作物の味、病舎の交代制、鉄道八割完成、工業規格の統一など、多くが、着実に前進』
『貧富の差は、依然として、開いている。終わりのない課題である』
『新たに、光を電気に変える素子と、液体を用いた表示装置の研究を、指示した』
湊は、しばらくの間、この記録を、見つめていた。
――光を、電気に。液体で、表示を。
湊自身、この二つが、どこまで、実現できるのか、まったく、見通しが、立っていなかった。
だが、湊は、確信していた。
この村の人々なら――いつか、必ず、たどり着く。
湊は、四十四歳のまま、この日を終えた。この世界に来てから、三十年十ヶ月ほどが、過ぎていた。
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【第99話 時点 文明発展状況】
湊44歳/漂着後 30年10ヶ月
人口:379人(うち、この期の新生児4名)
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01 生存・サバイバル ★★★★★ 継続中
02 食料・農業 ★★★★★ 光の強弱により、屋内栽培作物の味が改善。干拓は完成間近
03 畜産・動物 ★★★★★ 継続中
04 漁業・水産 ★★★★★ 継続中
05 狩猟・採集 ★★★★★ 継続中
06 水・衛生 ★★★★★ 継続中
07 医療・薬学 ★★★★★ 三交代制を導入。外科手術12例中11例が回復
08 住居・建築 ★★★★★ 南側住宅地の第一期четыре棟が完成、60名が入居
09 土木・インフラ ★★★★★ 河口までの鉄道が、八割完成
10 火・エネルギー ★★★★★ 継続中
11 鉱業・金属 ★★★★★ 高純度砂石の生産体制を確立
12 製造・工業 ★★★★★ 工業規格の統一が、ほぼ完了。新素材の成形・再利用を実証
13 科学・技術 ★★★★★ 光印刷が、従来の十分の一の微細度に到達
14 言語・文字・出版 ★★★★★ 継続中
15 教育・研究 ★★★★★ 探究の舎の在籍37名。主要な発見が、すべてここから
16 経済・商業 ★★★★★ 輪の流通量1200枚。貧富の差は、依然として課題
17 政治・法律・行政 ★★★★★ 継続中
18 外交・交通・情報 ★★★★★ アガルとは良好。多国間の場は、三集落が前向き
19 軍事・防災・治安 ★★★★★ 恐竜接近7回、すべて事前察知。盗みは3ヶ月で2件
20 文化・娯楽・思想 ★★★★★ 継続中
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【次話への持ち越し】光を電気に変える素子、液体を用いた表示装置――この二つの研究結果は、次話以降で確認される
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