8話 死に戻りの能力を伝える勇気
「シャーロット嬢、一体どうしたんだ……?」
私の尋常じゃない様子を案じるように、彼は瞳の奥を揺らしている。
「テオドア様……どうしてここに?」
「君が体調不良で帰ったと聞いて、急いで追いかけてきたんだ。……酷い顔色をしている。何があったんだ?」
「それは……」
私は心臓の鼓動を抑えながら、何を言っていいか判断できず、浅く呼吸を繰り返すしかなかった。
死に戻りのこと、殺されること。
何を話しても不自然極まりなく、怪しい女だと思われる気がした。
(あれ……。前は悪用されるかもと考えて黙っていたけれど。今は信じてもらえなかったらどうしよう、という方が怖い……)
彼の想いを、死ぬ前に感じたからだろうか。
私にとってテオドア様は、味方か分からない人と言うよりも、最も信用できる人となっていた。
「テオドア様……。ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません。私、怖くて……もう独りじゃ抱えきれなくて……!」
涙が頬をなぞり、石畳の上へと落ちていく。
私の泣き顔を見たテオドア様は、驚いたように目を見開いた。
「シャーロット嬢、君の様子は普通じゃない。どこか一度……休めるところに行こう」
テオドア様は、私の肩に手を添えながら、人混みの中をゆっくりと先導してくれた。
彼の指先から伝わる体温が、心臓の嫌な音をかき消してくれる。
「ここなら丁度いいだろう」
テオドア様は商業区の一角にあった高級感のある宿に、私を伴いながら入っていった。
フロアは広く落ち着いた雰囲気で、昼前ということもあるのか人気も少ない。
「ソファに座って待っていてくれ。今部屋を用意させる」
「あ、はい……」
私は促されるまま、待合スペースに備え付けられたソファに身を沈ませた。
柔らかなクッションに安心感を得つつ、今の状況を冷静に考える。
(確かに宿なら、周囲を心配する必要ないものね。…………え、や、宿!?)
男女で二人きり、宿で同じ部屋に入るなんて、未婚の貴族同士ではあり得ないことだ。
テオドア様には、下心など決してないだろう。
しかし、事実だけ抜き取って見ると、非常に大変なことをしてしまっている。
「シャーロット嬢、もう部屋に入って大丈夫だそうだ。行こう」
「は、はい……」
差し出された彼の手を取り、私はソファからぎこちなく立ち上がった。
先ほどとは別の意味で早鐘を打つ心臓を諌めながら、二階の部屋へと上がっていく。
開かれた扉の先は、日当たりが良い角部屋だった。
窓際に置かれた素朴な机と椅子、そしてそのすぐ近くには綺麗に整えられたベッドがある。
「……っ!」
寝所が目に入り、思わず緊張で身を固くする私。
テオドア様は何も気にせず椅子を引いて、私が座るのを待っていてくれる。
私は顔を見られないように伏せながら、いそいそとその椅子に腰を下ろした。
「少しは気持ちが落ち着いただろうか、シャーロット嬢」
「はい……。テオドア様にはご迷惑をおかけしました」
机の上に飾られた花瓶を見ながら、私はひとつ大きく息を吐き出した。
死の恐怖から逃れきったわけではないが、日常に近い空気が心を軽やかにしてくれる。
「君は先程、『殺さないで』と言っていたな。……誰かに命を狙われているのか?」
「……っ!」
テオドア様は、雑談を挟むことなく、いきなり核心を突く質問を私に投げかけた。
ちらりと彼の顔を覗き見ると、無表情ではあるけれども憂いを帯びたように眉を寄せていた。
「言える範囲で構わない。シャーロット嬢が私を助けてくれたように……君の力になりたいんだ」
「……私の事情に、あなたを巻き込んでしまうかもしれないのですよ? それでも、私の話を聞いてくださいますか……?」
これは賭けに近いのかもしれない。
けれども、差し出された優しい彼の手に縋りつきたくなってしまった。
今生で最も頼りになる彼に、私の事情を聞いてほしい。
私は彼の瞳を見つめ、張り付いた喉を震わせた。
「私のことは気にしなくていい。……君の身に、何があったんだ?」
テオドア様は、私の言葉を待つように、柔らかに青の瞳を向けてくれる。
私は唾をひとつ飲み込み、大きく息を吸い、覚悟を決めて言葉を放った。
「私は先ほど……誰かに殺されました。そして、死に戻ったのです」





