7話 判明する死に戻った時の条件
「――!?」
視界が揺れ動きながら、光の世界に戻って来る。
辺りを急いで見渡すと、そこは勇壮な王宮の城門前だった。
私は馬車から下りて、案内をする衛兵の後ろを歩いている。
「……っ」
急いで立ち止まり、血液ごと冷えていく体を震わせた。
今までは、死の直前に戻っていた。
しかし、今回の私はそれよりも遥か前、入城前に死に戻っていた。
「どういう……こと……?」
急に歩みを止めた私を訝しむ衛兵の視線を受けながら、必死に思考を駆け巡らせる。
(私は、死の直前に戻っているのではない……?)
一度目は、ジェイコブの婚約破棄前。
二度目は、左右どちらに逃げるか判断した時。
三度目は、凶刃の前に躍り出る直前。
(もしかして……私の死が確定する直前に巻き戻っている……?)
私は今、王宮に踏み入れようと歩いていた。
あと十秒もすれば、その敷地内へ入ることになるだろう。
(つまり、私の死が確定するのは『城に入った瞬間』ということ!?)
王城の門が、私にとっては死刑を告げる宣告も同然だった。
とにもかくにも、ここで呑気に王城に入ってしまってはダメだ。
「あの、申し訳ありません! 突然お腹が痛くて! しょうがないので! 聞き取りはまた今度にさせてください!」
衛兵が呆気に取られている隙に、私は脱兎のごとくこの場を逃げ出した。
失礼にも程があるが、今一番大事なのは王城から離れることだ。
私はヒールの高いブーツを履いたことを後悔しつつ、全力で城下町方面へと走り抜ける。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫かしら」
人通りの多い商業区までたどり着くと、私は息を整えながら民家の壁に背を預けた。
大勢の人で賑わうここなら、おいそれと殺されることはないだろう。
「それにしても……一体誰が私を殺したのかしら……」
不意打ちだったせいで、今回は誰が私を殺したのか見えなかった。
これでは誰を疑っていいのか分からないし、何をすれば死を回避できるのかも分からない。
「王城にいた人が犯人ということよね……」
直前に会っていたのは、エドワード王子とテオドア様だ。
私は大きく息を吐き出しながら首を振った。
「エドワード王子が堂々と王城で殺すわけないし、テオドア様は……そんなことする人じゃない」
親友を想い、私を守ってくれた優しい人だ。
何より、死に戻る前デートにまで誘ってくれた。
彼が私を殺すなんて考えたくないし、あってほしくない。
「それに、殺した人は私を悪女と言っていた。つまり、記憶を取り戻す前から私と関わりがあった人……」
息を整え終えて、私は盛大に溜め息をついた。
やはり心当たりのある人物が多すぎて分からない。
「過去の私が追いかけて殺してくるみたいだわ……。とにかく、今は侯爵邸に帰ることを優先しましょう」
自分の家に入ってさえしまえば、ある程度の安全が確保できるはずだ。
私は背中を壁から離し、商業区の屋台街の中を歩いて帰ろうとした。
その時。
「――シャーロット嬢!」
背後から不意に急に手を引かれた。
あまりにも突然の出来事で、無意識に後ろから刺されて死んだ記憶がフラッシュバックする。
「いや……やめて、殺さないで……!」
がむしゃらに力を込めて、手首を掴む何者かを振り払おうとする。
だがその手はあまりにも力強く、私の抵抗を抑え込むように離してくれない。
パニックになりながら、涙目で手の主を見上げた。
「落ち着くんだ、シャーロット嬢……!」
「あ……」
見ているだけで心落ち着ける青の瞳。
青みがかった銀髪を振り乱しながら、その青年は心配そうな眼差しを向けてくれていた。
「テオドア様……!」
唯一、味方と信じたい人が、目の前にいる。
その事実が、死の恐怖に怯える私を優しく温めてくれた。





