6話 第一王子との話し合い、四度目の死
王宮に入城し、案内されたのは豪華な調度品が並ぶ応接間だった。
ソファに座りながら、私は緊張のあまり指先まで身を固くしていた。
「そんなに気をはらなくてもいいよ、シャーロット。私とは初対面ではないのだから」
「は、はい……」
目の前に座っている青年は、流れるような目もくらむ金髪を揺らしている。
彼は、第一王子エドワード。
第二王子の婚約者として何度か会ったことがあるが、このような場で話すのは初めてだ。
「まさか、テオドアと君が手を組んで密輸組織を壊滅するとはね。悪女と呼ばれた君が、一体どういう風の吹き回しなのだか」
「あ、あはは……」
私は今までの素行を思い出し、気まずくなって視線を意味もなく茶菓子の方へ向ける。
すると、エドワード王子の隣に座っていた彼が、睨みつけるような眼差しでエドワード王子を射抜いた。
「エドワード、彼女は噂のような悪女ではない。ジェイコブの捕縛にも協力的で、刺客にも怯まない勇敢な女性だ」
テオドア様の視線を受け、エドワードは軽く肩をすくめる。
「テオドアが……まさかシャーロットを気に入るとは、全く予想もしていなかったよ。よりにもよって社交界嫌いな君が、ね」
「……私に人を見る目だけがあるのは、エドワードも知っているだろう」
「そうだな。テオドアの『目』がそう判断するのなら、間違いがないのだろうけど……」
含みをもたせた言い回しをしながら、エドワード王子は視線をちらりと私の方へ向けた。
その緑の瞳が、ゆっくり瞬かれる。
まるで、私の心中を探るように、ありありと不信感のようなものが刻まれていた。
「そもそも何でシャーロットが、証拠を持ち出していたんだい? 君は……ジェイコブの婚約者。彼の味方だったはずだ。なぜ、彼を裏切る真似をした?」
ただのジェイコブに対する嫌がらせです。
とは言えなかったので、私はあいまいに微笑みながら、目の前のティーカップから立ち上る湯気に目を落とす。
「輸入品のリストに興味があったもので、後で読もうかなと……! その、侯爵家でも輸入業をやっていますから……!」
「…………ふうん……。そうか」
苦しすぎる言い訳をしたせいか、エドワード王子の目はさらに疑念が増したとでも言うように細められる。
けれど彼はそれ以上探ろうとはせず、口元だけで笑みを作り上げる。
「君の功績のおかげで、ジェイコブ一派を一掃できたのは確かだ。理由は何にしろ……感謝をしている」
「身に余るお言葉です。エドワード王子殿下にご協力ができて光栄です」
「……以前の君と同じ人物と思えないほど、殊勝な態度だな。テオドアがアプローチしたがるのも無理ないか……」
短く、重く息を吐き出したエドワード王子は、コツンとテオドア様の肩を叩いた。
「テオドア、彼女は厄介だぞ。それも覚悟の上か?」
「どういう意味か分からないが……。私は、シャーロットとの出会いは運命だと思っている。この縁を逃したくないんだ」
テオドア様は私に青の瞳を向け、凪のような穏やかな微笑みを薄く浮かべる。
「……シャーロット、今度二人で出かけないか? 公爵家の運営する植物園の花が見頃なんだ。君もきっと気に入ってくれると思う」
「はえっ!?」
エドワード王子の目の前で、テオドア様は一切の遠慮なく、私をデートに誘う言葉を放った。
私は何と言っていいか分からず、口をパクパクさせながら視線を泳がせる。
「はあ……。私の前で口説かないでくれよ、テオドア。シャーロット、今日の話はここまでだ。王城までわざわざ来てくれてありがとう」
「い、いいえ! むしろお時間を割いて頂き感謝申し上げます!」
「テオドアは、まだ事後処理があるから残ってほしい。城門に迎えを用意させてあるから、シャーロットは先に帰っていてくれ」
「ご配慮痛み入ります……それでは、お先に失礼いたします」
私が立ち上がると、テオドア様もソファから腰を上げた。
「待ってくれ、シャーロット。先ほどの誘いの答えを受け取ってもいいだろうか?」
「え!? あの、その……」
正直言うと、テオドア様のことを好きな異性として意識はまだしていない。
けれども、彼の気持ちは心を温かくするほどに嬉しい。
彼が歩み寄ってくれるように、私も彼を知りたいと思い始めていた。
「わ、私でよければ……ぜひ、ご一緒に……」
顔が熱くなるのを自覚しながら、私は消えそうなほどか細い声で了承した。
それを聞き取ったテオドア様は、青色の瞳をぱっと明るく輝かせた。
「今度、侯爵邸に迎えに行く。楽しみにしているよ」
「は、はい……」
エドワード王子のジト目を感じながら、私はこくりと頷きをテオドア様に返した。
応接間から出て扉を閉めつつ、私は胸に手を当てる。
心臓は早鐘を鳴らし、笑みが自然にこぼれる。
まるで無意識のうちに、心身がデートを心待ちにしているようだった。
「さあ、帰らなきゃ……」
帰ったら、父にデートで着ていく服を相談しようか。
植物園に行くのだから、図鑑を見てからの方が楽しめるだろうか。
楽しげな未来を想像し、王城の廊下を歩いていた、その時だった。
――ドンッ!
急に背後から衝撃が走った。
息ができなくなり、代わりに苦痛の声が漏れ出る。
胸元を見ると、そこには冷たい銀色の剣。
それが背後から貫かれていた。
「う……!」
私は目の前にふらつきながら倒れ、急速に視界が狭まり、意識が薄らいでいく。
「許さない……決して! この悪女が!」
怨嗟の叫びが聞こえたが、振り返ることすらできない。
私はそのまま、血の海に沈み込みながら、動かなくなっていく体をこの世から手放した。





