5話 後悔だらけの過去
「――。よく覚えておきなさい、私たちの神社では――の神様を祀っているんだ」
かつての私の父親は、私の頭の上に手を置いた。
ああ、これはきっと夢なのだろう。
だって私は、若くして交通事故にあって死んでしまうのだから。
「古い書物に名前だけ出る神様で、時を――する力を持っていると言われている。きっとお前が困った時力になってくれるだろう」
この時の私は、スマートフォンを見ながら話半分に聞いていた。
まさに今自分がいる世界の、乙女ゲームをプレイしながら。
◇
「……っ!」
カーテンのすき間から差し込む朝の陽光で、私はうたかたの夢から目を覚ました。
「今の記憶って……もしかして、私の前世……神社の娘だった時のこと?」
悪女だった頃の記憶。
前世の記憶。
それらが入り混じり、寝起きだというのに頭痛がするほど頭が重い。
「ここは乙女ゲームの世界よね……。確かタイトルは、『シュタイス王国物語』……?」
前世の私は、無数の乙女ゲームを片っ端からプレイするゲーマーだった。
その中のひとつが、おそらく私が今いる世界だ。
「シャーロット侯爵令嬢……。確か主人公と攻略対象の邪魔をしまくり、最終章手前で殺されるのだっけ……」
正直言うと、シャーロットに関するシナリオはあまり覚えていない。
さらっと一周プレイしただけなので、細かいところまではさすがに思い出せなかった。
「もう物語終盤なのだったら……。つまり、すでに主人公にはもう出会っているということ? え、誰……!? 確か貴族階級の女の子だったと思うのだけど……」
私は今まで出会ってきた人物を、悪女の記憶の中から探そうとした。
「……いや、私嫌がらせした人多すぎ!」
上級貴族で第二王子の婚約者という立場で、私は高慢の限りを尽くしていた。
つまり、主人公に心当たりのある人物が多すぎて分からない。
関わった全ての人へ謝りたい衝動にかられながら、頭を抱えてベッドの上でのたうち回っていた時。
コンコン――。
「し、失礼いたします。お入りしてもよろしいでしょうか……?」
「は、はい! どうぞ!?」
控えめに、ゆっくりと私室の扉が押し開かれた。
顔をうつむかせながら、ひどく怯えたような表情をした私専属のメイド。
そう、私の嫌がらせを最も受けた人物の一人だ。
「ごめんなさい――!」
「え!?」
私はシーツをかき乱しながら、土下座の態勢で彼女に速攻で謝罪をした。
「今まで、本当にごめんなさい! 謝ってすむことじゃないと分かっているけれど、これからはちゃんと優しくするから……!」
「シャーロット様……!? あ、あのお顔を上げてください……」
体を震わせながら上体を起こし、何とか彼女の顔を覗き見る。
めちゃくちゃ困惑した顔で、おろおろと視線をさまよわせていた。
「あ……その、こんなこといきなり言われても困るわよね。とにかく、今日から私は生まれ変わるから! そのつもりでよろしくお願いします!」
「……承知……いたしました?」
メイドは私の豹変に目を見開きつつも、ぎこちない笑みを作ってくれた。
「えっと……ねえ。今日の予定は何が入っていたかしら?」
「はい! 先の事件について王宮で聞き取り調査をしたいとのことで、招聘命令が出ております。そのご準備のために、私がまいりました」
「そうそう王宮に……。お、王宮!?」
私は思わずベッドからずり落ちそうになりながら、淑女としての態勢を整え直す。
「それは、そうよね。私一応重要人物の一人だろうから……。すぐに支度をしましょう!」
「は、はい……」
ベッドから降りながら、私は心を落ち着けながら姿見の前へと歩みだした。
「本当に……人が変わったみたいです。いつもなら、寝起きは意味もなく物を投げられるのに……」
メイドのどこかほっとした笑顔を横目に、私は大きく深呼吸をする。
(正直、何度も死んだ王宮に行くのは気が進まないけれど……。協力してくれたテオドア様のためにも頑張らないと)
公爵令息で、次期当主が約束されているテオドア様。
その名前を思い出した途端、彼の「交友を深めたい」という言葉を思い出す。
(……今日、テオドア様はいらっしゃるかしら……)
そもそも、私は彼のことをどう思っているのか。
メイドの手際よい身支度を受けながら、頭の中で思考ががんじがらめになっていた。
(テオドア様は私に……異性として好意を持っているということ? それともただの友人として? ああ、もう! せっかく事態が落ち着いたのに、考えなければいけないことばかりだわ……!)
死の恐怖から開放された私は、頭を抱えながらひたすら頭悩ませる。
彼からの好意そのものが、四度目の死へ向かうきっかけになると知らずに。





