3話 家探しされる実家、好意の兆し
その日の夜も更けた頃、私の実家は大変な騒動になっていた。
「悪女シャーロットは、私を暗殺しようと企てた。ゆえに、侯爵家に立ち入り調査をする!」
「な……ジェイコブ王子殿下! 一体どういうことですか!?」
私の父である侯爵家当主が、突然門扉から押し入った騎士団にたじろいでいる。
私を甘やかしに甘やかした父だが、穏やかな気性をもつ善良な人だ。
突然家探しを始めた騎士団を前に、慌てふためいて右往左往している。
「殿下! 侯爵令嬢の部屋にこのようなものが……!」
騎士の一人が差し出したのは、分厚い書類の束だった。
ジェイコブは紙が千切れそうな勢いで、それを奪うように手に取る。
「そうだ、これだ……。よし、引き上げるぞ!」
怒涛の勢いで押し入ったジェイコブと騎士団は、目的を達するとあっという間に去っていった。
跡に残されたのは、土足で踏み荒らされた侯爵邸と、呆然と座り込む父。
そして侯爵邸の外で、物陰から見守っていた私とテオドア様だけだった。
「……これで良かったのか?」
「ええ、計画通りです。これであいつは私から証拠を取り上げたと思い込んで、安心しきっているはずです」
屋敷を荒らされた父には悪いが、ジェイコブを調子に乗らせるためにはこれが手っ取り早かった。
侯爵邸の惨状に心痛めつつも、私は隣で守るように佇むテオドア様を見上げた。
「監視の目が緩んでいるうちに、例の場所に行きましょう。テオドア様、もう少しお付き合いください」
「ああ、もちろんだ。……君は本当に計画性のある女性なのだな。円滑に物事が進んでいく」
「そうでしょうか? 色々助けられてばかりですよ。テオドア様にも……あの力にも……」
「……あの力?」
「あ、い、いいえ……何でもありません」
この力、死に戻りのことは、協力者の彼であっても秘密にしておいたほうがいいはずだ。
死んだら時が戻る力など、悪用方法などいくらでもある。
私はあいまいに微笑みながら、自身の発言を誤魔化してみせた。
「と、ところで! 公爵家の嫡男ともあろうお方が、なぜこのような事を? 密輸組織の調査など、公爵家のお仕事ではないような気がするのですが……」
「ああ、それか。我が家は第一王子と懇意にしている関係で、その立場を支援している。……だが近頃、彼の周りで違法薬物による怪我人や、凶暴な獣に襲われる事件が相次いだんだ」
「それは……ジェイコブが手を回して、第一王子を蹴落とそうと考えているということですか?」
「おそらく。第一王子の身に危険が及ぶ前に、公爵家としては事態を収拾し……できるならジェイコブ王子殿下を王宮から追放したい。そのために、密輸組織の調査を始めたんだ」
夜空の下で青銀に輝く髪をなびかせながら、テオドア様は王城の方へ視線を向けた。
「それに、第一王子は私の幼馴染だ。彼に危険が及ぶのは……許しがたい」
聡明な青の瞳には、並々ならぬ信頼と、そして情愛がこもっているように見えた。
何にも動じない無表情の彼だが、表には出ないだけで熱い心の持ち主なのかもしれない。
「だから、君が力を貸してくれて良かった。感謝してもしきれない」
「お礼なんて言わないでください。私にもメリットがあってのことですから。それに……」
私は傷口を覆う包帯に軽く触れ、城内で助けてくれた彼の姿を思い浮かべる。
「テオドア様の力になれるのは、とても嬉しいことです。私を助けてくださって……ありがとうございました」
私は心からの笑みを彩り、月夜に染まる彼の顔を見つめる。
彼は一瞬ぽかんとしたように目を開き、私から顔を背けてしまった。
「あ……申し訳ありません。何か失礼なことを言ってしまいましたか?」
「いや、違うんだ。君の笑顔があまりにも綺麗で……見とれそうになってしまった」
「……え!?」
王都一の美貌を持つテオドア様に言われると、どう反応して良いのか分からない。
私は動揺のあまり、視線を石畳へと落としてしまう。
「……すまない。変なことを言ってしまった。今日の私はどうかしている」
「い、いいえ……」
彼が何を考えていて、何を思って言葉を発しているのか全くわからない。
気まずい沈黙を破るように、私は声を潜めながら路地へ一歩踏み出した。
「……そ、それでは行きましょうか! 早くしないと夜が更けてしまいます!」
「そうだな。シャーロット嬢、それでは手を」
「へ? 手?」
「夜道は暗い。はぐれないように手を繋ごう」
私が驚きの提案に絶叫を上げる間もなく、彼は私の手を優しく握ってくれた。
「あ、あの!? 今日は満月ですので、お気遣い頂かなくても大丈夫です……!」
私は手を引いてテオドア様から逃れようとするが、どれだけ力をこめても離れてくれない。
彼は暗い夜道を、まるで昼間のように迷いなく歩き進めていく。
顔が沸騰したまま、私は熱くなる顔を伏せて目的地へと進んでいくしかなかった。





