17話 テオドアによる、第一王子への断罪
「やあ、テオドア。血相を変えてどうしたんだい?」
「すべて聞いていた。シャーロットを殺そうとした動機もな」
「はは、ただの冗談だよ。本気にしないでくれ、テオドア。私が君の大事な人を殺そうとすると思うかい?」
エドワード王子は、しらばっくれながら肩をすくめてテオドアへ微笑む。
その表情を青の瞳に映しながら、テオドアは辛そうに顔を曇らせた。
「私の目を誤魔化そうとしても無駄だ。お前の瞳の奥にある色は……紛れもない殺意だ。嘘をつかないでくれ……エドワード!」
テオドアの声が、空気を揺らすほどの悲痛で響く。
私の背後に佇んでいたエドワードは、しばらく無言を貫いた後、大きく溜め息を吐く。
「テオドア、君は知らないだろう。彼女がどれほどの悪女だったか……」
「過去の行いがどうであろうと、私は今のシャーロットを愛している。……エドワード、茶会に毒を仕込んだのも君だったのだな」
「さあ、どうかな……」
「なぜ、想いを寄せるソフィ男爵令嬢の茶会で、シャーロットを殺そうとした。下手をすれば、ソフィ男爵令嬢に嫌疑がかかっていたのかもしれないのだぞ」
エドワード王子の目が、薄く細められた。
もう言い逃れできないと悟ったのか、冷笑と共に彼は喋りだす。
「そうだね。でも、だからこそだよ。あの場で私がソフィを庇えば、彼女はより私を好きになってくれるだろう?」
「……エドワード、そんな理由で茶会で毒殺を計画したのか……!」
「そんな? 私とテオドア、そしてソフィのために必要なことだったんだよ」
「まさか……お前があの時公爵邸へ来たのも、私にシャーロットの死を見せつけるためだったのか……!?」
「シャーロットの訃報を聞いたら、君は即座に茶会会場に行くだろう? それを慰めるのも、私の役割だからだよ。彼女をしっかりと諦めて、然るべき令嬢と結ばれるためにね」
テオドアの足元が、よろめいたように後ずさった。
しかし、すぐに厳しい眼差しを持ち直し、エドワードへ詰め寄る。
「エドワード、私はお前のことを……友だと思っていた。高位な立場であり、同じ重責を背負う親友だと……っ」
幼い頃から共に励んだ日々が、テオドアの脳裏をかすめたのかもしれない。
彼は一瞬だけ目を伏せ、それを振り払うように顔を上げた。
「テオドア、私は今でもそう思っているよ。……すぐに、この女から離れるんだ。今ならまだ間に合う」
「断る。もうお前のことは……信じることができない!」
テオドアは首を振ると、私に悲しげな瞳を向ける。
「……シャーロット。私達の事情に巻き込んでしまい、すまなかった。後は任せてくれ」
「テオドア……?」
何を指し示す言葉なのか分からず困惑していると、テオドアは開け放たれたままの扉を振り返った。
「……王位継承権のある第一王子のお前を、私が告発することはない。だが、この報いを受けてもらう。入ってくれ……ソフィ男爵令嬢」
テオドアの声が発せられると同時に、この場に似つかわしくない可憐な少女が入ってくる。
エドワードの瞳が、驚愕で見開かれた。
「な……ソフィ!?」
蜂蜜色のふわりとした髪、そして潤んだ瞳。
胸元で手を握りしめ、ソフィ男爵令嬢がエドワードを泣きそうになりながら見つめた。
「先ほど言っていたことは本当なのですか……? 私の茶会で毒を盛り、シャーロット様を殺しようとしたというのは……」
「違うんだ、ソフィ。誤解だ……私は、ただ君のためを思って……!」
「エドワード王子が、そのようなお方だとは思いませんでした……っ。もう二度と、あなたとはお会いしません! さようなら……!」
ソフィ男爵令嬢は涙を零しながら、エドワードから背を向けて走り去った。
「待ってくれ、ソフィ……!」
それを追いかけようとしたエドワードの前に、テオドアが制するように立ち塞がる。
「お前に、彼女を追いかける資格はない。己が犯した罪を悔い、もう二度とシャーロットを殺そうと思わないことだ」
テオドアの言葉に、エドワードは膝から崩れ落ちた。
顔からは血の気が失せ、絶望に染まり蒼白となっている。
「行こう、シャーロット」
「……ええ、テオドア」
私はテオドアの手に導かれ、ソファから立ち上がる。
私達が退席することにも気づかずに、エドワードはただ床を見つめていた。
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次回最終話です。
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