16話 第一王子への相談、私を殺そうとする動機
私はテオドアを伴わず、一人で王城の応接間に座っていた。
冷たい汗が頬を伝う。
緊張する私の目の前に、勧められるように紅茶のティーカップが置かれた。
「それで、シャーロット。私に相談したいこととは何かな?」
この国の第一王子、エドワードが対面のソファに座りながら微笑んだ。
昼下がりの陽光を浴びながら、流れるように金髪が揺れる。
「実は……。私、命を狙われているんです。そのことについて、王宮に調査して頂けないかと、ご相談に上がりました」
「この前、ブラウン子爵にも命を狙われていたじゃないか。悪女の君は、どうにも恨みを買いやすいのかな?」
「それは、私も自業自得と思っています。ですから、誠意をもって謝りたいのです。……どうして私を殺したいのかも、理由を聞いたうえで」
「殊勝な事だね。今までの悪行を、ただの謝罪で許してもらえるとでも思っているのかい? どんなに頭を下げても、過去は消えないよ」
「わかって、います……」
エドワード王子の言っていることは正論だ。
だけれども、私はそれも全て受け入れて、運命に立ち向かうと決めた。
「まあいいさ。さあ、紅茶が冷めてしまう。まずは喉を潤してくれ」
私は目の前で、湯気を立ち上らせる紅茶に視線を送る。
高級感のある、とても良い香りだ。
この紅茶の茶葉の匂いには、嗅ぎ覚えがある。
「どうしたんだい、シャーロット?」
「……ソフィ男爵令嬢も、この紅茶を淹れてくださいました。エドワード王子殿下が贈られたのでしょうか?」
「ああ、そうだね。お茶会を開くと聞いて、最高級のものを彼女に贈ったんだ」
私は紅茶に手をつけないまま、漂う芳香に体を強張らせる。
香りが豊かすぎるのだ。
別の『何か』を覆い隠せるほどに、この紅茶は香り高い。
「……なぜ、飲もうとしない?」
「申し訳ありません、今は紅茶は気分ではなくて」
「そういえば、ソフィの茶会でも、君は紅茶を飲まなかったそうだね。紅茶が嫌いなのかな?」
「いえ、そういうわけでは……」
「そうだろうね。君が高級な紅茶好きというのは、社交界では有名な話だ。では、なぜ飲まないのか……」
エドワード王子は、目を微動だにさせず、唇だけを吊り上げる。
「まるで、その紅茶に毒が入っているのを知っているかのようだね」
「…………っ!」
エドワード王子の抑揚のない言葉に、私の背筋に寒気が走った。
なおも柔らかに湯気を昇らせる紅茶から、彼へと視線を移す。
緑色の瞳は、日差しを反射して美麗に煌めいていた。
それなのに、その目の奥底には何の感情もなく、思考を読ませてくれない。
「不思議に思っていたんだ。刺客を的確に攻撃したり、王城からいきなり逃げ帰ったり……茶会を恐れるように逃げ出したり、ね」
エドワードは立ち上がり、私を氷のように冷たく見下ろす。
「身に迫る死を予見しているかのように……君は動き続けた。そして今も、紅茶に手をつけない。一応、理由を聞いてもいいかな?」
「そ、それは……」
「……言えない? まあいい。死が予見できるのなら、別のやり方があるだけだ」
エドワード王子が机を回り込み、私の座るソファの後ろに回る。
靴音だけが、室内に木霊するように響き渡った。
「日の届かない密室に幽閉する、牢獄の奥底に閉じ込める……。生きたまま死んだ人生を送らせる方法なんて、いくらでもある」
冷ややかな声が、背後から降り注いでくる。
私の予想は、最悪の形で当たってしまった。
彼こそが、私を殺そうと暗躍していた犯人だ。
唇を震わせながらも、懸命に彼へ問いただす。
「どうしてこのようなことを……? 私が、悪女だからですか!?」
「まあ、そういうことになるかな。ジェイコブから、テオドア。私の親友を誘惑する悪女を放っておけるわけないだろう。なにより……」
私の背もたれの枠へ、エドワード王子の手が置かれる。
軋む音がするほどに、その指先に力を込めて。
「私の愛するソフィ……。彼女を虐げて、今更すり寄ろうとする君など、目障りに決まっているだろう?」
怒気が込められた声音が、応接間の空気を震わせるように轟く。
「だから、私を殺そうというのですか……?」
「君が悪いんだよ。余計なことをしなければ、見逃してやっても良かったのに。……さあ、シャーロット。お喋りはここまでだ。君の身柄を衛兵に……」
エドワード王子がそう言った直後だった。
バン――ッ!
応接間の扉が勢いよく開かれ、一人の青年が飛び込むように入室した。
「エドワード……。シャーロットの言う通り、お前が犯人だったのか」
テオドアは、険しい顔のまま、私の背後に立つエドワードを苦しげに睨みつけた。





