15話 近づくテオドアとの距離、思い浮かんでしまった犯人
夜風が頬を撫で、テラスを心地よく過ぎ去っていく。
私とテオドア様は白のベンチに共に座り、ぎこちなく緊張しながらも、夜半の時間を共有していた。
「こうしていると、出会った時のことを思い出します」
「侯爵邸での捜索を見守っている時のことか?」
「はい。あの時からテオドア様は……私のことを、とても褒めてくださいましたよね」
「……そうだっただろうか?」
「はい、私の笑顔が、その、綺麗だとおっしゃって……」
当時を思い出し、その言葉を自分で言うと、こそばゆくなってしまった。
しかし私のいたたまれない様子を、テオドア様はふっと顔をほころばせて見つめる。
「それは今も変わらない事実だな。君の笑顔は月夜に負けないほど美しい」
「も、もう……。そう言われるとどう反応して良いか分かりません」
感情の色が見えるテオドア様の前では、気恥ずかしさを隠しても無駄なのだろう。
楽しげに眼差しを送ってくる彼こそ、月明かりも霞ませるほど綺麗だ。
「そういえば……。ジェイコブを捕えたあの夜会で、君は襲ってきた刺客に向かって迷いなく立ち向かったな。もしかして、あの時も死に戻っていたのか?」
「え、はい。そうですね……」
「やはり、君は命の恩人だったのだな。あの時は礼を言えなくてすまない。……ありがとう、シャーロット」
「テオドア様……。私の方こそ、いつも助けてくださって、感謝の仕方も分からないくらいです」
テオドア様は口を薄く開き、少しだけ息を飲み込む。
彼らしくない、口ごもる様子に私は首をかしげた。
「もし……礼を求めていいのなら、私のことを『テオドア』と呼んでくれないか?」
「え……?」
「敬語も使わなくていい。もっと君と近い距離で話したいんだ」
星の輝きさえのみ込むような、澄んだ青色の瞳が私に向けられる。
その熱い視線は、私だけを捉えていた。
「テ、テオドア……?」
「……ああ、シャーロット」
まだ、この呼び方に慣れないけれど、私も彼と同じ気持ちだった。
もっと気持ちを通わせて、心に触れられるくらい近くにいたい。
「ブラウン子爵のような者がいくら現れようと、君を守ってみせる。必ず、ずっと……」
テオドアの手が、私の髪を優しくすくい上げ、口付けを落とす。
くすぐったさを感じるような甘い仕草に、胸がどうしようもなく高鳴る。
「今度、エドワード……王宮へ相談しに行こうか。この際、徹底的に不穏分子を洗い上げたほうがいい」
「そう……ね。でも王宮内で何度も命を落としたし、あまり近づきたくはないわ……」
王宮では、ジェイコブに、兵士に、ブラウン子爵にも殺された。
本来なら、何度も死を経験した場所にはあまり近寄りたくない。
「あれ……」
そこまで言って、私の脳裏にある違和感がよぎる。
「シャーロット、どうしたんだ?」
「いえ……。ブラウン子爵は、どうやって王城内に、凶器を持って入城できたのかなって……」
騎士でもない限り、貴族でも王城で武器をおいそれと持ち歩けないはずだ。
王城内に、胸を刺し貫くほどの剣を持って侵入など、一個人ができるものだろうか。
「……誰かが、手引きをした……?」
その後もブラウン子爵は、私の来る場所が分かったかのように待ち伏せで殺しに来た。
そして、今回の用意周到な毒殺騒動。
王族殺しでもするかのように、巧妙にお茶会のティーカップへ毒を仕込まれた。
「こんなことをできる人って……」
頭の中に、一人の人物が思い浮かんだ。
テオドアは、表情を固くさせる私の様子をひどく心配そうに見守っている。
「……顔色が悪い。シャーロット、もしかして犯人に思い当たったのか?」
テオドアの顔を私は、おそるおそる見返す。
確証がない段階で、私の推理を突きつけていいものだろうか。
だが、だからこそ、あの人が犯人という証拠を掴まなければいけない。
「テオドア……。ごめんなさい、また私に協力してほしいの」
どうか、テオドアのためにも勘違いであって欲しい。
そのために、私はある賭けへ出ることにした。
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