14話 犯人の推測、いきなり訪れた公爵家への外泊
「お察しの通りです。招かれたお茶会の飲み物に、おそらく毒が入っていました……」
「茶会……。この前誘われていた男爵家の令嬢主催のものか?」
「そう、なのですが……」
ここまで話して、私はようやく落ち着いて思考を巡らせることができた。
私を殺そうとした犯人は、一体誰なのだろうか。
「状況的に一番怪しいのは、ソフィ男爵令嬢ではあるのですが……。けれど彼女は、犯人ではないと思うのです」
ソフィ男爵令嬢なら毒を入れられる機会はいくらでもあるが、彼女はおそらく主人公だ。
私を毒殺する理由はあっても、乙女ゲームの主人公が毒殺するなど考えにくかった。
「確かに、彼女が君に向けていた感情の色に殺意や憎しみはなかった。しかし、となると別の第三者が関与した可能性もあるな」
「お茶会を利用して、私を殺しようとする人……。やはり悪女時代の恨みでしょうか」
「そうかもしれないが、少し引っかかりを覚える。衆目の場で毒など、まるで暗殺のようだ。衝動的なものではなく……計画性を感じる」
「それは、言われてみれば……」
私に個人的な恨みがあるのなら、別の機会があったはずだ。
それなのに、わざわざ人目のあるお茶会で毒殺など、手が込みすぎていて不自然だ。
「……シャーロット、怖かっただろう。すまない、また君の身へ迫った危機に気づかなかった」
テオドア様は、憂慮を滲ませた瞳を申し訳なさそうに伏せる。
私は慌てて、首を大きく左右に振る。
「テオドア様のせいじゃないです! きっと、ただの因果応報ですから……」
彼の案じてくれる思いは嬉しいが、どうか胸を傷ませないで欲しい。
しかし、彼は包み込むような優しい目を私に向けてくれた。
「そんなこと言わないでくれ。どんな理由があろうと、人を殺そうとする奴の方が悪いに決まっている。過去がどうであろうと、今の君を見ようとしない者などに心囚われないでくれ」
「テオドア様がそう言ってくれるだけで十分です。……ありがとうございます」
テオドア様の温かな気持ちがそばにあるだけで、この先の過酷な未来にも立ち向かえる。
私は精一杯の笑みを浮かべ、胸をいっぱいにして彼を見上げた。
「シャーロット……」
テオドア様が目を細め、私の肩を掴み、胸の中に抱き寄せてくれた。
彼の熱を感じるたびに、覆い尽くそうとする死の恐怖が和らいでいく。
「……君をこのまま帰したくない。私の手の届かない場所で、危険な目に遭うなど、もう考えたくない」
「テオドア様……?」
「当面の危機が去るまでは、君を公爵家で保護する。君の実家には、私から話を通しておこう」
「え? それは、どういう……?」
「今日は、公爵家に泊まってくれ。こうなった以上、外を出歩くことも危険だ」
「え、え、ええええええ!?」
未婚の男女が、同じ屋根の下に泊まるなど、本来ならあってはならない。
何より、私の心の準備が全く、全然できていない。
「あの、その、テオドア様。いきなり、ご迷惑では……?」
「大丈夫だ。悪いが、シャーロット。君の意思を今回聞くことはできない。例え死に戻るとしても、もう二度と苦痛を君に味わわせたくないんだ」
テオドア様の腕が、私の背中に柔らかく回される。
有無を言わせないように、私をこの場に抱きとめてくれる。
けれど、決してそれは嫌な温もりではなかった。
「……、部屋は別ですよね……?」
「……っ! も、もちろんだ……。君のために特別な客間を用意させよう」
「そ、そうですよね……」
何ということを聞いてしまったのかと、顔が熱くなってしまう。
でもなぜか、心のどこかで心細さも感じていた。
「あの、テオドア様。寝る前でいいので、少し話すことはできないでしょうか……?」





