13話 毒殺の回避、テオドアの元へ
「――――!!」
生を取り戻した視界が、急に目くらみするような色彩を与える。
椅子の上で、私は崩れ落ちそうになる体を必死に支えた。
「はぁ……はぁ……!?」
心臓の鼓動に体を叩きつけられながら、私は辺りを見渡す。
ここは、ソフィに招かれたお茶会の会場だ。
こじんまりとしているが、ソフィの気遣いが感じられる温かな雰囲気に包まれている。
「どうされましたか? シャーロット様……」
私のすぐ横でお茶を注いでくれたソフィが、小首をかしげて私を覗き込む。
「い、いいえ……」
紅茶のティーカップは、何の変哲もなく湯気を立ち上らせている。
私はこの紅茶を飲んだ直後、毒を飲んだかのように血を吐いて死んだ。
おそらく、いや間違いなく、この紅茶が私の死因だろう。
アットホームなお茶会ということで、準備は全てソフィが行ったと言っていた。
私は紅茶に手を伸ばさず、彼女を振り仰ぐ。
ソフィは、なおも私の様子を困惑したように見つめていた。
「この茶葉は頂きものなのですが、とても高級なものなのだそうです。きっとシャーロット様のお口に合うと思います!」
「そ、そう……」
湯気に乗って、紅茶はうっとりするほど良い匂いがする。
だが、これを一口飲めば、私は間違いなく命を落としてしまうのだ。
「ご、ごめんなさい……何だか、体調が悪くなってしまって……! 席を外させてもらってもいいかしら……!?」
「え……!?」
ソフィは戸惑いながら、私の申告を聞いて悲しげに眉を下げる。
他に招待されていた令嬢も、突然無礼を働いた私へ当惑の眼差しを向ける。
「本当に、今日だけはダメなの……! 必ず埋め合わせをしますので、皆様楽しんでください!」
私は返答も聞かずに、男爵邸の出口に向かって、足をもつれさせながらも駆け出した。
荒くなる息を吐き出しながら、自分の置かれた状況を一生懸命考え抜く。
(何で、どうしてまた毒殺!? まだ……私を殺したい人がいるというの!?)
まるで、振り出しに戻ってしまったかのような、恐ろしい現実が横たわっている。
焦燥にかられながら、人にぶつかることを厭わず、街中をとにかく走った。
(とにかく、この事態を……テオドア様に聞いてもらいたい。公爵邸に急がなくちゃ……!)
ここから公爵邸は、そこまで遠くはない。
私は秘密の共有者であるテオドア様の元へ、この事実を相談しようと足を速めた。
「あ……!」
公爵邸の門前に到着すると、そこには馬車の前に二人の青年が佇んでいた。
一人はテオドア様、そしてもう一人は穏やかな笑顔を浮かべたエドワード王子だった。
私が息を切らして近づいてくると、二人は驚いたように視線を向けた。
「シャーロット……? なぜ、ここにいるんだ?」
エドワード王子が訝しげに眉をひそめる。
テオドア様は私の様子を見ると、何かを察したように目を見開いた。
「……すまない、エドワード。シャーロットと約束があったのを忘れていた。今日はこれで失礼する」
「そうか、分かったよ。また今度ゆっくり話そう」
エドワードは肩をすくめると、停車していた馬車へ乗り込んでいった。
その背中を見送り、扉が閉じた瞬間。
テオドア様が私の元へ、慌てたように走り寄った。
「シャーロット。……何かあったんだな」
「は、はい……。エドワード王子とのご用事中に、大変申し訳ありません……」
「いや、気にしなくていい。エドワードは公務の途中で、たまたま寄ってくれただけだ。……それよりも、君の話が聞きたい。一旦公爵邸に入ろう」
「ありがとうございます……」
私の肩を抱き寄せながら、テオドア様は公爵邸へ促すように足を進めた。
公爵邸の応接間に案内され、扉が閉じた直後。
テオドア様は、私の顔を覗き込みながら、緊張した面持ちで尋ねる。
「また……死に戻ったのか?」





