↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人の尻拭いばかりしていた俺、江戸風異世界で「すべて」が見えるようになったので、二度目の人生は好きに生きる  作者: 若松あ太郎
第一章 花街で始める二度目の人生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/54

第26話 隠せても、遠くまでは行けない

 荷継ぎ場を出た荷車を、片端から追うつもりはなかった。


 今朝ここを出た便は、もう幌を外している。木箱と薪を載せ、御者まで替えていた。


 同じような荷車は街道をいくらでも走っている。


 見た目だけを頼りに追えば、相手の思う壺だった。


 恒一郎は荷継ぎ場へ戻ると、先ほど荷車に木箱を積んでいた男を呼び止めた。


「今朝ここを出た荷について聞きたい」


「今朝?」


「同じように、木箱と薪を積んで出た荷車だ」


 男は少し考えてから、顎を西へ向けた。


「ああ。あれなら朝のうちに出たぞ」


「どこまで行くと言っていた?」


「さあな。そこまでは聞いてねえ。俺らは来た荷を回すだけだからな」


 やはり、ここから先の行き先までは知らされていないらしい。


「馬もここで替えるのか?」


「荷による。今朝のは替えてねえよ」


「そのまま?」


「ああ。俺なら替えるけどな。だいぶ走らされた馬だったぞ」


 男は荷継ぎ場の外へ目を向けた。


「それでも急ぐっていうから、そのまま出した」


 恒一郎の目がわずかに細くなった。


 御者は替えた。


 幌も外した。


 荷まで積み替えた。


 だが、馬は替えていない。


 馬を替えるには別の手配が要る。関わる人間も増える。


「西へ行けば、次に馬を休ませられるのはどこだ?」


「そりゃ何か所かある」


「宿場以外でいい。水を飲ませて、脚を休ませられるところだ」


 男は少し考えた。


「街道沿いなら柳井の井戸だな。もう少し先なら坂下の集落にも水場がある。その先まで行けば次の宿だ」


「今朝の馬で、そこまで行けると思うか?」


「次の宿までか?」


「ああ」


 男は首を振った。


「無茶すりゃ行けるかもしれんが、俺ならやらん。途中で潰れたら荷まで止まる」


「助かった」


「なんだ、荷でも盗まれたのか?」


「似たようなものだ」


 男が怪訝な顔をしたが、恒一郎はもう歩き出していた。


 朝にここを出た。


 疲れた馬を替えず、そのまま西へ向かった。


 なら、どこかで馬を休ませる必要がある。


 恒一郎は街道を西へ進んだ。


 白波宿の周辺ほどではないが、人の往来はある。荷車も旅人も途切れない。


 一本道を進むうち、道の脇には畑が増え、人家がぽつぽつと見え始めた。


 畑仕事を終えようとしていた老人へ、恒一郎は声をかけた。


「少し聞いてもいいか」


「なんだい」


「今朝、木箱と薪を積んだ荷車が通らなかったか」


 老人は鍬を地面へ立てた。


「ああ。馬がえらくへばってたやつか」


「それだ。どちらへ行った?」


「坂下までは行ってねえ」


 恒一郎の足が止まった。


「途中で曲がったのか」


「曲がったってほどでもねえよ。少し先に細い道があるだろ」


 老人が街道の先を指差す。


「昔は茶屋が一軒あったんだ。今じゃ商売はしとらんが、その裏へ荷車が入っていった」


「出てきたところは見たか?」


「いや。少なくとも、昼までは見てねえな」


 恒一郎は礼を言った。


 坂下まで行けば、人家も水場もある。


 だが、目撃された荷車はその手前で街道を外れている。


 行き先は、ほぼ絞れた。


 恒一郎は老人が示した道へ向かった。


 左右から草の迫る細道だったが、荷車一台なら通れる幅は残っていた。


 恒一郎は歩みを緩める。


 ここまで来れば、車輪跡を追い続ける必要はない。


 確かめればいい。


 細道を進むと、木立の向こうに古い建物の屋根が見えた。


 街道側には、朽ちかけた庇が残っている。


 その裏手に馬が一頭いた。


 首を低くし、水桶へ口をつけている。


 離れた位置から分かるのはそこまでだった。


 恒一郎は木立を使って近づいた。


 建物の裏に荷車が止まっている。


 幌はない。


 荷台には木箱が二つと、束ねた薪。


 荷継ぎ場で積んでいたものと同じ組み合わせだった。


 今朝の便である可能性は高い。


 恒一郎は建物へ目を移した。


 裏口の近くに男が一人いる。


 もう一人が水桶を抱え、建物の中へ入っていった。


 しばらくして、戸口の奥で小柄な人影が動いた。


 男ではない。


 恒一郎はさらに位置を変えた。


 古い板戸の隙間から、建物の中が一部だけ見える。


 床に敷かれた薄い敷物。


 壁際に座る若い娘。


 その奥にも、もう一人いる。


 手前の娘は俯いていた。


 髪が顔にかかり、ここからでは顔立ちまでは分からない。


 年頃は、お絹と大きく違わない。


 娘がゆっくり顔を上げる。


 唇が動いた。


 声までは届かない。


 お絹かどうかは、まだ分からない。


 だが、ここまで運ばれた娘がいる。


 探していた流れの先に、この場所があることは間違いない。


 十分だった。


 恒一郎は静かに刀の位置を確かめた。


 もう、追う必要はない。


 辿り着いた。


 今度は、連れ帰る番だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。