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『三法師ですが、羽柴秀信にはなりません! ~史実を知る三歳児、織田家を残すために大名たちとお話しします~』  作者: ほまれ


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第八話 清洲へ

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

 俺は秀吉に連れられて大坂にいた。

 地図を眺める。

 尾張。

 三河。

 美濃。

 そして。

 その東。

 北。

「……次は」

 俺は。

 指を動かした。

「上杉」

 さらに。

「北条」

 長秀が。

 俺の指先を追う。

「上杉景勝殿と、北条氏政殿ですか?」

「うん」

「なぜ、この二家を?」

 俺は。

 少し考えた。

「秀吉と家康」

「はい」

「二人とも強い」

「……」

「だから」

 俺は。

 地図の上杉と北条を指差した。

「この二人も必要」

 長秀は。

 しばらく黙っていた。

「なるほど……」

 やがて。

「しかし、いかにして?」

 俺は。

 少し考えた。

 そして。

 一つの方法を思いついた。

     *

「秀吉さん」

「はい、三法師様」

「ぼく」

「はい」

「全国の大名に挨拶したい」

 秀吉は。

 目を丸くした。

「全国の大名に?」

「うん」

「織田家の当主として?」

「うん」

 秀吉の顔が。

 すぐに笑顔になった。

「それは良いお考えです!」

 秀吉にとっても。

 悪い話ではない。

 織田家の嫡流である三法師を。

 自分が保護している。

 その姿を全国の大名に見せられる。

 自分の権威を示す絶好の機会だ。

「では、この大坂に呼びましょう」

 俺は。

 頷いた。

 全国の大名へ。

 招待状が送られた。

 織田家当主。

 三法師からの挨拶。

 それを。

 秀吉が後押しする。

 大名たちも。

 無視するわけにはいかない。

 秀吉の呼びかけに応じて。

 筒井順慶。

 細川忠興。

 堀秀政。

 蒲生氏郷。

 蜂須賀正勝。

 黒田官兵衛。

 その他にも。

 秀吉の配下や。

 縁のある大名たちが。

 まばらに大坂へやって来た。

 三法師の前で頭を下げていく。

 俺も。

 そのたびに。

 小さく頭を下げた。

 こうして見ると。

 秀吉の勢力が。

 思っていた以上に大きくなっていることが分かる。

 俺は。

 その光景を眺めながら。

 少しだけ不安になった。

     *

 そんな中。

「徳川家康殿がお見えです」

「……何?」

 秀吉の顔が。

 明らかに変わった。

「家康?」

 俺も。

 思わず声を漏らす。

 今。

 小牧・長久手で。

 まさに戦っている相手だ。

 その徳川家康が。

 ここへ来た?

「お通しせよ」

 秀吉が。

 少し考えてから言った。

 やがて。

 一人の男が。

 静かに入ってきた。

     *

「徳川家康にございます」

 家康は。

 俺たちの前で頭を下げた。

 俺は。

 じっと家康を見る。

 本当に。

 家康だ。

 前世の俺が知っている。

 後に天下を取る男。

 そして。

 俺の人生を終わらせる男。

 その本人が。

 今。

 目の前にいる。

「家康殿」

 秀吉が言った。

「今は戦の最中ではありませんでしたかな?」

「はい」

 家康は。

 あっさり答えた。

「その通りにございます」

「では、なぜ?」

「三法師様を」

 家康は。

 俺を見る。

「一度、拝見したく」

「……俺を?」

 思わず。

 素で聞いてしまった。

「はい」

 家康は。

 静かに頷いた。

     *

 俺は。

 家康の顔を見た。

 何を考えている?

 わざわざ。

 戦争中に。

 ここまで来て。

 俺を見に来た?

 秀吉も。

 少し怪訝そうにしている。

「それで」

 俺は。

 聞いてみた。

「俺を見て。

 どう思った?」

 家康の目が。

 少し細くなる。

 そして。

「思っていたより」

 一拍。

「小さい」

「……」

 俺は。

 固まった。

 家康は。

 続ける。

「このように小さなお体で。

 よくやっておられる」

「……」

 秀吉の顔が。

 一瞬で険しくなった。

「家康殿!」

 声が響く。

「三法師様に対して、小さいとは何事ですか!」

「秀吉さん」

「はい!」

「いいよ」

 俺は。

 秀吉を止めた。

「本当だし」

「しかし!」

 秀吉は。

 まだ納得していない。

 俺は。

 家康を見る。

     *

 小さい。

 確かに。

 俺は小さい。

 三歳なのだから。

 でも。

 問題はそこじゃない。

 家康は。

 何を見に来た?

 俺の顔?

 俺の身体?

 それとも。

 俺の周りにいる人間?

 丹羽長秀。

 滝川一益。

 前田利家。

 長谷川秀一。

 福富秀勝。

 前田玄以。

 佐々行政。

 矢部家定。

 そして。

 この先。

 俺が接触しようとしている上杉と北条。

「……まさか」

 俺は。

 内心で冷や汗をかいた。

 どこまで。

 バレている?

 俺が。

 織田家を残すために。

 仲間を集めていること。

 それを。

 家康は。

 どこまで知っている?

 家康は。

 そんな俺の内心など知らないように。

 穏やかに笑った。

     *

「では」

 家康は。

 立ち上がった。

「また」

 俺を見る。

「今度は。

 戦場ですかな」

「……」

 俺は。

 答えられなかった。

 家康は。

 それだけ言うと。

 静かに頭を下げた。

「失礼いたします」

 そして。

 何事もなかったように。

 部屋を出ていった。

     *

 俺は。

 その背中を。

 じっと見送った。

「……怖い」

 思わず。

 呟く。

「三法師様?」

 長秀が。

 こちらを見る。

「なんでもない」

 俺は。

 首を振った。

 ただ。

 一つだけ。

 はっきり分かった。

 徳川家康は。

 俺を。

 見に来た。

 それだけだ。

 それだけなのに。

 妙に。

 胸騒ぎがした。


 俺が本当に呼びたい二人は。

 簡単には来なかった。

「上杉景勝殿から返事がございました」

 長谷川秀一が。

 書状を持ってきた。

「何て?」

「出席は難しい、と」

「北条さんは?」

「氏政殿も同様です」

「……やっぱり」

 俺は。

 少し考えた。

 二人とも。

 秀吉を警戒している。

 当然だ。

 秀吉の勢力が大きくなっている今。

 秀吉主催の会合に出れば。

 秀吉への臣従と受け取られる可能性がある。

 なら。

 俺が別の理由を作ればいい。

     *

「もう一通、書く」

 俺は言った。

「上杉さんと北条さんに」

 長秀が。

 筆を構える。

「何と?」

「秀吉さんへの挨拶じゃない」

「はい」

「織田のこれからについて話したい」

 長秀が。

 少し目を細めた。

「それを前面に出すのでございますか?」

「うん」

「それでは、秀吉殿の御意向と食い違うのでは?」

「だから」

 俺は。

 笑った。

「別に嘘じゃない」

「……」

「本当に話したいから」

 長秀は。

 一瞬黙ってから。

「確かに」

 と頷いた。

     *

 書状には。

 こう記した。

『上杉景勝殿。

 北条氏政殿。

 大阪へお越しいただきたい。

 秀吉殿への挨拶だけが目的ではありません。

 織田家のこれからについて。

 丹羽長秀、滝川一益、前田利家とともに相談したいことがあります。

 話だけでも。

 お聞きいただければ幸いです。

 三法師』

     *

 返事は。

 すぐには来なかった。

 一日。

 二日。

 三日。

 俺は。

 落ち着かなかった。

 そして。

 ようやく。

 一通目が届いた。

「上杉景勝殿より」

 長谷川秀一が読み上げる。

「『話を伺うだけであれば、参上いたしましょう』」

「……来る!」

 俺は。

 思わず声を上げた。

 続いて。

 もう一通。

「北条氏政殿より」

「はい!」

「『織田家の今後についての相談とのこと、話を聞きに参ります』」

 俺は。

 拳を握った。

「よし!」

     *

 そして。

 清洲。

 上杉景勝。

 北条氏政。

 二人が。

 同じ場所に揃った。

     *

 景勝は。

 静かだった。

 氏政は。

 周囲を警戒していた。

 当然だ。

 ここは。

 秀吉の影響下にある場所。

 二人にとって。

 決して安心できる場所ではない。

 そこへ。

 三歳の俺が入っていく。

「景勝さん」

「……三法師様」

「氏政さん」

「は」

 二人が。

 頭を下げる。

 俺も。

 小さく頭を下げた。

     *

「今日は来てくれてありがとう。」

 俺は。

 ゆっくり話し始めた。

 二人が。

 俺を見る。

「……」

 景勝が。

 口を開いた。

「三法師様。

 我らに何をお求めですか?」

「仲間」

「……」

 いきなりだった。

 氏政が。

 少し眉を動かした。

「仲間、ですか」

「うん」

「何のために?」

「織田を残すため」

     *

 俺は。

 地図を広げた。

「ここ」

 尾張を指す。

「織田」

「ここ」

 北条を指す。

「北条」

「ここ」

 上杉を指す。

「上杉」

 そして。

 秀吉。

 家康。

 二つの勢力を指す。

「秀吉」

「徳川」

 二人を見る。

「強い」

 景勝も。

 氏政も。

 黙っている。

「秀吉が家康に勝ったら」

 俺は。

 秀吉を指した。

「もっと強くなる」

「家康が秀吉に勝ったら」

 今度は。

 家康を指す。

「もっと強くなる」

「そうなったら」

 俺は。

 地図を見渡した。

「誰が止めるの?」

 答えは。

 返ってこなかった。

     *

「上杉さん」

「はい」

「上杉も大変」

 景勝が。

 少し驚いた顔をする。

「北条さん」

「はい」

「北条も大変」

「……」

「でも」

 俺は。

 二人を見る。

「今。

 上杉と北条がけんかしてる」

 景勝と氏政。

 二人の視線が交わる。

「今、それやる?」

「……」

「秀吉と家康がいるのに」

 俺は。

 少し身を乗り出した。

「関東のこと、取り合ってる場合?」

 氏政の顔が。

 わずかに険しくなる。

「三法師様。

 北条にも事情がございます」

「うん」

「上杉にも事情が」

 景勝が続ける。

「承知しています」

 俺は頷いた。

「でも」

 俺は。

 二人を見た。

「全部取られたら」

「……」

「上杉も」

「……」

「北条も」

「……」

「織田も」

 俺は。

 小さな手を握った。

「なくなるよ」

 そして。

「そんなこと」

 俺は。

 二人をまっすぐ見た。

「三歳のぼくでも分かるよ」

     *

 部屋が。

 静まり返った。

 長秀も。

 滝川も。

 利家も。

 誰も口を挟まなかった。

 これは。

 三法師自身の言葉だからだ。

     *

 最初に。

 口を開いたのは。

 上杉景勝だった。

「三法師様」

「はい」

「天下を。

 お望みなのですか?」

「いらない」

 即答だった。

「では。

 何をお望みです?」

「織田」

 俺は。

 答えた。

「織田を残したい」

 景勝は。

 俺を見つめた。

「上杉さんは」

「はい」

「上杉を残す」

「……」

「北条さんは」

「はい」

「北条を残す」

 そして。

「だから」

 俺は。

 二人に言った。

「三人で残る」

     *

 景勝は。

 長い間。

 黙っていた。

 やがて。

 ゆっくりと頭を下げる。

「……三法師様」

「はい」

「上杉景勝。

 その御考えに。

 賛同いたします」

 氏政が。

 景勝を見る。

 そして。

 三法師を見る。

「北条も」

 氏政も。

 頭を下げた。

「異存ございません」

 俺は。

 思わず笑った。

「ほんと?」

「はい」

「ほんとに?」

「はい」

 俺は。

 小さな拳を握った。

「よし!」

     *

 その日。

 清洲にて。

 三法師は。

 新しい二人の仲間を得た。

 上杉景勝。

 北条氏政。

 丹羽長秀。

 滝川一益。

 前田利家。

 そして。

 長谷川秀一。

 前田玄以。

 福富秀勝。

 矢部家定。

 佐々行政。

 織田家を残すため。

 少しずつ集めてきた人々。

 そこへ。

 上杉と北条が加わった。

     *

 俺は。

 清洲の外を眺めた。

 まだ。

 何も終わっていない。

 秀吉は強い。

 家康も強い。

 俺自身は。

 三歳。

 領地も。

 軍勢も。

 ない。

 それでも。

 今日。

 一つだけ。

 歴史が変わった。

「……仲間」

 俺は。

 小さく呟いた。

 そして。

 隣に立つ長秀を見上げた。

「丹羽さん」

「はい」

「これで」

 俺は。

 笑った。

「ちょっとだけ、勝てる?」

 長秀は。

 苦笑しながら。

 頭を下げた。

「三法師様」

「うん」

「まだまだ、これからでございます」

 俺は。

 清洲の空を見上げた。

 まだ。

 俺の知らない未来が。

 いくつも待っている。

 けれど。

 もう。

 一人ではない。

 織田家を残すための戦いは。

 ようやく。

 始まったばかりだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

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