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『三法師ですが、羽柴秀信にはなりません! ~史実を知る三歳児、織田家を残すために大名たちとお話しします~』  作者: ほまれ


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7/15

第七話 信長の孫として

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。


 そして。

 三法師の人脈作りは。

 ここからさらに大きな賭けへと進んでいく。

 俺が。

 次に名前を挙げたのは。

 柴田勝家だった。

     *

「柴田勝家殿……ですか?」

 長秀が。

 思わず聞き返した。

「うん」

「三法師様」

 長秀は少し困った顔をした。

「勝家殿は、滝川殿とはわけが違いますぞ」

「うん」

「織田家への忠義は、誰よりも強い御方です」

「だから」

 俺は答えた。

「会いたい」

「……」

「勝家さんに」

 長秀は。

 しばらく俺を見ていた。

「何をお話しになるおつもりですか?」

「織田を残す」

「……」

「それだけ」

 長秀は。

 小さく息を吐いた。

「承知いたしました」

     *

 柴田勝家との対面は。

 思っていた以上に緊張した。

 俺の目の前にいるのは。

 信長に長く仕えた男。

 織田家のために戦い続けてきた男。

 そして。

 俺の知る歴史では。

 これから秀吉と天下を争う男だった。

 勝家は。

 俺の前に座ると。

 じっと俺を見た。

「三法師様」

「はい」

「儂に何用でございますか」

「勝家さん」

「はい」

「織田を残して」

 勝家の眉が動いた。

「……」

「秀吉、強くなる」

「三法師様」

「勝家さんも、強くないと」

「……」

「織田、なくなる」

 勝家は。

 しばらく黙っていた。

 そして。

「三法師様」

「はい」

「大人の戦に、幼子が口を出すものではございませぬ」

 静かな声だった。

「織田家のことは、儂らが考えます」

「……」

「どうか、お心を煩わせませぬよう」

 勝家は。

 それ以上、俺の話を聞こうとはしなかった。

     *

 俺は。

 何も言えなかった。

 悔しかった。

 滝川一益の時とは違う。

 勝家には。

 俺の言葉なんて必要ない。

 俺よりも。

 ずっと織田家を知っている。

 ずっと信長に仕えている。

 だから。

 俺は。

 勝家の前ではただの三歳児だった。

     *

 だが。

 俺は諦めなかった。

 勝家を仲間にできなくても。

 勝家が織田家を大切にしていることだけは分かった。

 なら。

 そこを諦める必要はない。

「長秀さん」

「はい」

「勝家さんに手紙書く」

「また、でございますか?」

「うん」

「何と?」

 俺は考えた。

「織田を残してって」

 長秀は。

 苦笑した。

「三法師様は、本当にそれがお好きですな」

「大事だから」

「……御意」

     *

 それから。

 俺は何度も勝家へ手紙を送った。

 長秀に文章を整えてもらう。

 最後には。

 俺が署名する。

『三法師』

 震えた文字。

 それでも。

 俺の名前だった。

 返事は。

 ほとんど来なかった。

     *

 やがて。

 賤ヶ岳の戦いが始まった。

 秀吉と勝家。

 織田家の主導権を巡る戦い。

 俺は。

 戦況を聞くたびに地図を見る。

 勝家が押している。

 秀吉が押し返す。

 戦場は。

 俺のいる場所からは遠い。

 俺には。

 兵もない。

 戦うこともできない。

 だから。

 ただ。

 人に頼るしかなかった。

     *

 そして。

 一人の名前が。

 俺の頭に浮かんだ。

「前田利家」

「……利家殿ですか?」

「うん」

 長秀が。

 頷く。

「勝家殿の与力として、戦場におります」

「知ってる」

「では、なぜ?」

 俺は。

 前世の記憶を探った。

 前田利家。

 賤ヶ岳。

 秀吉。

 撤退。

 そして。

 その後。

 豊臣政権で大きな力を持つ。

 俺の知っている歴史では。

 ここで利家は秀吉側へ傾いていく。

「前田さん」

 俺は言った。

「失いたくない」

「織田家のために?」

「うん」

 長秀は。

 すぐに理解した。

     *

 俺は。

 勝家へ手紙を書いた。

『勝家様。

 前田利家をお助けください。

 利家は織田家に必要です。

 三法師』

 送った。

 返事は。

 来ない。

     *

 また書いた。

『勝家様。

 前田利家を失わないでください。

 織田家には、利家が必要です』

 また送った。

 返事はない。

 それでも。

 書いた。

 三通。

 四通。

 五通。

 長秀が。

 少し心配そうに俺を見る。

「三法師様」

「なに?」

「勝家殿は、今は戦の最中です」

「うん」

「これほど頻繁に書状を送られても……」

「でも」

 俺は。

 筆を握った。

「まだ、間に合うかもしれない」

 長秀は。

 何も言わなかった。

     *

 そして。

 戦況が動いた。

「三法師様」

 長谷川秀一が。

 慌てて部屋へ入ってきた。

「羽柴勢が優勢になっております」

「……」

「勝家様の軍勢が、苦境に」

 俺は。

 地図を見る。

 賤ヶ岳。

 北ノ庄。

 前田利家。

 頭の中で。

 前世の記憶がつながっていく。

「まずい」

「はい」

「利家さん」

 俺は。

 立ち上がった。

「もう一度、勝家さんに書く」

     *

 その夜。

 俺は。

 いつもより長く考えた。

 どうすれば。

 勝家は俺の言葉を聞くのか。

 普通にお願いしても駄目だった。

 織田家を残してほしいと言っても。

 聞いてもらえなかった。

 なら。

 俺にしか言えないことを。

 言うしかない。

     *

「長秀さん」

「はい」

「今度の手紙」

「はい」

「俺の言葉を、そのまま書いて」

「承知しました」

 俺は。

 ゆっくり話した。

「俺は。

 まだ小さいから。

 戦のことは分からない」

 長秀は筆を動かす。

「でも」

「はい」

「前田さんは。

 織田の人」

「……」

「勝家さんも。

 織田の人」

「はい」

「だから。

 勝ったとか負けたとかじゃなくて」

 俺は。

 言葉を探した。

「最後まで。

 織田の人を守ってほしい」

 長秀の筆が。

 止まった。

「そして」

 俺は続けた。

「信長おじいちゃんだったら」

「……」

「どうするかな」

 長秀は。

 しばらく黙っていた。

「三法師様」

「うん」

「それを、そのまま書いてよろしいのですか?」

「うん」

「勝家殿に?」

「うん」

 長秀は。

 静かに筆を動かした。

     *

 完成した書状には。

 こう記された。

『柴田勝家様。

 三法師です。

 私はまだ幼く、戦のことはよく分かりません。

 ですが。

 前田利家が織田家に必要な人であることは分かります。

 勝家様も、利家も、織田家のために戦ってきた人です。

 どうか。

 前田利家をお助けください。

 信長公ならば。

 織田家のために働いてきた家臣を、最後までお見捨てにはならないと思います。

 三法師』

     *

 その手紙が。

 勝家のもとへ届いた。

     *

「……三法師様から?」

 勝家は。

 手紙を受け取った。

 開く。

 読む。

 そして。

 もう一度読む。

「信長公ならば……か」

 勝家は。

 目を閉じた。

 脳裏に。

 かつての主君の姿が浮かぶ。

 信長。

 自分が仕えた男。

 自分が畏れ。

 自分が敬い。

 そして。

 最後まで忠誠を捧げた主君。

「三法師様……」

 勝家は。

 小さく呟いた。

 三歳の幼子が。

 自分に。

 織田家の忠義を説いている。

 滑稽な話のはずだった。

 だが。

 笑えなかった。

     *

 勝家は。

 前田利家を呼んだ。

「勝家様」

「利家」

「はっ」

「お前は」

 勝家は。

 一度言葉を止めた。

「三法師様のもとへ行け」

「……私が?」

「そうだ」

 利家は。

 驚いた。

「しかし」

「儂は。

 お前を責めぬ」

「勝家様……」

「生きろ」

 その一言だった。

 勝家は。

 三法師から届いた書状を。

 利家へ渡した。

「これを読め」

 利家は。

 書状を開く。

 幼い筆跡。

 その最後に。

『三法師』

 とある。

「……三法師様が」

「お前を必要としている」

 勝家は言った。

「織田家を残すために」

 利家は。

 しばらく書状を見つめていた。

 そして。

 深く頭を下げた。

「承知いたしました」

「利家」

「はい」

「三法師様を頼む」

「……」

「儂に代わって。

 あの御方をお守りせよ」

 利家は。

 拳を握った。

「この命に代えましても」

     *

 その報せが。

 俺のもとへ届いた。

「三法師様」

 長秀が。

 静かに頭を下げる。

「前田利家殿。

 三法師様のもとへ参るとのことです」

「……ほんと?」

「はい」

 俺は。

 しばらく黙っていた。

 そして。

「勝家さんは?」

 長秀は。

 答えなかった。

 それだけで。

 分かった。

「……そっか」

 俺は。

 俯いた。

 勝家を。

 仲間にはできなかった。

 でも。

 勝家は。

 最後に一人。

 俺のもとへ託してくれた。

     *

 俺は。

 小さな手を握った。

「勝家さん」

 届かないと分かっていても。

 呟く。

「ありがとう」

 そして。

 もう一度。

 手紙を見る。

 その中には。

 俺が初めて救えた。

 一人の織田家臣の名前があった。

 前田利家。

 後に。

 俺の大きな支えとなる男。

 そして。

 この時。

 俺はまだ知らなかった。

 柴田勝家が残したこの一本の縁が。

 後の俺の人生を。

 大きく変えることになるとは。

     *

 だが。

 俺は。

 まだ三歳だった。

 そして。

 秀吉は。

 勝った。

 賤ヶ岳の戦いを終え。

 秀吉の勢力は。

 さらに大きくなった。

 でも。

 俺の周りには。

 少しずつ人が増えていった。

 丹羽長秀。

 長谷川秀一。

 福富秀勝。

 前田玄以。

 佐々行政。

 矢部家定。

 そして。

 滝川一益。

 前田利家。

 八人。

 俺のために。

 織田家のために。

 力を貸してくれる人たちだった。

     *

 俺は。

 少し浮かれていた。

 だって。

 前世で知っていた歴史と。

 今、俺の目の前にある現実が。

 少しずつ違い始めている。

 滝川一益。

 前田利家。

 本来なら。

 俺が知っている歴史とは違う立場にいるはずの二人が。

 今は。

 俺の側にいる。

「……もしかして」

 俺は。

 小さな拳を握った。

「歴史、変えられるかも」

 その言葉を。

 長秀は黙って聞いていた。

 だが。

 俺は。

 まだ知らなかった。

     *

「三法師様!」

 突然。

 長谷川秀一が駆け込んできた。

「どうしたの?」

「急ぎの知らせがございます」

「何?」

 長谷川は。

 一度息を整えてから。

 告げた。

「織田信雄様が」

「……」

「徳川家康殿と手を組み」

 俺の顔から。

 笑みが消えた。

「羽柴秀吉殿と対立されたとのことです」

「……」

「小牧・長久手にて。

 戦が始まった模様です」

 俺は。

 しばらく何も言えなかった。

     *

 小牧・長久手。

 信雄と家康。

 秀吉。

 俺が知っている歴史。

 そのままだった。

「……まだ」

 俺は。

 小さく呟いた。

「変わってない」

 長秀が。

 俺を見る。

「三法師様?」

 俺は。

 地図へ目を向けた。

 賤ヶ岳で。

 利家は俺の側に来た。

 滝川も。

 俺の側にいる。

 それでも。

 歴史の大きな流れは。

 まだ変わっていない。

 なら。

 もっと動かなければならない。

     *

 俺は。

 地図を広げた。

 尾張。

 三河。

 美濃。

 そして。

 さらに東。

 北。

 そこに。

 まだ俺の手が届いていない場所がある。

「……次は」

 俺は。

 地図を指でなぞった。

「どうする?」

 まだ。

 答えは出ていない。

 でも。

 一つだけ。

 決まっていた。

 俺は。

 もう。

 歴史に流されるつもりはなかった。

「次の一手を」

 考えよう。

 俺は。

 地図を見つめ続けた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

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