第十四話 最後の一手
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是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
関ヶ原。
その名を聞いた時。
俺は。
西軍につくか。
東軍につくか。
ずっと考えていた。
*
史実なら。
俺は西軍。
そして。
敗れる。
その後。
流罪となり。
1605年。
死ぬ。
*
あと五年。
俺には。
妻がいる。
子供もいる。
家臣もいる。
織田家も。
まだ残っている。
*
それを。
全部。
戦で失うのか。
*
いや。
俺は。
もう。
歴史に決められた未来を。
ただ繰り返すつもりはなかった。
*
「長秀さん」
「はい」
「家康さんのところへ行こう」
*
長秀が。
一瞬。
黙った。
「徳川殿のもとへ?」
「うん」
「敵陣へ?」
「うん」
「……何をなされるおつもりですか?」
俺は。
笑った。
「話をする」
*
集めた。
織田の軍勢。
前田軍。
上杉軍。
伊達軍。
真田の兵。
そして。
北条の旧臣たち。
*
これまで。
俺が。
何年もかけて。
作ってきた。
人脈。
同盟。
信頼。
*
その軍勢を。
俺は。
家康のもとへ向けた。
*
途中。
徳川の軍勢が。
俺たちの進路を塞いだ。
*
「止まれ!」
徳川方の将が。
声を張り上げる。
「これ以上進めば。
敵と見なす!」
*
俺は。
馬上から。
その軍勢を見た。
「……どうする?」
隣にいる。
前田慶次が。
ニヤリと笑う。
「どうするって?」
「うん」
「蹴散らせばいいんじゃねえか?」
*
その目が。
妙に。
楽しそうだった。
*
反対側では。
風魔小太郎が。
静かに笑っている。
「これはまた。
随分と大勢集まりましたな」
「小太郎」
「はい」
「楽しそうだね」
「ええ。
こういう大事は。
嫌いではございません」
*
俺は。
ため息をついた。
「戦うために来たわけじゃないんだけど」
「それは存じております」
小太郎が。
楽しそうに答える。
「ですが。
向こうが止めてくるなら。
仕方ありますまい」
*
結局。
徳川勢は。
俺たちを。
止められなかった。
*
織田。
前田。
上杉。
伊達。
真田。
北条。
それぞれの軍勢が。
まるで。
一つの巨大な塊のように。
徳川陣へ。
押し寄せていく。
*
そして。
俺たちは。
家康のもとへ。
辿り着いた。
*
「……これはまた」
家康が。
俺たちを見て。
苦笑した。
「随分と大勢でございますな」
「うん」
「加勢に来られたのですか?」
「違うよ」
「では」
家康の目が。
細くなる。
「かつての約定を破棄し。
徳川を討ちに参られた?」
「それも違う」
「では?」
「話をしに来た」
*
家康が。
しばらく。
俺を見る。
そして。
「……またですか」
「うん」
「三法師様の話は。
いつも怖い」
*
俺は。
少し笑った。
「それは。
家康さんが。
自分に非があるって。
思ってるからじゃない?」
*
家康が。
一瞬。
黙った。
そして。
「耳が痛いですな」
そう言って。
笑った。
*
俺も。
笑った。
「今日は。
もう一つ。
サプライズを用意してるよ」
「サプライズ?」
「うん」
俺は。
楽しそうに言った。
「楽しみにしてて」
*
家康は。
しばらく俺を見た。
そして。
「……それは。
また恐ろしいことで」
苦笑する。
「では。
まず飯でも食いますか」
「いいね」
*
戦場の真ん中。
敵味方が。
まだ完全には。
決まっていない。
そんな場所で。
俺たちは。
家康と。
飯を食った。
*
慶次は。
酒を飲みながら。
周囲を眺めている。
「なあ。
小太郎」
「何でしょう?」
「戦になると思って来たんだが」
「私もです」
「飯食って終わりって。
つまらねえな」
「……そうですな」
二人とも。
少し残念そうだった。
*
俺は。
思わず笑った。
「二人とも。
戦好きすぎない?」
「三法師様」
慶次が。
笑う。
「戦は嫌いじゃねえが。
こういう方が面白い」
「そう?」
「はい」
小太郎も。
静かに頷いた。
*
その時。
「申し上げます!」
徳川陣から。
一人の急使が。
駆け込んできた。
*
急使は。
俺たちを見た。
そして。
家康を見る。
明らかに。
言っていいものか。
迷っている。
*
家康が。
それに気づく。
「どうした?」
「は……」
「申してみよ」
「しかし……」
「構わぬ」
家康が。
俺を見る。
「どうせ。
この御方の仕業でしょう」
*
俺は。
笑った。
「まだ何も言ってないよ」
「だからこそ。
怖いのです」
*
急使が。
覚悟を決める。
「石田三成殿より。
申し入れがございます!」
*
家康の。
箸が。
止まった。
*
「三成から?」
「はい!」
「何と?」
「和解を望むとのことにございます!」
*
しばらく。
沈黙。
*
やがて。
家康が。
ゆっくり。
笑った。
「……今度は。
どんな手を使ったのですかな?」
*
俺は。
何でもないことのように。
答えた。
「黒田さんと。
加藤さん。
それから福島さんに」
「はい」
「九州や四国の人たちと。
石田さんと。
話をしてもらった」
*
家康が。
俺を見る。
「それにしては。
早すぎると思いますが」
「そう?」
「はい」
家康は。
穏やかに笑う。
「いつからお願いしていたのです?」
*
俺は。
少し考えた。
「いつからだっけ?」
「……」
「たしか」
俺は。
何気なく。
答えた。
「前田さんが亡くなった時かな」
*
家康の。
笑顔が。
消えた。
*
「……」
家康は。
しばらく。
俯いた。
*
「そんな前からですか」
小さな。
落胆した声だった。
*
やがて。
家康が。
ゆっくり顔を上げる。
そして。
俺を見る。
「……完敗ですな」
*
俺は。
少しだけ笑った。
「そう?」
「はい」
家康は。
苦笑した。
「私が。
これから戦を始めようとする時には。
すでに。
三法師様は。
戦を終わらせる手を。
打っておられた」
*
家康は。
静かに尋ねる。
「して。
この後は。
いかがするおつもりですかな?」
*
俺は。
笑った。
「それを。
話しに来たんだよ」
*
家康も。
笑った。
「なるほど」
*
関ヶ原。
東軍。
西軍。
そのどちらにつくのか。
俺は。
選ばなかった。
*
戦そのものを。
終わらせる。
*
二歳の時。
俺は。
自分が。
1605年に死ぬことを知っていた。
*
だから。
歴史を変えた。
*
羽柴には。
ならなかった。
織田を残した。
仲間を増やした。
豊臣とも。
徳川とも。
敵にならなかった。
*
そして。
二十一歳。
俺には。
妻がいて。
子供がいて。
守りたいものがある。
*
だから。
最後も。
戦わない。
*
俺は。
家康を見る。
そして。
笑った。
「家康さん」
「はい」
「もう一回。
話そう」
*
家康は。
ゆっくり。
頷いた。
「承知いたしました」
*
こうして。
関ヶ原は。
始まる前に。
終わった。
*
俺の知っている。
歴史とは。
違う。
*
織田秀信。
二十一歳。
*
俺は。
まだ。
生きている。
*
そして。
これからも。
生きていく。
*
俺は。
空を見上げた。
*
「……あと五年」
そう呟いた。
*
でも。
もう。
その五年を。
数える必要はない。
*
俺は。
歴史を。
変えたのだから。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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