第十五話 歴史の続きを
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関ヶ原は。
戦にならなかった。
*
石田三成は。
家康と話し合い。
豊臣家の政権を。
そのまま維持することを諦めた。
淀殿も。
秀頼を守ることを第一に。
新しい時代を受け入れた。
*
そして。
結局。
徳川家康が。
征夷大将軍となった。
*
徳川幕府。
それは。
俺が知っている歴史と。
同じだった。
*
ただし。
中身は。
まったく違った。
*
俺は。
織田秀信として。
徳川家に従った。
上杉。
前田。
伊達。
真田。
そして。
北条の旧臣たち。
東日本の諸大名も。
大きな戦を起こすことなく。
徳川の新しい秩序へ組み込まれていった。
*
三成も。
死ななかった。
*
もちろん。
自由に動ける立場ではない。
淀殿も同じだった。
*
二人は。
俺の監督下に置かれた。
*
「三成さん」
「何ですかな」
「また書類ばっかり見てる」
「仕事です」
「もう少し休んだら?」
「秀信殿こそ。
仕事を増やしておられるでしょう」
「……それはそう」
*
結局。
三成は。
死ぬまで。
政治に関わった。
*
税制。
街道。
商業。
農政。
諸藩の統治。
*
俺と。
三成は。
何度も意見をぶつけた。
でも。
それは。
戦場ではなく。
机の上だった。
*
淀殿も。
豊臣家の経験を生かして。
女性や子供の教育。
寺社。
文化。
孤児の保護。
さまざまな事業に力を尽くした。
*
秀頼も。
豊臣の名を残しながら。
新しい時代の中で生きた。
*
そして。
俺は。
徳川家の相談役になった。
*
家康。
秀忠。
家光。
三代にわたって。
俺は。
何度も。
呼び出された。
*
「秀信殿」
家康が。
地図を広げる。
「ここをどう見る?」
「街道を整備した方がいいと思う」
「なるほど」
*
秀忠からは。
財政について聞かれ。
家光からは。
大名統制について聞かれた。
*
俺は。
織田家の当主でありながら。
徳川家の譜代ではない。
*
外様。
それなのに。
譜代よりも。
徳川家の奥深くにいる。
*
そんな。
妙な立場の大名になった。
*
家康は。
晩年。
俺に言った。
「三法師殿」
「もう。
三法師ではありませんよ」
「儂にとっては。
いつまでも三法師殿です」
*
俺は。
笑った。
「家康さんも。
ずっと怖い人だったよ」
「それは。
褒め言葉ですかな?」
「たぶん」
*
家康が。
笑う。
*
そして。
家康は。
この世を去った。
*
秀忠も。
家光も。
年を重ね。
時代は。
少しずつ。
変わっていった。
*
俺は。
そのすべてを。
見届けた。
*
けれど。
俺には。
もう一つ。
やらなければならないことがあった。
*
歴史を。
残すこと。
*
俺は。
前世で。
歴史ルポライターだった。
*
歴史を書いていた。
それなのに。
自分が。
歴史の中に。
入ってしまった。
*
だったら。
今度は。
俺自身が。
後世に。
歴史を残そうと思った。
*
俺は。
たくさんの記録を集めた。
*
信長のこと。
秀吉のこと。
家康のこと。
三成のこと。
関ヶ原のこと。
*
そして。
俺が見てきた。
この世界の歴史を。
*
できる限り。
正確に。
できる限り。
多く。
書き残した。
*
ただ。
一つだけ。
どうしても。
書けないことがあった。
*
俺が。
令和の時代から。
転生してきたこと。
*
それだけは。
最後まで。
誰にも話さなかった。
*
だから。
俺の残した歴史書には。
少し。
不思議な記述がある。
*
「織田秀信は。
幼少の頃より。
異常なほど歴史に詳しかった」
とか。
「天下の情勢を。
まるで先に知っているかのように。
見通していた」
とか。
*
後世の歴史家は。
きっと。
首を傾げるだろう。
*
そして。
俺の死後。
それらの記録を読む。
歴史好きの人間も。
きっと。
首を傾げる。
*
でも。
俺は。
それでいいと思った。
*
歴史とは。
すべてが。
分かるものではない。
*
だから。
面白い。
*
俺は。
八十五歳になった。
*
長い人生だった。
*
前世では。
三十八歳で。
死んだ。
*
そして。
二歳の子供として。
もう一度。
人生を始めた。
*
最初は。
自分が死ぬ未来を。
変えたかった。
*
次は。
織田家を残したかった。
*
その次は。
仲間を死なせたくなかった。
*
そして。
いつの間にか。
俺には。
守りたいものが。
たくさんできていた。
*
妻。
子供。
孫。
家臣。
領地。
友。
*
気づけば。
俺は。
八十五年間。
生きていた。
*
ある日。
俺は。
机の上に置かれた。
最後の一冊を。
眺めていた。
*
表紙には。
こう書いてある。
『織田家記』
*
俺は。
その表紙を。
そっと撫でた。
「……これで。
大丈夫かな」
*
誰も。
答えない。
*
俺は。
窓の外を見る。
夕暮れ。
*
ふと。
前世のことを思い出した。
*
令和。
ネットニュース。
歴史記事。
山道。
事故。
*
あの日。
俺は。
自分が。
こんな人生を送るなんて。
想像もしていなかった。
*
「人生って。
分からないものだな」
*
俺は。
小さく笑った。
*
もし。
いつか。
未来の誰かが。
俺の書いた歴史書を。
手に取ることがあったなら。
*
その人には。
知ってほしい。
*
歴史は。
決められたものではない。
*
誰か一人の。
小さな決断で。
変わることがある。
*
そして。
変えた歴史は。
誰かが。
また。
次の時代へ。
渡していく。
*
俺は。
最後に。
机の上の筆を。
置いた。
*
「……長かったな」
*
八十五年。
*
織田三法師。
織田秀信。
*
俺は。
ようやく。
その人生を。
終える。
*
そして。
俺が残した歴史書は。
後世へ。
受け継がれていった。
*
もしかしたら。
いつか。
俺の本を読んだ誰かが。
思うかもしれない。
*
「どうして。
織田秀信は。
こんなにも。
先のことを。
知っていたのだろう?」
*
その答えを。
俺は。
最後まで。
書かなかった。
*
ただ。
一冊だけ。
歴史書ではない。
小さな紙に。
最後の言葉を。
残した。
*
『歴史は。
変えられる』
*
それだけ。
*
そして。
その紙を。
机の引き出しに。
そっとしまった。
*
俺。
織田秀信。
八十五歳。
*
史実なら。
二十五歳で。
死んでいた男。
*
その人生は。
八十五年まで。
続いた。
*
歴史は。
変わった。
*
そして。
俺の物語は。
ここで。
終わる。
*
……いや。
*
歴史が。
続く限り。
*
俺の物語も。
どこかで。
誰かに。
語り継がれていく。
*
織田秀信。
八十五年の人生。
完。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




