↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『三法師ですが、羽柴秀信にはなりません! ~史実を知る三歳児、織田家を残すために大名たちとお話しします~』  作者: ほまれ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/15

第十二話 織田の名

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。


 翌年。

 俺は。

 八歳になった。

 そして。

 元服まで。

 あと二か月となった。

     *

 そんな俺のもとへ。

 一通の書状が届いた。

「三法師様」

 長谷川秀一が。

 書状を差し出す。

「豊臣殿よりございます」

「秀吉さんから?」

「はい」

 俺は。

 書状を開いた。

 内容は。

 元服についてだった。

     *

 秀一が。

 読み上げる。

「此度の奥羽平定における三法師殿の功を賞し……」

 俺は。

 黙って聞いていた。

「官位を授け」

「……」

「新たなる姓を賜るものとする」

 俺は。

 そこで。

 顔を上げた。

「新しい姓?」

「はい」

 秀一が。

 一瞬。

 俺の顔を見る。

「羽柴」

     *

 部屋の空気が。

 止まった。

     *

「……羽柴?」

「はい」

「羽柴秀信と?」

「その御意向かと」

     *

 俺は。

 書状を見つめた。

 来た。

 ついに。

 前世で何度も見た名前。

 羽柴秀信。

     *

「嫌だ」

 俺は。

 即答した。

「……三法師様?」

「俺。

 羽柴にならない」

     *

 長秀。

 一益。

 利家。

 秀一。

 皆が。

 俺を見る。

「三法師様」

 長秀が。

 静かに尋ねる。

「官位まで拒まれるおつもりですか?」

「官位はもらう」

 俺は。

 即答した。

「それは。

 もらっていい」

「では。

 姓だけを?」

「うん」

 俺は。

 書状を見る。

「羽柴だけは。

 嫌だ」

     *

 長秀が。

 しばらく黙った。

「……やはり」

「うん」

「三法師様は。

 織田でありたいのですな」

「うん」

 俺は。

 胸を張った。

「俺は。

 織田だから」

     *

 それは。

 意地でもあった。

 俺は。

 ここまで。

 織田家を残すために動いてきた。

 丹羽長秀。

 滝川一益。

 前田利家。

 上杉景勝。

 北条氏政。

 徳川家康。

 真田。

 伊達。

 たくさんの人を。

 繋いできた。

     *

 その中心にあるのが。

 織田。

 そして。

 三法師。

     *

 だから。

 名前だけは。

 譲れない。

     *

「しかし」

 長秀が。

 静かに言った。

「これは。

 単なる改名ではありますまい」

「うん」

「関白殿下は。

 三法師様を。

 豊臣家の傘下にある大名として。

 天下に示したいのでしょう」

     *

 俺は。

 頷いた。

「だから。

 羽柴になるのが嫌なんだ」

     *

 でも。

 断れば。

 どうなる?

     *

 秀吉は。

 西日本を制した。

 俺たちは。

 東日本を押さえている。

 今は。

 互いに戦わず。

 それぞれの勢力を維持している。

     *

 俺が。

 「羽柴にはなりません」

 それだけで。

 その関係が。

 崩れる可能性がある。

     *

「戦争になるかもしれない」

 一益が。

 呟いた。

「うん」

 俺は。

 頷いた。

「だから。

 それも嫌」

     *

 俺は。

 地図を見る。

 織田。

 豊臣。

 上杉。

 北条。

 徳川。

 真田。

 前田。

 伊達。

     *

 この国を。

 二つに割るような戦は。

 もう。

 したくなかった。

     *

「どうする?」

 俺は。

 皆を見る。

 誰も。

 すぐには答えられなかった。

     *

 その時。

「三法師」

 聞き慣れた声がした。

     *

「信雄叔父さん?」

 振り返る。

 そこには。

 織田信雄が立っていた。

     *

 信雄は。

 俺の手元にある書状を見る。

「……羽柴姓か」

「うん」

 俺は。

 少し俯いた。

「俺。

 嫌なんだ」

「そうか」

「でも。

 断ったら。

 秀吉さんと戦うかもしれない」

「……」

「俺。

 戦いたくない」

     *

 信雄は。

 しばらく黙っていた。

 そして。

「ならば」

 静かに。

 口を開いた。

「私が貰おう」

「……え?」

 俺は。

 顔を上げた。

「羽柴の姓を」

 信雄が。

 俺を見る。

「私が名乗ればよい」

     *

「叔父さんが?」

「そうだ」

「でも……」

 俺は。

 言葉を失った。

     *

 信雄は。

 笑った。

「何を驚いている」

「だって。

 俺のために?」

「当然だろう」

     *

 信雄は。

 俺の頭に。

 そっと手を置いた。

「お前が。

 織田でいたいというなら。

 それでよい」

「……」

「お前を守るためなら。

 私は羽柴姓くらい。

 喜んで名乗ろう」

     *

 胸の奥が。

 熱くなった。

     *

 前にも。

 この人は。

 俺を救ってくれた。

 小牧・長久手の時。

 秀吉と講和した時。

 織田家の実権を。

 俺に残した時。

     *

 そして。

 今も。

     *

「叔父さん……」

 俺には。

 信雄が。

 救世主に見えた。

     *

「それなら。

 俺は織田のままでいられる?」

「もちろんだ」

「秀吉さんも。

 怒らない?」

「私が羽柴を名乗ることで。

 関白殿下の顔も立つ」

 信雄は。

 笑った。

「お前が羽柴にならずとも。

 豊臣家との縁は示せる」

     *

「……そっか」

 俺は。

 ようやく。

 息を吐いた。

     *

 だが。

「三法師様」

 長秀が。

 静かに口を開いた。

「一つ。

 問題がございます」

「なに?」

「それだけでは。

 おそらく足りませぬ」

     *

 俺は。

 長秀を見る。

「どうして?」

「関白殿下が。

 欲しているのは。

 姓そのものではないからです」

「……」

「天下に対して。

 三法師様と豊臣家との繋がりを。

 明確にしたいのでしょう」

     *

 長秀は。

 少し考えてから。

 言った。

「ならば。

 姓よりも強い繋がりを。

 作ればよいのでは?」

「姓より強い?」

「はい」

 長秀は。

 俺を見る。

「婚姻です」

     *

「……婚姻?」

「豊臣殿の御一族。

 あるいは御養女となった姫を。

 三法師様の正室とするのです」

     *

 俺は。

 固まった。

「秀吉さんの娘と?」

「そのような形であれば。

 豊臣家と織田家の結びつきは。

 羽柴姓以上に明確になります」

     *

 俺は。

 考えた。

 確かに。

 秀吉が。

 俺を羽柴にする理由は。

 俺を。

 豊臣の側にいると。

 天下へ示したいから。

     *

 なら。

 羽柴にならなくても。

 豊臣家と。

 深い縁があると示せれば。

 秀吉は。

 羽柴姓に。

 こだわる必要がなくなる。

     *

「……婚約なら」

 俺は。

 呟いた。

「俺。

 やる」

 長秀が。

 少し驚く。

「よろしいのですか?」

「うん」

 俺は。

 頷いた。

「羽柴にならないためなら。

 何でもする」

     *

 信雄が。

 苦笑する。

「何でも、か」

「うん」

「後悔するぞ?」

「羽柴になるより。

 ずっといい」

     *

 長秀が。

 静かに笑った。

「では。

 道は見えてまいりましたな」

     *

 俺は。

 書状を見る。

 そこには。

『羽柴』

 と書かれている。

     *

 俺は。

 その文字を。

 そっと伏せた。

「官位はもらう」

「はい」

「豊臣さんとも。

 仲良くする」

「はい」

「信雄叔父さんにも。

 羽柴になってもらう」

 信雄が。

 苦笑する。

「構わぬ」

「そして」

 俺は。

 拳を握った。

「俺は。

 織田のまま」

     *

 元服まで。

 あと二か月。

     *

 まだ。

 秀吉は。

 俺が羽柴を名乗ると思っている。

     *

 なら。

 この二か月で。

 秀吉自身に。

 「三法師は織田のままでよい」

 そう言わせればいい。

     *

 俺は。

 長秀を見る。

「行こう」

「どちらへ?」

「秀吉さんのところ」

「もう交渉を?」

「ううん」

 俺は。

 笑った。

「その前に。

 もっといい条件を作る」

     *

 俺は。

 初めて。

 元服の日を。

 楽しみに思った。

     *

 織田三法師として。

 大人になる日。

 そして。

 羽柴秀信という名前を。

 歴史から。

 消すための日にする。

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。