第十話 人が人を呼ぶ
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是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
あれから。
二年が経った。
俺は。
清洲城を居城として。
岐阜。
尾張。
そして。
北伊勢を治めていた。
もちろん。
俺自身が政務をしているわけじゃない。
三歳だった俺も。
今では五歳。
少しは歩けるようになったし。
文字も。
以前よりずっと書けるようになった。
それでも。
五歳児に国政を任せるほど。
この時代の大人たちは。
馬鹿ではない。
実際に政務を動かしているのは。
丹羽長秀。
滝川一益。
そして。
俺の周囲に集まった家臣たちだった。
*
長秀は。
俺の右腕として。
領国内の政務をまとめた。
一益は。
尾張から伊勢。
さらに東へと伸びる人脈を使い。
周辺の情勢を探った。
前田利家は。
北陸へ戻った。
加賀。
越中。
能登。
北陸の情勢を見ながら。
俺との連絡を絶やさなかった。
*
そして。
俺たちのもとへ。
一人の男が降ってきた。
「佐々成政殿が」
長秀が。
そう報告した時。
「……佐々?」
俺は。
思わず聞き返した。
「はい」
越中の佐々成政。
織田信長の家臣として。
北陸で戦い続けてきた男。
その男が。
俺の織田家に加わるという。
「どうして?」
「一益殿と利家殿からの勧めもございます」
長秀が答える。
「越中の情勢を考えれば。
三法師様との関係を築くことが得策と判断されたのでしょう」
俺は。
地図を見る。
越中。
加賀。
越後。
美濃。
尾張。
少しずつ。
繋がってきている。
「……仲間?」
「はい」
長秀が笑った。
「新たな仲間でございます」
俺も。
嬉しくなった。
*
その頃。
秀吉は。
さらに大きくなっていた。
紀州を攻め。
四国を攻め。
次々と勢力を広げている。
さらに。
信長公の四男。
羽柴秀勝を養子に迎えた。
俺の知っている歴史よりも。
少しずつ違う。
それでも。
秀吉が天下へ向かって進んでいることだけは。
はっきり分かった。
*
俺も。
何もしていなかったわけではない。
前世で聞き齧った。
歴史の知識。
ネット記事を書くために。
適当に調べた知識。
そんなものを。
長秀たちに話した。
「農地を増やすなら」
「はい」
「田んぼだけじゃなくて。
畑も増やした方がいいと思う」
「……なるほど」
「水が足りないところは。
用水を作る」
「承知しました」
「あと」
俺は。
地図を指差す。
「商売」
「商売?」
「うん」
相模。
駿河。
岐阜。
加賀。
越中。
越後。
それぞれの土地で。
何が取れるのか。
どこへ運べば売れるのか。
どうすれば。
途中で盗賊に襲われないのか。
そんなことを。
一つずつ考えた。
俺が知っているのは。
所詮。
聞き齧った知識だ。
専門家でもない。
だから。
長秀たちに、
「本当にできる?」
と聞く。
できるものはやる。
無理なものはやらない。
それだけだった。
*
その結果。
少しずつ。
商人たちが動き始めた。
相模から。
駿河へ。
駿河から。
美濃へ。
越中から。
加賀。
越後へ。
そして。
越後から。
信濃へ。
物が流れる。
金が流れる。
人が流れる。
俺は。
その流れを。
できるだけ止めないようにした。
「戦より。
商売の方がいい」
そう言うと。
長秀が苦笑する。
「三法師様。
それを皆に納得させるのが。
一番難しいのでございます」
「そうなの?」
「はい」
大人って。
大変だ。
*
そして。
俺は。
新しい問題に。
直面することになる。
*
「三法師様」
長秀が。
少し困った顔をしていた。
「何?」
「客人がお見えです」
「誰?」
「前田慶次殿」
「……前田?」
「はい」
俺は。
少し考えた。
「利家さんの?」
「親族筋でございますな」
なるほど。
前田慶次。
俺でも知っている。
前世の歴史で。
やたら有名だった男。
「もう一人おります」
「誰?」
「真田繁信殿」
「真田?」
「信濃の国衆。
父君からの使者として参られたようです」
俺は。
少し嫌な予感がした。
*
部屋に入ってきた二人を見て。
俺は。
思わず黙った。
一人は。
妙に楽しそうな男。
もう一人は。
真面目そうな男。
そして。
二人とも。
俺を見るなり。
まったく違う反応をした。
*
「おお」
前田慶次が。
笑った。
「本当に子供だ」
「……」
真田繁信が。
呆れた顔をする。
「慶次殿」
「なんだ?」
「無礼ですぞ」
「何がだ?」
「三法師様に対して」
「だって本当に子供じゃないか」
「……」
俺は。
二人を交互に見る。
「前田さん」
「はい?」
「なんで来たの?」
「おう」
慶次が。
楽しそうに笑った。
「上杉景勝殿から。
面白い子供がいると聞きましてな」
「……」
「それに。
前田利家からも。
妙な話を聞いております」
「妙な話?」
「五歳の子供が。
大名を集めて。
天下の話をしている、と」
俺は。
少し恥ずかしくなった。
「……大げさだよ」
「ほう」
慶次が。
にやりと笑った。
「なら。
大したことのない子供かどうか。
確かめに参りました」
なんだ。
この人。
*
「私は」
真田繁信が。
頭を下げた。
「父の命を受けて参りました」
「うん」
「我ら真田の領地。
信濃の所領を。
三法師様に安堵していただきたく」
「……」
俺は。
地図を見る。
信濃。
その東には。
北条の勢力圏。
南には。
すでに徳川の影響下にある甲斐。
西には。
俺たちの美濃。
北には。
上杉の越後。
信濃は。
ちょうど。
その真ん中にある。
*
「いいよ」
「……!」
繁信の顔が。
明るくなる。
「本当でございますか!」
「うん」
「ありがとうございます!」
「ただ」
「……はい?」
「これ。
結構大変だと思う」
「……」
繁信が。
固まった。
慶次が。
吹き出した。
「はははは!」
「慶次殿!」
「お前。
今の顔は面白いな」
「笑うところではない!」
「だって。
領地安堵を頼みに来たら。
子供に大変だと言われたぞ」
「お前がふざけすぎなのだ!」
「お前が真面目すぎるんだよ」
*
「……どうしよう」
俺は。
二人を見る。
前田慶次。
面白そうな人だけど。
扱いに困る。
真田繁信。
真面目だけど。
信濃を安堵したら。
上杉。
徳川。
北条。
みんながどう思うか。
俺は。
頭を抱えた。
*
その時だった。
「ふふっ」
背後から。
突然。
笑い声がした。
「……?」
俺は。
振り向いた。
誰もいない。
だが。
次の瞬間。
「ふふふ」
また。
笑い声。
*
「何者だ!」
一益が。
立ち上がった。
刀に手を掛ける。
「三法師様!」
長谷川秀一も。
周囲を警戒する。
そして。
俺の後ろに。
一人の男が。
いつの間にか立っていた。
*
「……!」
一益の顔が。
青ざめる。
「申し訳ございません!」
「何が?」
「警備が甘すぎました!」
一益が。
俺の前に出る。
「この者を。
どうやって……」
男は。
笑っている。
俺は。
その顔を見た。
*
「……また来たの?」
「……」
男の笑みが。
一瞬。
止まった。
「三法師様」
俺は。
その名前を知っていた。
「風魔小太郎」
「おや」
小太郎が。
目を細める。
「覚えておいででしたか」
「うん」
「これはこれは」
小太郎は。
楽しそうに笑った。
「三法師様は。
人を呼び寄せてしまう御様子」
「……」
「大変ですな」
*
「小太郎」
「はい」
「せっかく来たんだから」
俺は。
前田慶次と真田繁信を見る。
「意見ちょうだい」
「私に?」
「うん」
小太郎は。
少し考えた。
そして。
慶次を見る。
「前田慶次殿は」
「うん」
「どうでもよろしいかと」
「おい!」
慶次が。
笑う。
「気に入ったぞ、忍び」
「褒めておりません」
「そうか」
「はい」
慶次は。
ますます楽しそうだ。
*
小太郎は。
今度は。
繁信を見る。
「問題はこちらでしょうな」
「私ですか?」
「信濃の安堵」
「……」
小太郎は。
地図を見る。
「三法師様。
信濃は。
簡単には扱えませぬ」
「うん」
「北には上杉」
「うん」
「東には北条」
「うん」
「南の甲斐は。
すでに徳川の勢力下」
「うん」
「ここで真田を。
三法師様の直臣として取り込めば」
小太郎が。
指を信濃へ置く。
「上杉。
北条。
徳川。
三者のいずれかと。
揉める可能性があります」
「……」
俺は。
黙った。
*
「現に」
小太郎は。
俺を見る。
「越中の佐々成政殿を取り込んだことで。
秀吉殿と揉めたでしょう?」
「……うん」
「仲間を増やすことは。
良いことばかりではありません」
小太郎は。
笑った。
「増やした仲間の数だけ。
周囲の警戒も増える」
俺は。
地図を見た。
信濃。
越後。
甲斐。
関東。
*
「……仲間を増やすのって」
俺は。
小さく呟いた。
「こんなに大変なんだね」
小太郎が。
笑った。
「今さらお気づきですか?」
「……うん」
俺は。
困った顔をした。
「でも」
俺は。
地図を見つめる。
「真田さん。
悪い人じゃなさそう」
「それはそうでしょうな」
「じゃあ」
俺は。
もう一度。
地図を見る。
「みんなが困らないようにしたらいい」
「……」
小太郎の笑みが。
少し深くなる。
「それができれば。
大した御方でございますな」
*
俺は。
地図の上に。
指を置いた。
信濃。
越後。
甲斐。
関東。
そして。
美濃。
*
北には。
上杉。
東には。
北条。
南には。
徳川。
西には。
俺の織田。
この四つが。
信濃を囲んでいる。
*
なら。
信濃を。
誰か一人の領地にするから。
揉める。
真田を。
誰か一人の家臣にするから。
揉める。
*
「……じゃあ」
俺は。
小さく呟いた。
「真田さん」
「はい」
「信濃を守って」
「……は?」
「でも」
俺は。
指を一本立てた。
「上杉さんと。
喧嘩しない」
「……」
「徳川さんとも。
喧嘩しない」
「……」
「北条さんとも。
喧嘩しない」
繁信は。
困った顔をした。
「それは……」
「できる?」
繁信は。
しばらく黙った。
そして。
頭を下げた。
「父と相談の上ではございますが」
「うん」
「その条件で。
領地を安堵いただけるのであれば。
我らとしても異存はございません」
俺は。
笑った。
*
「じゃあ」
俺は。
長秀を見る。
「三法師様?」
「上杉さんと。
北条さんと。
徳川さんに手紙」
「……」
「信濃を真田に任せる」
「……」
「でも。
みんなで認める」
長秀が。
少し考える。
「相互に信濃の領有を認める。
ということでございますか?」
「うん」
「そして」
俺は。
地図を指差す。
「商売もする」
「商売?」
「越後から信濃」
「……」
「信濃から美濃」
「……」
「甲斐から駿河」
「……」
「関東から信濃」
俺は。
地図を見渡した。
「みんなが使える道にする」
長秀の目が。
少し見開かれた。
*
「戦争するより」
俺は。
笑った。
「商売した方が儲かるでしょ?」
長秀は。
しばらく黙っていた。
そして。
ゆっくり笑った。
「……三法師様」
「うん」
「また。
随分と面白いことを考えられましたな」
「そう?」
「はい」
長秀は。
地図を見た。
「信濃を。
争いの土地ではなく。
繋ぐ土地にする」
俺は。
頷いた。
*
前田慶次が。
いつの間にか。
俺のすぐ横に立っていた。
「なるほど」
「慶次さん?」
「面白い」
慶次は。
笑った。
「普通なら。
領地を欲しいと言われたら。
領地を与える」
「うん」
「この子は。
領地を与える代わりに。
仕事を与えるのか」
「……」
「しかも。
その仕事をすれば。
上杉も。
徳川も。
北条も。
損をしない」
慶次は。
俺を見る。
「なるほどな」
「何?」
「景勝殿や利家殿が。
面白い子供だと言っていた理由が。
少し分かった」
慶次は。
豪快に笑った。
「こりゃ。
退屈しなさそうだ」
*
真田繁信が。
慶次を見る。
「慶次殿。
先ほどは。
つまらないと仰っていたではないか」
「言ったか?」
「言った!」
「なら。
訂正しよう」
慶次は。
俺を見る。
「つまらないのは。
お前の願いを聞くだけだった場合だ」
「……」
「こいつの話は。
面白い」
「……相変わらず。
勝手な御方だ」
「お前が真面目すぎるんだよ」
また。
二人が言い争いを始める。
*
俺は。
二人を見た。
そして。
小太郎を見る。
小太郎は。
相変わらず。
楽しそうに笑っている。
*
人が。
また増えた。
前田慶次。
真田繁信。
風魔小太郎。
まだ。
仲間と呼べるかは分からない。
でも。
また。
俺の周りに。
人が集まった。
*
俺は。
少しだけ。
遠くを見る。
秀吉は。
紀州を取り。
四国へ進み。
さらに。
織田家の血筋まで取り込んでいる。
徳川は。
甲斐を押さえている。
北条は。
関東。
特に北関東へ。
その勢力を伸ばしている。
上杉は。
越後から北陸へ。
その影響力を広げている。
*
そして。
俺は。
岐阜。
尾張。
伊勢を持っている。
越中には。
佐々成政。
越後には。
上杉。
関東には。
北条。
甲斐には。
徳川。
*
俺は。
地図を眺めた。
気がつけば。
俺の周りには。
いくつもの国が。
繋がり始めている。
*
でも。
それは。
同時に。
いつ崩れてもおかしくない。
危うい均衡でもあった。
*
「長秀さん」
「はい」
「難しいね」
「何がでございますか?」
「仲間を増やすこと」
長秀は。
少し笑った。
「はい」
「でも」
俺は。
地図を見る。
「一人ずつなら。
なんとかなるかも」
長秀は。
何も言わなかった。
ただ。
俺の隣に立って。
同じ地図を見つめた。
*
信濃。
ここを。
どうするか。
まだ。
答えは出ていない。
*
けれど。
俺は。
少しだけ分かってきた。
仲間を増やすだけでは。
駄目なのだ。
仲間同士が。
敵にならないように。
それぞれが。
俺と繋がっていることに。
意味があるように。
そんな仕組みを。
作らなければならない。
*
五歳の俺には。
まだ。
難しいことだった。
それでも。
俺は。
地図を見ながら。
考え続けた。
「……信濃を」
どうすれば。
みんなのための土地にできるだろう。
その答えを。
俺は。
まだ知らなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。
ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。
また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




