↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/103

084 二階の増設と休憩室

「そろそろ失礼するよ。世話になったな」


 食事を終えたアルテさんが席を立ち、ルーナを抱き上げる。

 すっかり暗くなった空からは、いまだドカ雪が降り続いていた。


「まだ雪が降ってますし、休んでいってください」

「でも、これ以上世話をかけるわけには……」

「こんな夜に店から追い出したとなっては、信用に関わりますよ」


 何より、店を出てどこに行くというのか。

 必死に理由を考えながら、アルテさんが出ていくのを引き止める。


「大雪で危ないから、今夜はヒューとティオも店に泊まるんです」

「彼らは従業員だからで、私は――」

「大切なお客様です」

「…………」


 絶対に、押し負けてはいけない。

 少し気は引けるが圧をかけるような口調で話すと、アルテさんは押し黙る。


「……ふっ……金も払ってないのに、客だなんて……」

「それに、泊る部屋もあるので安心してください」


 そう言って手を洗い、俺はセルフレジへと向かう。


「店長……? もしかして――」


 ヒューは俺が何をしようとしているか、すぐに察したようだった。

 そんなヒューにニコっと笑顔を送り、俺はセルフレジのダンジョン拡張ページを開く。


=================


→二階フロア拡張:500万マジカ


フロア拡張に伴う活動必要マジカ:+20万マジカ/月



→休憩所拡張:100万マジカ

→ダム拡張:20万マジカ


フロア拡張に伴う活動必要マジカ:+10万マジカ/月


=================


 欲しいのは休憩所だけど、二階を拡張するなら営業でも使おう。

 ダムも含めて、二階の設備を全部タップする。


≪設備拡張分のマジカを受領します≫


 音声アナウンスが流れ、自動でレジのドロアーが開く。

 その上には、マジカを吸い込む異空間。

 いつものようにジャラジャラとマジカを吸い込む。


「なっ……一体何が起きたんだい!?」


 引き気味で狼狽える、アルテさん。

 まぁ、すごい金額が一気に吸い込まれていくからね。

 店の拡張とかトンネル設置で慣れたとはいえ、俺もちょっと痛みを感じるくらいだ。


≪マジカの受領完了≫

≪いたりあ食堂ピコピコ 拡張します≫


 店の入口を入ってすぐ右の壁——かつて二階に続く階段があった場所が光りながら、奥に広がっていく。

 まもなく店の拡張が完了し、二階への階段が現れた。

 ヒューが頭を掻きながら、呆れた声でつぶやく。


「ったく。本当にお人よしなんスから、店長は」

「あははは。アルテさん、こちらへどうぞ」

「?」


 不思議そうな顔のアルテさんを案内しながら、二階へとあがった。

 新たに現れた二階は、現代の店の間取りそのもの。

 大人数向けの掘りごたつが六席、大きな窓から外の景色がよく見える。

 一番奥には、ワインセラーやドリンクバーのついた簡易キッチン。


「広い……二階にも、こんなに客席があったんだね」

「ええ」


 客席を見回すアルテさんを連れて、簡易キッチンまで進む。

 簡易キッチンの更に奥に、従業員用の休憩室がある。


「この奥が従業員の休憩室になってるんです。足元、段差に気を付けて下さいね」

「あ……ああ」


 休憩室は八畳のたたみ部屋で、ユニットバスもついたワンルーム。

 すぐに泊まれるか、俺は布団や水回りを確認していく。


「風呂トイレ、よし。確か布団も……あったあった」


 懐かしさが込み上げてくるほど、現実世界での休憩室そのものだな。

 起業前の忙しい時期に、この部屋によく社長と一緒に泊まってたっけ。

 押し入れに入っていた布団が新品で、余計に感傷に浸ってしまう。


「……どうかしたのか?」

「あ、いえ。今夜はこちらでお休みください。お風呂とトイレも、自由に使ってもらって大丈夫ですよ」


 少し泣きそうなのを誤魔化すように、俺は布団を敷いていく。

 ルーナちゃんはアルテさんと一緒に寝るかもしれないけど、一応二枚分の布団を用意した。


「その……本当にいいのか? 私は何も……金も払えないんだぞ」


 本当に泊まれると実感が湧いたのか、アルテさんが不安そうに問いかける。


「いいんですよ、そんなこと」

「なんで……?」


 不安と不信の目で、見つめてくるアルテさん。

 ただ目の前の人を助けるために、自分に出来ることをしたいだけなんだけど——彼女はそんな考えを、信じないのかもしれない。

 それなら——


「俺は古い人間なので、人助けも仕事のうちと習ってるんです」

「…………」

「だから、気にしないでください」


 あまり納得した様子ではない、アルテさんの沈黙。

 そんな彼女に水道や電気の使い方を一通り教えて、俺は自分の部屋に戻る。


「おかえりなさい、店長」

「あれ? まだ起きてたの、ヒュー」

「いや、まぁ……気になるじゃないっスか。あ、ティオはもう寝かしたっス」

「そうか、ありがとう」


 アルテさんたちが心配だったのだろう、部屋ではヒューが待ち構えていた。

 ひとまずティオが寝ているのを確認して、俺たちはリビングのソファに腰掛ける。


「その……これからどうするんスか? 二人のこと」

「しばらくは、うちで休んでもらおうと思う」


 あんな小さな子がいては、しばらく働くのは難しいだろう。

 それに酷く思い詰めていたし、一人にするのは心配だ。


「良かったぁ! いやぁ、あの様子じゃ母子で野垂れ――って感じだったスから」

「まぁ、確かに」


 二人の処遇を聞いて安心したのか、嬉しそうに軽口を叩くヒュー。


「やはり片親で働くのは難しいのか?」

「そりゃあ! 特にアルテは冒険者っスからねぇ。子どもを連れての仕事は、まず無理でしょ」

「子どもを預けるとかは、できないのか?」

「預ける……」


 急にヒューが黙り込み、深刻そうな顔になる。

 何かまずいことを、聞いてしまったのだろうか?

 話題を変えようかと考えていると、ヒューがゆっくりと説明を始めた。


「イサナ聖教会に預けるということは、親子の縁を失うという事っスからね……」

「えっ!?」


 思いがけない、重い話。

 俺としては、保育園とかベビーシッター的なものを想像してたのに……。


「もっとこう、一時的に子どもの面倒みてもらえる施設とか、子守りしてくれる人とか……そういうの、無いの?」

「なんすスかそれ。面倒の見れない子どもはイサナ聖教会の子となって、親と会うことも、自分が親だと知らせることも禁止されるんですよ」

「お、おう……」


 とんでもないカルチャーショック……。

 だからアルテさんは、あんなに過剰なほど大事そうにルーナちゃんを傍に置いてたのか。


「アルテはきっと、死んでもあの子を手放さないだろう」

「そうか……旦那さんと、仲良かったんだな」

「ああ……すごく、な」


 なんだか、やるせない話だな。

 これからアルテさんたち、どうしよう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇新作短編公開中◇◆◇


かまどの魔女の舞台裏
かまどの魔女の舞台裏

短編ページはこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。