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預かり屋 榊便利堂 ~死に際の想いのこもった最期の一言を届ける裏稼業~   作者: MIYA
第九章 持っていったもの

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第070話 相手からの返事


 土曜の夕方、千鶴は乾物屋の帳場で、今年の贈答箱の仕入れを一つ減らした。先月、注文した数のままでは去年の在庫まで含めて棚に入りきらない。母は余ったら年末へ回せばいいと言ったが、去年も同じことを言って袋の色を間違えた。


「減らしたら、足りんとき困るよ」

「足りんかったら追加します。いまの数やと、置く場所を借りなきゃならん」

「頼むのはあんたなんだから、最後まで自分で見てよ」

「それは最初から、そう言うてます」


 閉店までに発送伝票を十枚切る予定が、電話注文が増えて半分しか終わらなかった。千鶴は残りを家へ持ち帰らず、店に置いた。明日は休みのはずだが、母が早朝から配達へ出るなら午前だけ手伝うことにしている。


 便利堂からの着信に気づいたのは、そのあとだった。透は月曜に町外へ出る可能性があるという。もし出勤日をずらせるなら、工場の人に頼まれた棚の追加部品を受け取ってほしいと言われた。


「月曜は乾物屋です。受け取りに行くなら、工場の人に午後三時でお願いしてください」

「一人で行ける?」

「荷物の寸法によります。透さん、部品の見積もりを私が出した日も同じこと聞きました」


 透は謝ろうとしたが、いつもの短い言葉が声にならない。代わりに、確認不足だったと伝えた。千鶴は、わかったとだけ返した。


 電話を切ると、彼女は父に軽トラックを借りられるか尋ねた。父は明日の朝なら使っていいが、月曜は漁協へ荷物を運ぶ用事があると言う。千鶴は航の工場へ電話を掛け、受け取りは火曜の便利堂勤務日に変更してもらった。透には『火曜に変更。先方了承済み』とだけ送った。


           ※


 土曜の閉店後、千鶴は余った贈答箱の見本を二つだけ自宅へ持ち帰った。夕飯のあとで祖父が使い勝手を見ると言ったからだ。祖父は箱を持って振り、底に敷いた厚紙が動くとすぐに指摘した。


「こんなもん、干し椎茸入れたら底が抜けんか」

「実際に入れて試しました。底は抜けんよ。中の袋がずれるから、仕切りを増やしたんです」

「なら、見本を持ってこんでもええやないか」

「形が違う二つで、どっちが持ちやすいか見てほしかったんよ」


 祖父は一度持ち直し、取っ手の幅が広いほうを選んだ。千鶴はその感想をメモして母へ見せた。祭りの当日は乾物屋の売り場に立つ人の年齢もさまざまだ。自分の手に合う箱だけを注文しても、買った人が持ち帰れなければ売り物にならない。


 寝る前に、千鶴は便利堂へ送った勤務変更の連絡を見返した。透が町外へ出る理由は知っているが、誰がどの言葉を受け取るかまで自分が決めることではない。翌朝は店を開ける母の代わりに、市場へ追加の包装紙を取りに行くと決めた。自分が不在になる時間を家の予定表へ書き、携帯を充電器へつないだ。


 日曜の朝早く、千鶴が市場から戻ると、母が昨日の電話注文をまとめていた。仕入れを一つ減らした贈答箱に、予約が二つ増えたという。母はやっぱり足りなかったと言ったが、千鶴は客がいつ取りに来るかを先に確かめた。


「一つは今週末。もう一つは祭りが終わってからやろ」

「そう。早いほうだけ先に追加したらええ?」

「それで足りるなら。残りは様子を見て頼みましょう」


 伝票へ受取日を書き足し、千鶴は今日の見本を二つ並べた。祖父が選んだ持ち手の太いほうを採用するつもりだったが、もう一つは袋の中身が見やすい。店頭で買う人には選んでもらい、発送する分だけ形を揃えようと提案すると、母は包装紙の在庫が足りるかを先に聞いてきた。


 帳場を出る前に、便利堂へ持っていく予定だった連絡表の紙が折れ曲がっていることに気づいた。工場へ受け取り時刻を変更してもらった件を、母の店の発注書と一緒に鞄へ詰めてしまったのだ。千鶴は便利堂の番号へ短いメールを送り、変更後の日付をもう一度明記した。透からはすぐに了承の返事が来た。


 千鶴は母と二人で在庫を数えてから、午前の配達の準備を済ませた。週明けに町外へ出るかもしれないという透の予定を、自分の都合で早めたり遅らせたりしなくてよかった。家の店で今日決めることは、必要な分の箱を何個注文するかだけだった。


 市場の伝票をまとめると、千鶴は母から頼まれた紙袋を納品棚へ戻した。週明けに透が町外へ出るかもしれないからといって、今日の家の注文の受け渡しまで便利堂へ任せるつもりはない。午前中、受け取りに来る客の名前を一つずつ確かめた。


 母が包装紙の束を抱えてくると、千鶴は棚の空いている場所を指した。重い箱を上に積めば取り出すとき崩れるので、贈答用の厚紙だけ低い棚へ置く。去年の値札が紛れているのを見つけ、日付の古いものは外した。売り切れたらまた仕入れればいいという母の言い分にも、届ける日が迫ってからでは間に合わないという事情がある。千鶴は今週中に追加する数だけ赤ペンで囲んだ。


           ※


 日曜の朝、千鶴は店を開ける前に昨日の注文数を帳面へ書き直した。母が数えた在庫と二箱違い、開封した試供品まで売り物に入れていたためだった。透へかけるつもりだった電話は、まず店の用件を片づけてからにした。仕入れ先からかかってきた電話を先に取り、足りない箱の納品日を決めた。


 日曜の朝、透の携帯へ見知らぬ番号から電話があった。


『榊便利堂さんですか。会館から番号を聞きました。トヨです』


 彼女は名前だけ名乗ると、ハルが亡くなったのかと尋ねた。透が昨日の時点でまだ話していないことを確認してから、短く答える。


「火曜に亡くなられました。生前に、あなたへ伝えてほしいと相談があって。直接お会いしたいんです」

『何を言うとったか、ここで言えんの?』

「電話ではお届けできません」

『そんな都合のいいことがあるかいな。見ず知らずの人が来て、何を言い出すかわからんでしょう』


 透はハルの予約控えにある筆跡と、自分の名前を示せること、娘の紗江も同行を希望していることを説明した。無理に住所を聞く気はなく、町外の会館など本人が指定する場所で会えばいいと伝える。


『紗江ちゃんが来るん? あの子、もう立派に働いとるんやろな』

「お仕事があります。本人が予定を調整できたら」

『それなら月曜にしといて。妹が仕事を休める日なんよ。車を出してもらわんと、あの会館まで行くのはしんどい』


 透は手帳を開いた。月曜は七日目だ。


「午前十一時で間に合います。お姉さんもいらっしゃるんですか」

『姉は家で留守番。うちの用事に、全員呼ぶことはないわ』


 トヨは会館の名前と駐車場の入口だけ告げた。自宅の住所は教えなかった。透は復唱し、もし会いたくなくなったら当日の朝でも電話してほしいと伝えた。


『それは、わたしが決めることやね』

「はい」


 透は電話を切り、紗江へ連絡した。彼女は午後に洋品店の客を一人受けるが、月曜の午前なら休みを取れるという。ハルが最後に何を言ったか、娘にもまだわからない。透は出発時刻だけを知らせた。


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