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預かり屋 榊便利堂 ~死に際の想いのこもった最期の一言を届ける裏稼業~   作者: MIYA
第六章 あの人には言えんな

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第41話 値札の裏


 藤木の乾物屋に、歳暮用の昆布が七箱余分に届いた。金曜の朝、千鶴が納品書の十という数字を見て、思わず母親を呼んだ。


「三箱やろ。店のほうの控えにも、三って書いてあるで」

「電話で私が十って言うたんやと思う。復唱してもらったの、覚えてる」

「じゃあ向こうの間違いやないね。昨日までに気づいとけば、積み込まずに済んだのに」


 母親は余分な箱を店の裏へ移し、午前の配達伝票を千鶴に渡した。年末の金曜日は昼前に注文が重なる。返品の手配だけに二人とも掛かりきりにはなれなかった。


 卸へ電話すると、未開封なら返品を受けるが送料は店持ちだという。千鶴は発送し直す箱の数を告げ、送り先をメモした。


「倉庫の番号、最後は七ですか」

『七です。受付は五時まで。今夜の便に載せるなら、三時までに持ち込んでください』


 千鶴は午後から便利堂に出る予定だった。透へ電話して事情を話すと、今日は現場から戻るのが遅いから、発注帳の整理だけ夕方にしてくれればいいと言う。


「先に家の用事を片づけて。代わりに数字がわかるよう、電話で教えてくれ」

「私が書いた数字なんで、私に聞いても怪しいですけどね」

「じゃあ帰ってから一緒に見よう」


 母親へ都合を伝え、千鶴は店の軽ワゴンに七箱を積み込んだ。角が一つだけ潰れかけていたので、返品を断られないようほかの箱と分ける。卸が受け取れない場合は、その一箱だけ正月の店売りに回すことも考えておいた。


 出掛ける前、贈答品を受け取りに来た客が、表に見本を置いていた昆布を指して、もう少し薄い箱はないかと訊いた。母親が包装の用紙を持ってくるあいだ、千鶴は価格の違う二種類を並べて見せる。


「贈る先が二軒だけやから、同じものを二つ欲しいんですけど」

「こちらなら二つあります。もう一種類は、いま店に三つしかなくて」


 千鶴は数え直した在庫表を見ながら答えた。十箱届いたからといって、まだ返品していない七箱を売れる在庫へ入れるわけにはいかない。買い物を終えた客が帰ると、母親は売れた分を台帳へ記入し、千鶴に空箱を取りに行かせた。


 包装紙を棚から出すと、午後の来客用に残しておくはずの柄が二枚しかなかった。慌てて隣の柄に替えようとしたが、昨日の注文票には色の指定がある。母親は来客へ電話し、違う柄でも構わないか本人に聞いてから用意し直した。千鶴が今朝の間違いを引きずっているあいだにも、店には別の間違いを防ぐ仕事があった。


 集荷場へ着くと、受付の前に車が三台並んでいた。千鶴はようやく順番が来て送り状を出したが、係員から送り先が違うと指摘された。電話で聞いたのは倉庫の番地だったのに、伝票には卸の本社名をそのまま写していた。


「ここで書き直せますか」

「送り先の登録番号が違うので、卸さんに確認を取ってください。後ろの車を先に通しますね」


 荷台へ戻って卸へ電話すると、担当者は受付番号まで読み上げてくれた。千鶴は車のダッシュボードから乾いたペンを探し、送り状の控えへ書く。電話を切ったあと、数字を声に出して確かめた。今度は頼まれた仕事の途中で、別の失敗を増やしたくなかった。


 係員が戻ってくるまで、千鶴は待機場所の端で箱の底を確認した。自分で積んだときはきれいだったが、一箱だけ角に湿った汚れが付いている。受付で聞くと、外箱を交換してくれれば中身はそのままでいいらしい。千鶴は車に積んでいた予備の段ボールを使い、テープを貼り直した。


「六箱と、こっち一箱。合わせて七です」

「確かに。次は控えにある倉庫のほうへお願いしますね」

「次は間違えんようにします」


 書類へ受領印を押してもらい、家へ戻ったのは三時半を過ぎていた。


           ※


「遅かったね」と母親が言った。

「送り先を書き間違えた」

「また?」

「また。今度は直して受け取ってもらった。送料は店に請求が来る」


 千鶴が給料から引いてほしいと言うと、母親は首を振った。店の仕入れとして発注したものなら、経費も返品も店の帳簿へ載せる。代わりに、次回から電話で注文するときは、受話器のそばに置く一枚の用紙へ希望数、復唱した数、受付番号の三つを書き、電話を切る前に照らし合わせることになった。


「昔からある伝票に書けばよかったんやないの」と千鶴は言った。

「その伝票を見ずに注文した人が言う?」


 母親が見せた控えには、数の欄だけ鉛筆の跡が何本も付いていた。千鶴は言い返さず、新しい用紙を作ることにした。夕方の便利堂へ持っていく道具箱の上に、自分の失敗した伝票を置く。


 千鶴は母親へ受領印のある控えを見せ、卸から返金の連絡が来たら同じ番号で照合するよう、台帳の欄外に書いた。母親は昼の客が指定した包装紙を新しく取り寄せる手続きを済ませており、そちらの注文と返品の紙が重ならないよう、別のクリップで留めていた。


「今日はもう出てもええよ。夕方の仕事、遅れるんやろ」

「新しい用紙だけ、レジの横に置いとく。次は注文の前に見るから」

「見るだけやなく、書いてな」


 母親が紙の最初の頁へ三箱と十箱を書き込んだ。千鶴はその下に受領番号を記し、返品の控えを一枚残してから便利堂へ向かった。往復に使った燃料代は、家の店の経費として母親に渡す帳面へ後で書き足すつもりだった。


 閉店前の便利堂では、透が届いた部品に値札を付けていた。千鶴が到着すると、先に手元の紙へ終わった仕事を記入させ、自分は戸車の形をもう一度調べると言った。


「七箱、どうなった」

「返品できました。間違った送り状も持ってきました」

「俺に見せて、どうするの」

「失敗が一人分じゃないって確認してもらおうかと」


 透は値札の束から一枚を抜き、裏側の数字を見せた。昨夜届いた戸車の品番が注文と違った件で、今朝、取扱店へ問い合わせていた。古い値札の裏には祖父らしい癖のある字が残り、現行の品番と末尾が一桁だけ違う。後継品は取付穴の位置まで変わっているそうで、透は今日も交換を頼まず、必要な寸法を改めて送ったところだった。


「字、似てますね。今の透さんのと」

「俺はこれより雑だよ。子どものころ、見積書の数字だけは真似して書いた」

「数字が似とるなら、なおさら読み間違えんようにしてください」


 千鶴は古い値札を使わずに、品番が確定したものから新しい札を付けた。透が机に置いていた年賀状の束は、今の請求書と混ざらないよう引き出しへ戻してある。


 帰り際、母親から電話が来た。明日の朝も乾物屋に出てほしいらしい。千鶴は便利堂の予定表を確認してから引き受け、返品に使った車の燃料代を書き忘れていたことを思い出した。控えを開いて計算していると、透が作業場の灯りを一つずつ消し始めた。


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