第二話 処刑まで、あと十四日
翌朝。
エレノアは、ほとんど眠れなかった。
婚約者が殺され、その犯人として疑われている。しかも、有罪となれば死罪だ。そんな状況でぐっすり眠れるほど、エレノアの神経は太くなかった。
加えて、もう一つ。
「エレノア、起きてる?」
「起きています」
「眠れなかった?」
「誰のせいだと思っているのですか」
「犯人?」
「それもありますけど!」
牢の壁から顔だけを出している婚約者の存在も、安眠を妨げた原因の一つである。
「普通に入ってきてください!」
「扉から?」
「あなた、開けられないでしょう!」
「じゃあ壁しかないじゃないか」
「せめて全部入ってから話しかけてください! 怖いんです!」
「ああ、ごめん」
アレクシスが壁を抜け、ようやく全身を現した。
金色の髪に深い緑の瞳、白を基調とした正装。昨夜と何も変わらない姿だったが、よく見ると足が床からほんの少し浮いている。
「……浮いてますよ」
「やっぱり?」
「やっぱり?って?」
「歩いているつもりなんだけど、感覚がなくて」
死んで一日も経っていないのだ。幽霊初心者なのは仕方がない。
仕方がないのだが。
(慣れるのが早すぎない?)
昨夜は自分の手が机をすり抜けるたびに不思議そうに眺めていたというのに、今朝にはもう壁抜けを移動手段として使いこなしている。
さすがアレクシスというべきなのだろうか。
「それで、どちらへ行っていたのですか?」
「僕の部屋」
「何か分かりました?」
「調べてる人がたくさんいた。机も棚も全部開けられてたよ」
「捜査ですから」
「分かってるけど、複雑だね」
それはそうだろう。死んだ途端、自室を知らない人間たちに隅々まで調べられているのだ。
「茶葉は?」
「持っていかれたみたいだ。容器ごとなくなってた」
「……そうですか」
昨日の事情聴取で聞かされたとおりだった。
アレクシスの部屋に保管されていた茶葉から、彼の体内で見つかったものと同じ種類の毒が検出されている。今のところ、それがエレノアにとって最も不利な証拠だった。
「それから」
アレクシスの声が少し低くなった。
「僕もいた」
「…………はい?」
「正確には、僕の身体が」
エレノアは息を呑んだ。
「……見たのですか」
「うん。王宮の奥に安置されてる。まだ葬儀の準備には入ってないみたいだ」
「事件ですものね」
「たぶん。父上が許可していないのもあると思う」
国王の息子が突然毒殺されたのだ。死因や毒の入手経路について調べる必要がある以上、身体もすぐには埋葬できないのだろう。
「……変な感じだよ」
アレクシスが呟いた。
「自分で自分を見るのって」
エレノアは何と答えればいいのか分からなかった。
死んだ人間に、自分の遺体を見た感想を聞く日が来るなんて、前世を含めても想像したことがない。
「怖くは、なかったのですか?」
「少し」
意外な答えだった。
エレノアが顔を上げると、アレクシスは困ったように笑った。
「僕だって怖いものくらいあるよ」
「……そうでしたね」
「どういう意味?」
「いえ」
そのとき、廊下から足音が聞こえた。
アレクシスが扉を見る。
「誰か来る」
「え?」
鍵が回る音がした。
エレノアは慌ててアレクシスを見る。
「隠れてください!」
「誰にも見えないよ?」
「分かっていますけど、落ち着かないんです!」
「どこに?」
「壁の向こうにでも!」
「僕、幽霊なんだけどなあ」
ぶつぶつ言いながら、アレクシスが壁の向こうへ消える。
直後、扉が開いた。
昨日とは別の役人が、衛兵を伴って入ってくる。
「ローゼンベルク公爵令嬢」
エレノアは立ち上がった。
「はい」
「昨夜の調査結果と、今後の審理についてお伝えすることがあります」
役人の手には、数枚の書類があった。
「殿下の体内から検出された毒物と、あなたが贈られた茶葉から検出された毒物は、現時点では同じ種類のものと判断されています。また、晩餐会で殿下がお飲みになった紅茶にも、その茶葉が使用されていたことが確認されました」
「……はい」
分かっていたことだ。それでも、一つずつ事実として並べられると重い。
「もちろん、あなたが毒物を混入したと確定したわけではありません。茶葉の保管や運搬に関わった者についても調査を続けています」
エレノアは黙って続きを待った。
「しかし、王族殺害の嫌疑は極めて重大です。本日より、王家に対する重大犯罪に定められた特別審理に移行します」
「特別審理……」
「王族の殺害が疑われる場合、国の混乱を防ぐため、原則として十四日以内に最終判断を下すことが定められています」
役人が一枚の書類を差し出した。
エレノアは受け取り、目を落とす。
難しい文言が並んでいたが、指定された日付だけはすぐに読み取れた。
「……十四日後?」
「はい。その日に最終審理が行われます」
「そこで、有罪となった場合は……?」
「死罪です。判決が確定すれば、原則として即日執行されます」
エレノアの指が止まった。
昨日も聞いた言葉だった。
けれど、今度は日付まで決まっている。
「もちろん、それまで調査は続きます。公爵家から弁護人を立てることも、証拠を提出することも認められています」
「……つまり」
エレノアは書類を握った。
「十四日以内に、わたくしの無実を証明する必要があるのですね」
「そうなります」
役人は静かに頷いた。
十四日。
長いのか、短いのか分からない。ただ、その日までに疑いを晴らせなければ、自分の命が危ういことだけは理解できた。
「……分かりました」
エレノアは書類を胸元に引き寄せた。
逃げ道がないのなら、やるべきことは一つしかなかった。
◇ ◇ ◇
「十四日か」
役人たちが去ったあと、アレクシスが壁から戻ってきた。
「聞いていたのですか?」
「うん」
「盗み聞きは?」
「今のは君の部屋で堂々と聞いてた」
「見えないだけでしょう」
「細かいなあ」
エレノアは寝台へ腰を下ろし、書類を見下ろした。
「あと十四日……」
昨日までは、十三年間恐れてきた破滅をようやく回避したつもりでいた。それが一夜明けた途端、十四日後に処刑されるかもしれないと言われている。
(急に近い……)
笑えない。
「大丈夫」
アレクシスが言った。
「何を根拠に?」
「僕がいる」
満面の自信だった。
「壁を抜けられる」
「それ、昨日も聞きました」
「誰にも見えない」
「それも聞きました」
「会話も聞き放題」
「言い方!」
「便利だよ?」
「だから倫理!」
昨夜と同じやり取りをしているうちに、エレノアは少しだけ肩の力が抜けた。
「とにかく、十四日しかないのなら、できることから始めましょう」
「賛成」
「まずは茶葉です。誰が毒を入れたのか。それから、本当にあの紅茶からあなたが毒を摂ったのか」
「昨日の続きだね」
「はい。ただ……」
エレノアは牢の扉を見る。
「私はここから出られません」
「僕は出られる」
「そうなんですよね……」
ものすごく不本意だが、これほど捜査向きの存在もいない。
ただし、問題もあった。
「アレクシス様が何かを見つけても、他の方にはその情報を伝えられませんよね」
「君には伝えられるよ」
「ですが、私が『幽霊の殿下から聞きました』と言っても、証拠にはなりません」
「……確かに」
「ですから、あなたが調べたことを手掛かりに、実際の証拠を見つける必要があります」
アレクシスは少し考え、それから頷いた。
「なるほど。僕が見つけて、君が確かめるわけだ」
「そう簡単にできるかは分かりませんけど」
「やってみよう」
その返事だけは、実に頼もしい。
「では、まず――」
言いかけたところで、廊下から再び足音がした。
今度は一人や二人ではない。
「……誰でしょう」
アレクシスが壁から顔を出す。
「見てくる」
「だから顔だけ出すのやめてください!」
彼は廊下へ消え、数秒後には戻ってきた。
「君の家族」
「え?」
エレノアが立ち上がったのと、扉が開いたのはほぼ同時だった。
「エレノア!」
「お父様――」
呼び終わるより早く、父であるアルベルトが駆け寄ってきた。
「怪我はないか!? 寒くないか!? 食事は!? ちゃんと眠れたのか!?」
「お父様、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!」
「あなた」
後ろから静かな声が飛び、アルベルトの動きが止まった。
母、ヴィクトリアが立っていた。
いつもと変わらず美しく整えられた姿で、背筋を伸ばしている。ただ、その手に握られた扇がいつもより固く閉じられていることに、エレノアは気づいた。
「エレノアが困っています」
「……すまない」
「いえ」
エレノアは小さく笑った。
「来てくださって、ありがとうございます」
「当然でしょう」
ヴィクトリアが近づき、娘の頬へそっと触れた。
「ずいぶん酷い顔ね」
「眠れなかったので」
「そう」
それだけ言って、母はエレノアを抱きしめた。
「……お母様?」
「よく聞きなさい、エレノア。あなたがやっていないことくらい、私たちは知っています」
エレノアの喉が詰まった。
「だから、顔を上げていなさい。女は凛とした花であれ。教えたでしょう?」
「……はい」
「泣くのは家に帰ってからで十分よ」
「はい」
エレノアは母の背へ腕を回した。
「……帰ります」
「ええ。帰ってきなさい」
その後ろで、アルベルトが盛大に鼻をすすった。
「あなた」
「泣いてない」
「まだ何も言っていません」
「泣いてないからな」
「はいはい」
エレノアは思わず笑った。
「……エレノア」
そのとき、父と母の後ろから低い声がした。
「お兄様」
兄であるレオナルドは笑っていなかった。
普段なら真っ先に抱きついてきてもおかしくない人が、じっとエレノアを見つめている。
「怪我は?」
「ありません」
「食事は?」
「いただきました」
「変なことはされてない?」
「されていません」
「本当に?」
「本当です」
「そう」
そこでようやく、レオナルドの肩から少し力が抜けた。
「よかった」
次の瞬間、ぎゅう、と抱きしめられる。
「お兄様、苦しいです」
「生きてる」
「生きています」
「よかった」
「昨日卒業式で会いましたよね?」
「状況が違うだろ!」
声が震えていた。
エレノアはそれ以上何も言えなくなった。
レオナルドはしばらく妹を抱きしめたあと、ようやく身体を離した。
「十四日後なんだって?」
「……はい」
「大丈夫。絶対にそんなことさせない」
「お兄様……」
「だいたい、エレノアがアレクシスを殺すわけないだろ」
少し離れた場所で、アレクシスが頷いた。
「そうだね」
当然、家族には聞こえていない。
「仮に殺すとしても――」
「お兄様?」
「もっと上手くやる」
「レオナルド」
母の声が一段低くなった。
「冗談だよ、母上」
「今する冗談ではありません」
「はい」
アレクシスが口元を押さえている。
笑っている。
(あとで覚えていなさい)
睨みつけると、アレクシスが自分を指差した。
『僕?』
声を出さずに口だけ動かす。
あなた以外に誰がいる。
「エレノア?」
「なんでもありません」
危ない。
今の自分には、他人から見えない婚約者を睨みつけるという新たな問題がある。
「とにかく」
アルベルトが表情を引き締めた。
「こちらでも調べている。茶葉を購入した店、屋敷で保管していた者、王宮まで運んだ者。すべて確認するつもりだ」
「ありがとうございます」
「弁護に必要な者も手配しているわ」
ヴィクトリアが続ける。
「あなたは自分が覚えていることを、一つずつ整理しておきなさい。こちらで調べたことも、弁護人を通じて伝えます」
「はい」
「それから、一人で何もかも解決しようとしないこと」
「…………」
「返事は?」
「……はい」
エレノアはちらりとアレクシスを見る。
これは一人に入るのだろうか。
死者は一人として数えるべきなのだろうか。
分からない。
◇ ◇ ◇
面会時間が終わり、家族は帰っていった。
扉が閉じると、アレクシスが口を開いた。
「相変わらずだね、君の家族」
「……ええ」
「愛されてる」
エレノアは少しだけ俯いた。
「知っています」
ゲームの中では、エレノア・フォン・ローゼンベルクは最後にすべてを失う。
家族も例外ではなかった。
レオナルドだって、ゲームでは最後に妹ではなくヒロインの側に立った。
けれど、今の兄は真っ先に駆けつけてくれた。父も母も、自分の無実を疑っていない。
十三年間、一緒に生きてきた。
その時間まで、ゲームの筋書きだったとは思いたくない。
「……さて」
エレノアは顔を上げた。
「始めましょう」
「捜査?」
「はい」
十四日しかない。
家族が動いてくれるとしても、任せきりにはできなかった。
「まず確認したいのは、昨夜あなたが口にしたものです」
「晩餐会の料理?」
「それもですが、その前も含めてです。朝から順番に思い出してください」
「朝から?」
「毒をいつ摂取したのか分からない以上、必要です」
「なるほど」
アレクシスは少し考え込んだ。
「朝食はいつもどおり。昼は学院で軽く食べた。卒業式のあとに水を飲んで……」
エレノアは一つずつ聞いていった。
食事や飲み物だけでなく、菓子や薬など、口に入れた可能性があるものはすべて確認する。
しかし、聞けば聞くほど対象が増えていった。
「……多いですね」
「人間って一日に結構いろいろ食べるんだね」
「他人事みたいに言わないでください」
「もう食べられないから」
「…………」
「そんな顔しないで」
「誰のせいですか」
「犯人」
「それはそうですけど」
このやり取りも何度目だろう。
「やはり、晩餐会を中心に調べるべきでしょうか」
「僕が倒れたのはあの場だからね」
「ええ。ただ、紅茶だけに絞るのは危険です」
エレノアは考えた。
茶葉から毒が見つかったのは事実だ。けれど、それが直接の死因になったと証明されたわけではない。
「昨夜、あなたの近くにいた方から話を聞ければいいのですが……」
「クラリスは?」
アレクシスが先に名前を出した。
「彼女なら、僕の身の回りのことはかなり把握してる」
クラリス・ベルモン。
アレクシス付きの侍女だ。普段から彼の身の回りを整え、好みも習慣も把握している。
「ですが、私はここから出られません」
「僕が行く」
「聞き取りはできませんよ?」
「聞くことはできる」
「……なるほど」
クラリス本人へ質問することはできないが、彼女が調査官と話していれば、その内容を知ることはできる。
「では、様子を見てきてください。ただし、私室へ勝手に入ってはいけません」
「まだ言う?」
「言います」
「分かったよ」
「本当に?」
「たぶん」
「アレクシス様」
「行ってきます」
「あ、逃げた!」
アレクシスは笑いながら壁の向こうへ消えた。
「もう……」
一人になった牢で、エレノアは息を吐いた。
十四日。
その数字を思うだけで怖くなる。
それでも、何もしないで待つよりはずっといい。
エレノアは昨夜の晩餐会を思い返した。
料理が運ばれ、アレクシスと話をして、紅茶が出された。彼はそれを飲み、間もなく倒れた。
あのとき、自分は何を見ていたのだろう。
紅茶を運んできた給仕の顔さえ、はっきりと思い出せない。
何かを見落としている気がするのに、それが何なのか分からなかった。
どれほど時間が経っただろう。
「エレノア」
「ひゃっ!」
突然背後から声がして、エレノアは飛び上がった。
振り返ると、アレクシスが壁から半分だけ出ている。
「だからそれやめてくださいって言いましたよね!?」
「ごめん。急いでて」
「何かあったのですか?」
「うん」
アレクシスが壁を抜け、部屋へ入ってくる。
「クラリスが、王宮の調査官と話してた」
「何を?」
「昨日の紅茶について」
エレノアも表情を引き締めた。
「……何と?」
「君からもらった茶葉を使ったのは間違いない。でも、最初からあの茶葉を出す予定だったわけじゃないらしい」
「……え?」
「僕が頼んだんだ」
「アレクシス様が?」
「うん。食後の紅茶を用意すると言われて、せっかくだから君にもらったものを飲みたいって」
エレノアは黙った。
晩餐会で、アレクシスはあの茶葉を気に入っていると言っていた。
今でも飲んでいる、と。
その言葉が嬉しかったことまで、よく覚えている。
「……待ってください」
エレノアは顔を上げた。
「そのことを決めたのは、いつですか?」
「晩餐会が始まってから」
「では、それ以前には?」
「少なくとも、僕は何も頼んでいないよ」
エレノアは考え込んだ。
もし、犯人が晩餐会でアレクシスを殺すために茶葉へ毒を仕込んだのなら、彼がその茶葉を選ぶと知っていなければならない。
けれど、アレクシス自身が飲むと決めたのは晩餐会が始まってからだった。
「……おかしくありません?」
「うん。少しね」
「でも、普段からあの茶葉を飲んでいたのでしょう? いつか口にすることを狙って、毒を入れた可能性もあります」
「そうだね」
「あるいは、誰かがあなたにあの茶葉を選ばせるよう仕向けたのかもしれません」
「それも考えられる」
アレクシスは頷いた。
「だから、まだ決めつけられない。ただ、一つ気になることがあるんだ」
「なんでしょう?」
「君の茶葉に毒が入っていたことと、僕が昨夜倒れたこと。この二つは、本当に同じ出来事の一部なのかな」
「……どういう意味ですか?」
「茶葉は僕を殺すためのものだったのか。それとも、別の目的があったのか」
エレノアは息を呑んだ。
自分が贈った茶葉から毒が見つかった。
アレクシスの身体からも同じ種類の毒が見つかった。
だから、二つは当然つながっていると思っていた。
けれど、同じ毒が見つかったというだけで、毒を飲んだ経路まで確定したわけではない。
「……私に罪を着せるため?」
「可能性の一つだよ」
「ですが、茶葉に毒を入れた人物と、あなたを殺した人物が同じとは限りませんよね」
「うん。逆に、同じ人物が両方を仕組んだ可能性もある」
どちらもあり得る。
今の段階では、どちらとも言い切れなかった。
「では、調べるべきことが増えましたね」
「そうなるね」
「……十四日しかないのに」
エレノアは思わず額を押さえた。
アレクシスはそんな彼女を見て、少し笑った。
「でも、一つ分かったこともあるよ」
「何がですか?」
「昨夜、あの茶葉を使うと決めたのは僕だった。だったら、まずはそのあとに何が起きたのかを調べればいい」
エレノアは顔を上げた。
確かに、そのとおりだ。
アレクシスが茶葉を指定してから、紅茶が運ばれるまで。
誰が茶葉を取り出し、誰が淹れ、誰がカップを運んだのか。
その順番を確認すれば、少なくとも毒を混入できた人物を絞り込めるかもしれない。
「……クラリスは、そのことについて何か話していましたか?」
「そこまでは聞けなかった。調査官が別の質問に移ってしまって」
「そうですか」
エレノアは小さく息を吐いた。
まだ答えは出ない。
けれど、ようやく調べるべき場所が見えてきた。
「では、次は紅茶が運ばれるまでの経路ですね」
「うん」
アレクシスが頷く。
「誰が、いつ、あの茶葉に触れたのか。そこから始めよう」
エレノアは手元の書類へ目を落とした。
最終審理まで、あと十四日。
その日までに、犯人を見つけなければならない。
そして何より、自分がアレクシスを殺していないと証明しなければ。
「……忙しくなりそうですね」
「退屈しなくて済むよ」
「私は退屈でも構いませんでした!」
アレクシスが楽しそうに笑った。
エレノアは呆れながらも、もう一度、昨夜の晩餐会を思い返した。
あの紅茶は、誰の手を経てアレクシスのもとへ届いたのだろう。
その答えが、最初の手掛かりになるかもしれなかった。




