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第八章 内門

アニス・ディドリは、僕が源橋で知り合った最初の、学者でない人間だった。


外城の製本工房の徒弟で、十六歳。左手の小指にいつも布が巻いてある。糸を長年押さ

えてきたせいだ。


知り合った経緯はひどいものだった。彼女が綴じた冊子を学院へ届けに来て、廊下で僕

にぶつかり、僕の手にあった試料箱が飛んで、十二点が床に散った。


彼女はしゃがんで拾い始めた。十二点目、あのガラスを摘まんで、二秒見た。


「これ、自然のものじゃないでしょ」


「なぜ分かるんです?」


「私は製本だから」と彼女は言った。「紙、革、糊、膠。毎日触ってる。焼けたものは

分かる」


それから僕たちは友達になった。理由は単純だ。学院で彼女だけが、僕に「何歳」と聞

かなかった。


彼女は本が嫌いだ。


「なぜ製本を?」


「うちがそうだから」と彼女は白目をむいた。「親父がやって、爺さんがやって、私が

やらないで誰がやる」


「好きですか?」


「本ってやつは」と彼女は言った。「開けば紙、閉じれば煉瓦。私は一日に十冊解体す

る。好きか嫌いか、分かるでしょ」


だが彼女は、一冊一冊を覚えていた。


どれを誰が註文したか、どの石板を誰が磨いたか、その年の紙がどの通りから入ったか

。


「うちの親父には帳面がある」と彼女は言った。「一冊ごとに書いてある。誰が註文し

て、いつ取りに来て、糊をどれだけ使って、解体したかどうか」


「解体したかどうかまで?」


「解体したのは違う」と彼女は言った。「解体した冊子は、組み直すと必ず半ミリ短く

なる。親父は銅の定規で測る。測れば一発で分かる」


僕は何も言わなかった。


嬴倩を思い出したからだ。彼女も銅の定規で測った。


---


理城へ行くことを決めたのは、四月だった。


マティルドは通行証を机に広げた。


「スケーラー家の通行証。本人一名、従者二名」


「つまり三人しか行けない」


「そう」


僕たちは一刻ほど言い争った。


結論は、マティルド、僕、林新年。


嬴倩は行けない。档案員の身分は届け出が必要で、届け出れば痕跡が残る。


希捷莉卡は行けない。スケーラー家の者が内城に入るには別の手続きが要る。そして彼

女は、家に自分が何をしているか知られたくない。


「私は残る」と彼女は言った。「観星台のほうは続ける。君たちが要るものは紙の上に

ある。私が要るものは円の上にある。両方動かさないと」


彼女は行く前に、紙を一枚くれた。


「理城観測台の方位。もし档案庫の三階に上がれたら、北を見て。屋根が見える」


「屋根が見えて、何になるんです?」


「何にもならない」と彼女は言った。「でも、見たくなる」


---


内門を通った日は曇っていた。


従者二名は通行証に記載されている。だから僕たちはマティルドの半歩後ろを歩き、荷

物を持った。


林新年は箱を二つ。


僕は一つ。


彼は一言も言わなかった。


前にいる彼の踵の音を聞いていた。あの三歩一拍のリズムが、今日は遅い。


「前に、こうやって歩いたことが?」


「ある」


「いつ?」


「子供のころ、母の里帰りに付き合った」と彼は言った。「あの時、母も従者の歩き方

だった。僕は車の中にいた」


僕たちは列に並んだ。


内門の列は外門よりずっと短い。だがずっと遅い。前の車が一台ずつ改められ、外門よ

り丁寧に改められる。


順番が来た。番兵は通行証を見て、マティルドを見て、僕たち二人を見た。


「従者」


「はい」


彼は林新年を見た。


「お前、顔を上げろ」


林新年は顔を上げた。


番兵はしばらく見て、急に言った。


「林の家か」


「はい」


「騎士団の林家か」


「はい」


番兵の態度が変わった。


良くなったのではない。慎重になった。


「父は林敬之か」


「はい」


「王都にいる」


「はい」


「なぜここで従者をしている」


林新年は平然としていた。


「内城に入って、一冊の本を見たいからです」


番兵は長いこと彼を見た。


それから僕を見た。


「こちらは」


「家の書童です」とマティルド。


「何歳」


「十歳」


「十歳の書童」


「字がうまいので」


番兵は僕の手から箱を取り、開けた。


中には紙、筆、墨、着替え二組、布に包まれた何か。


彼は包みを解いた。


ガラスだ。


自分の心臓の音が聞こえた。


「これは何だ」


「学院の試料です」


「何の試料だ」


「焼けた砂です」


彼は二度、裏返して見た。


「どこ産だ」


喉が動いた。


「灰谷です」


番兵が顔を上げた。


「どこだ?」


「灰谷」と僕は言った。「南の村です」


後ろの列がせかした。


番兵はそのガラスを、五秒ほど見ていた。


それから包み直し、箱に戻し、蓋を閉め、僕に返した。


「通れ」


僕たちは門をくぐった。


二十歩ほど歩いて、マティルドが低い声で言った。


「さっきの関門、二度目は通らないほうがいい」


「なぜです?」


「あいつは覚えたから」


その時、彼女がなぜそう言うのか分からなかった。


後で分かった。


灰谷という二文字は、あの男の耳には地名の音ではなかった。


記録の音だった。


---


理城と外は、二つの世界だ。


外は布の幌、油の煙、蝶番の音。中は石、下水、静けさ。


道は石畳で、目地に草がない。家はどれも灰白色で、高さが同じ。どの家の入口の壁に

も、小さな銅の札が打ってある。


札には字が刻んである。建築年、建造者、現所有者、用途、変更回数。


僕は一軒目で立ち止まり、三軒目で立ち止まり、十軒目で立ち止まった。


十枚の札すべてに、「用途」と「変更回数」がある。


この街そのものが、一冊の帳面だ。


僕は林新年に聞いた。「なぜどの家にも札が要るんです?」


「懸けなければ違建になる」


「違建はどうなるんです?」


「壊される」


「壊す前に?」


「壊す前に」と彼は言った。「記録に一行、『違建』と書かれる。それから壊す。そし

てその一行は残る」


分かった。


この街では、家が壊されても、記録の中では存在し続ける。


そして壊された記録のほうは、何も残らない。


---


掲示板は二つ目の角にあった。


高い木の枠にガラスが嵌めてあり、中に七、八枚の紙が貼ってある。


通り過ぎるだけのつもりだった。


だが林新年が止まった。


彼は掲示板の前に立ち、そのうちの一枚を見ていた。


僕は彼の視線の先を見た。


それは議婚公示だった。


形式は決まっている。男の名、家、女の名、家、公示期間三十日、異議の投書先。


僕は見覚えのある名前を見つけた。


希捷莉卡・芬・スケーラー


向かいは、僕の知らない名前。


卡尔・冯・艾森


僕は林新年を見た。


彼はまだその公示を見ていた。


眉をひそめもせず、拳を握りもせず。ただ立って、見て、長いこと見ていた。手にはま

だマティルドの箱が二つある。


そして言った。


「行くぞ」


僕たちは歩いた。


彼はその二つの箱を提げ、マティルドの半歩後ろを歩き、踵のリズムは三歩一拍に戻っ

ていた。


道中、彼は一言も言わなかった。


僕も言わなかった。


僕はまだ告白というものを知らなかった。だが一つだけ分かった。一枚の公示を最後ま

で読み、それから歩き続け、箱を二つ提げて、一度も落とさなかった人間は、


平気なのではない。


別の場所に押し込めたのだ。


---


理城档案庫は北城にある。


四角い四階建てで、彫刻も尖塔も装飾もない。櫃に似ている。


入口に机が一つ、その後ろに老人が座っていた。


ひどく老いている。髪は真白で、きちんと梳かれ、手の甲は褐斑だらけ。机の上には三

つしかない。開いた大帳面、筆、眼鏡。


「何用だ」


「調べものを」とマティルドは通行証を机に置いた。


老人は一目見た。


「スケーラー家」と彼は言った。「君の祖父が前回来たのは、三十二年前だ」


「覚えてるんですか?」


「私は記録を取る」と彼は言った。「人間も記録だ」


彼はコンラート・フェール。ここの書記長だ。


立つ時は遅い。彼は僕たちを二階へ連れて行く。足音が軽い。紙を起こさないみたいに

。


建物は冊子ばかりだった。


四階まで、どの階も棚、棚は冊。机も椅子も、景色の見える窓もない。冊と、冊の間に

空いた細い道だけ。


「何冊ありますか?」


「七十四万三千百六冊」と彼は言った。「今朝数えた」


「毎日数えるんですか?」


「私は数えない」と彼は言った。「数えるのは新人だ。私は新人を数える」


---


僕たちが調べるのは、『北境観測記録・第四哨所・七四二年』の移管目録の原本だった

。


フェールは三階へ連れて行き、薄い冊子を一冊抜いた。


「七四九年、源橋移管、第十三批」


彼は半分までめくり、止まった。


「おや」


「どうしました?」


「これは持ち出されている」


「どこへ?」


「持出欄が空だ」と彼は平坦に言った。


マティルドが覗き込んだ。


その行には確かに「持出」とあり、日付は七五〇年。「持出先」の欄には何もない。


「空欄は、記録がないということ」


「記録がないのは、規定違反だ」とフェールは言った。「規定違反は、四十年で六度し

か記録していない」


「六度?」


「六度」と彼は言った。「そのうち三度は、同じ一冊だ」


僕たちは黙った。


「この冊子を調べに来た人が?」と僕は聞いた。


フェールはすぐには答えなかった。


冊子を閉じ、棚に戻し、それから振り返って僕を見た。


「三度」


「どの三度ですか?」


「一番最近は去年」と彼は言った。「源橋から来た。女だ。学院の名で署名した」


「手袋をしていましたか?」


フェールは僕を一目見た。


「していた」


「その前は?」


「七年前」と彼は言った。「王都から来た。女だ」


心臓が速くなった。


「何という名前で?」


「署名はしなかった」とフェールは言った。「記号を残した」


「どんな記号です?」


「二文字」と彼は言った。「L と F」


僕はその場に立っていた。


「もう一度は?」


フェールは僕を見た。


「十年前」と彼は言った。「男だ」


「何と署名しましたか?」


「周明遠」


---


档案庫を出た時には、空が暗くなり始めていた。


最初に口を開いたのはマティルドだった。


「三組。十年前、七年前、去年」


「みな同じ冊子だ」と林新年。


「みな同じ穴だ」と僕。


「どうするの?」とマティルド。


僕は少し考えた。


「僕たちはそれを調べられない」と僕は言った。「三度とも調べられていない。僕たち

が最初じゃない」


「なら、何を調べるの?」


「誰が持ち出したかを調べる」


「持出欄は空よ」


「そう」と僕は言った。「だから調べるのは、あの冊子じゃない。その年の持出簿だ」


フェールが言っていた。持出簿は一階にある。持ち出された冊子は、必ず持出簿に一行

残す。日付、冊号、持出先、経手の署名。


冊子の行の「持出先」は空だった。


だが持出簿には、名前が残る。


---


源橋に戻ったのは、それから三日後だった。


その晩、アニスが研究室の入口で待っていた。


手に紙を一枚。端が巻き、折り目が多く、ずっと懐にあったのが分かる。


「借りができたね」と彼女は言った。


「何を?」


「これ」と彼女は紙を机に叩きつけた。「親父が死んで、工房は兄貴のものになった。

兄貴は帳面を見ない。帳面は屋根裏に十年積んで、鼠が半分食った」


「探したんですか?」


「一か月」と彼女は言った。「あんたたちが言ったろ。解体した冊子は半ミリ短くなる

って」


「言いました」


「七四二年の冬」と彼女は言った。「工房で冊子を一批解体した。親父が帳面に書いて

る」


彼女は紙を裏返した。


彼女自身が写した一行がある。


「七四二年 冬月初九 解体改装 北境駐防名録(第四冊)。委託:院長室。経手:」


続きは名前だった。


彼女が写したもので、一字一字、丁寧に。


僕は長いことそれを見ていた。


その名前を、僕は知らない。


エイドラー・デリルス


「誰ですか?」と僕は聞いた。


林新年はその紙を見つめていた。


「この人物は、学院の年録に出てくる」と彼は言った。


「どの科の?」


「教えていない」と林新年は言った。


彼は顔を上げた。


「内城で、観測を管んでいる」

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