↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/18

第六章 優先権

当直簿が手に入ったのは、それから四日後だった。


マティルドが抱えて来た時、彼女の顔は青かった。


「指導教官がくれた」と彼女は言った。「見たら返せって。見終わったかどうか、分か

るって」


「なぜ分かるんです?」


「六頁目に、髪の毛を一本挟んであった」


当直簿は厚い。革表紙で、角を銅で包んである。二百年、一日一行、筆跡は数十種。


僕たちは後ろからめくった。


七四九年、七四八年、七四七年……どの年も三百六十行、布みたいに詰まっている。


七四二年に来て、その頁がなかった。


空白ではない。破り取られていた。


破れ口はきれいで、綴じ糸に沿っている。破った人間は丁寧だ。一頁だけを破った。


マティルドは冊子を持ち上げ、灯にかざした。


「紙の切口が黄色い」と彼女は言った。「ずいぶん前よ」


「どれくらい?」


「十年以上」


誰も何も言わなかった。


「だが、四つ目の点はある」と希捷莉卡が言った。


六年前の頁のことだ。


源橋観測台、六年前のある記録。学院の定本と同じ器具、同じ方法。彼女はその一行を

写し取り、形に代入した。


乗った。


四つ目の点が、閉じた。


「今、何点?」


「四つ」


希捷莉卡は筆を置いた。


「結論の保留は取り消せる」と彼女は言った。「四つは四つ。三つじゃない」


僕は机の上の紙を見た。


四つの点、一本の線、形は刻んだみたいにはっきりしている。


喜ぶべきだった。


あまり喜べなかった。


七四二年以降、僕たちの手にある記録は、どれも同じ年に穴を開けられている。


偶然じゃない。


その年の冬を指せる場所すべてに、誰かが穴を残している。


---


それからの日々は、むしろ静かだった。


止まったんじゃない。待っていた。


五つ目の点を。マティルドが当直簿をもう一度読める日を。希捷莉卡があの壁の紙を全

部計算し直すのを。


待っている間、僕は初めて「学校に通う」という日々を送った。


学院の一日はこうだ。


辰の刻三つ、鐘が鳴る。三つで授業、二つで食事、一つで閉館。


朝飯は食堂で、麦粥一杯、黒パン一つ、漬物ひとさじ。粥はぬるく、パンは硬い。最初

に食べた時は噛めなくて、口に含んで柔らかくなるのを待った。


食堂は僕より二つ頭高い人間ばかりだった。碗を持って歩いていくと、彼らは少し退い

て、それから自分の話を続ける。


一度、誰かが僕の碗を手で押さえた。


「十歳だって?」


「はい」


「十歳で何しに来た」


「書き写しです」


そいつは笑った。


「写しはいいな」と彼は僕の碗を自分のほうへ半寸引いた。「写しの奴は、多く食え」


僕は何も言わなかった。


すると林新年が後ろから来て、自分の碗を僕の隣に置き、座った。


何も言わなかった。


ただ座って、食べ始めた。


そいつは二度ほど彼を見て、碗を戻した。


「林新年、うちは金持ちだろ」と彼は言った。「なぜ毎日これを食う」


「これがいい」


「どこが」


「待たなくていい」


そいつは黙った。


僕はあの一言を、何となく言ったのだと思っていた。


後で分かった。彼は毎日それを食べていた。その献立が一番速いからだ。速く食べるの

は、僕が碗を押さえられた時に、ちょうど隣に座るためだった。


いつから計算していたのか、僕には分からない。


---


午前の仕事は書写だ。


学院には古い档案が山ほどあり、写すと一冊三銅貨。僕は大人より速かった。前世で三

年、文献カードを写していたからだ。


九日目、監督が僕を呼んだ。


「君の写したものは、他人と違う」


「どこがですか?」


彼は二頁を並べた。


「他人は字を写す」と彼は言った。「君は版式を写している。ほら、行間、句切り、抬

頭、空行、全部写している」


「空行も中身なので」


彼はしばらく僕を見た。


「君、何歳だ」


「十歳です」


「君の写したものは、他人のより高く売れる」と彼は言った。「一冊五銅貨にしよう」


「はい」


「ただし――」彼は二頁をしまった。「版式は写すな。買う人間には分からない。写し間

違いだと思う」


「空行に意味があったら?」


「それは君の管轄じゃない」


僕は金を受け取り、出た。


入口でしばらく立ち、この言葉を書き留めた。


「第十九条:写本師は版式を記録してはならない。理由:買う者に理解できないため。

」


---


昼になると、研究室にはたいてい二人いる。


僕と、林新年だ。


彼は自分の文献を読み、僕は自分の資料を見る。一時間、ひと言も話さないこともある

。


だが、どちらかが顔を上げると、もう片方は手を止める。


最初は気づかなかった。気づいてから、三日間観察した。


三日で、僕たちは十一回、顔を上げた。


十一回とも、向かいの人間は手を止めた。十一回とも。


後で理由を聞いた。


「顔を上げるのは、用があるからだ」と彼は言った。


「首が疲れただけのこともある」


「それも用だ」


---


外城へは数日ごとに行った。


表向きは、写し終わった冊子を届けるため。


実際は、陶家の窯だ。


陶師匠は僕がなぜ来るか聞かない。彼が窯を焚く時、僕は横で見る。長く見ていると、

彼は一言二言言う。


「この火を見ろ」


「何をですか?」


「色だ。火には色がある。最初は赤、次に白、最後に青」と彼は鉄の鉤で窯口をかき回

した。「白の時に薪を足す。青になったら止める」


「青になったと、どうやって分かるんです?」


「見れば分かる」


「どう見れば?」


彼は一瞬止まった。


「見れば、分かる」


僕はノートを出し、この一言を書き留めた。


「第二十条:陶師匠は七種の火色を識別できるが、判別方法を記述できない。未記録知

に属する。」


彼は僕が書いているのを見て、覗き込んだ。


「何を書いてる」


「あなたが死ぬからです」


彼は顔を上げた。


「両親もそう記録していました」と僕は言った。「職人の言葉をたくさん残している。

話した本人も、自分が知っていると知らないことを」


陶師匠は長いこと僕を見ていた。


それから笑った。


「この子は」


彼は薪を二本くべた。


「次に来たら、火色の分け方を教えてやる」


「はい」


「ただし条件がある」と彼は言った。「書き残すな」


「なぜです?」


「書き残すと」と彼は鉤を壁に立てかけた。「他人のものになる」


---


あの靴に気づいたのは、十九日目だった。


朝、履いた時に、大きくないと思った。


足が伸びたのだと思った。十歳は育つ。


だが数日して、違うと分かった。


靴は大きくなっていない。


靴が直されていた。


底が縫い直され、針目が元より細かい。脛の部分が一線詰められ、ちょうど合っている

。履き口の糸は新しく、色が少し濃い。


底を縫った手は安定していて、運針が斜めで、その斜めが一定している。


履き慣れたのだと思っていた。


僕は注意し始めた。


三日見て、気づいた。林新年の袖口に、短い糸くずがついている。


紺ではない。麻色だ。


僕の靴と、同じ色だ。


僕は聞かなかった。


どう聞けばいいか、分からなかった。


――なぜ、自分の弟でもない人間の靴を直して、しかも黙っているのか。


三日考えて、聞き方が思いつかなかった。


---


申報季が貼り出されたのは、二十一日目だった。


掲示は学院の中庭の柱に、赤い紙で、大きな字で貼られた。


「源橋学院 第七五二年 課題申報季 公告」


下に題目と申報者が並んでいる。


僕は一目で見つけた。


「『魔力減衰の観測方法と段階的結論』

申報者:崔叙(古文化と生物学・講師)

引用出所:源橋学院蔵・陳遠志、蘇懐瑾未刊稿・第三巻」


僕は長いこと立って見ていた。


横を誰かが通り過ぎて、振り返って僕を見るほど長く。


その晩、僕は申報書を写して持ち帰った。


「第一四八号 魔力減衰速度 〇・〇二三」


その数字は、僕たちの形の外にある。


その数字は、書き換えられたものだ。


そして今、それは一つの課題になり、講師の三年分の経費になり、学院年録に載る成果

になろうとしている。


崔叙は周明遠の学生だ。


十年前の。


---


翌朝、僕たち五人で研究室に座った。


誰も話さなかった。


「異議申立てはできる」と嬴倩が言った。


「どうやる?」


「書面を出す。課題審査会に」と彼女は言った。「理由を書いて」


「理由は何だ?」


誰も答えなかった。


理由ならある。


三点と、四点目と、あの形だ。


〇・〇四七が形の内にあり、〇・〇二三が形の外にあることだ。


互いに無関係な三系統のデータで、あの頁が偽物だと証明できることだ。


問題は――それを口にした後だ。


「口にしたら」と林新年が言った。「君が〇・〇四七をどこで知ったか、調べられる」


「両親のノートに」


「そう。次に档案室。档案室から嬴倩。嬴倩から、十歳の子どもに扉を開けた事実」


彼は少し止まった。


「次に観測台。君だ」と彼はマティルドを見た。「指導教官から渡った鍵、あの一本の

髪の毛」


「それから?」


「それから」と林新年は言った。「十歳の子ども一人、見習い一人、役職のない文献学

の学生一人、卒業していない人文歴史学の学生一人が、なぜ三週間も学院で調査してい

たのか、と聞かれる」


彼は手に持った本を閉じた。


「調べる側が先に処理される」と彼は言った。「調べられる事柄より先に」


マティルドは長いこと黙っていた。


隅に座り、石板を抱えている。


「指導教官が、昨日私を呼んだ」と彼女は言った。


僕たちは全員彼女を見た。


「『最近、十歳の子どもの手伝いをしていないか』と聞かれた」


「何と?」


「はい、と答えた」


「それで?」


マティルドは顔を上げた。


「笑った」と彼女は言った。「『やっと人を探し始めたのね』と」


「それから?」


「それから、当直簿をもう一度見せてもいい、と言われた。ただし、何を探しているか

話せと」


「話した?」


「話した」とマティルドは言った。「七四二年の冬の頁を探している、と」


部屋が静かになった。


「彼女は何と?」


「その頁は」とマティルドの声は平坦だった。「彼女が科長になった最初の年に、自分

で破った、と」


---


僕は周明遠の部屋へ行った。


ノックはしなかった。


扉を押し開けると、彼は机の後ろに座り、紙を一枚広げていた。


あの申報書だ。


彼は顔を上げた。


「来たか」


「教授」


「座れ」


僕は座らなかった。


「申報書の数字は、偽物です」


「知っている」


僕は固まった。


知っている。


「では、なぜ黙っているんです?」


周明遠はその紙を閉じ、机に押さえつけた。


「陳臨」と彼は言った。「君の両親がノートを学院に納めた時、一枚の紙に署名した」


「何の紙です?」


「譲渡書だ」と彼は言った。「こう書いてある。『研究記録の所有権、使用権、署名権

は、すべて源橋学院に帰属する』」


僕は立ったまま動けなかった。


「署名の時、僕もその場にいた」と彼は言った。


「なぜですか?」


「納めなければ、収蔵されない。収蔵されなければ、番号がつかない。番号のないもの

は、学院に存在しないことになる」


彼は手を申報書の上に置いた。


「君の両親のノートは、今は学院の財産だ」と彼は言った。「崔叙が使うのは、規則違

反ではない」


「だが、偽の数字を使っている」


「数字の真偽は、審査会が認めなければならない」と彼は言った。「そして審査会の規

則は――異議を出す者は、署名しなければならない」


彼は僕を見た。


「署名すれば、君は、なぜその数字が偽だと分かるのかを説明しなければならない」


僕はそこに立っていた。


窓の外の光は強い。部屋は静かだ。


「教授」


「ん」


「あなたは、いつ、その数字が偽だと知ったんですか」


周明遠は長いこと僕を見た。


そして一言だけ言った。


「君が思うより早く」


---


部屋を出た時、手が震えていた。


怒りじゃない。


自分が押さえられないと分かっていたからだ。


前は中庭だ。中庭の柱の下に、まだあの赤い紙を見ている人がいる。


僕は歩いていった。


柱の前に立った。


顔を上げ、口を開き――


手が肩に置かれた。


重くはない。ただ置かれている。


「ここで言うな」


林新年の声だ。すぐ近く。


「なぜです?」


「今言えば、奴らは一つしか覚えない」


「何を?」


「十歳の子どもが、柱の前で叫んだことだ」


僕は立っていた。


彼の手の力は変わらない。引っ張りもしないし、押しもしない。ただ置いて、僕が自分

で考えるのを待っている。


僕は五回ほど呼吸する時間、考えた。


それから口を閉じた。


---


その晩、僕は記録を書かなかった。


僕は研究室に座り、自分の手を見ていた。


林新年は向かいに座っていた。彼も本を読まず、ただ座っていた。


長いこと経ってから、僕は聞いた。


「今日、なぜ中庭にいたんです?」


「今日はずっと、君について歩いていたからだ」


「なぜ?」


林新年はすぐには答えなかった。


彼は懐から小さな手帳を出した。


文献用のとは違う。もっと小さく、革表紙で、角が丸く擦れている。


開いて、机に置き、僕のほうへ押し出した。


僕は下を向いて読んだ。


「陳臨。第一日。靴が二サイズ大きい。歩くと右足が脱げる。言わなかった。」


「陳臨。第三日。食堂。碗を押さえられた。反撃しなかった。僕が着くまで、四拍待っ

た。」


「陳臨。第五日。初めて笑った。原因:嬴倩が自分に墨をこぼした。」


「陳臨。第十一日。ガラスを見て、手が半寸止まった。」


「陳臨。第十九日。靴が合った。四十日目。彼は気づいた。」


僕は顔を上げた。


「これは何です?」


「出所だ」と林新年は言った。


「何の?」


「君が言った。すべてのデータに出所を書けと」と彼は言った。「人間も、僕にとって

は出所だ」


彼は手を伸ばし、手帳を戻して閉じた。


「四年、記録している」と彼は言った。「七四二年を調べ始めた日から」


「誰を?」


「知っている人間全員だ」と彼は言った。「誰が、どの日に何を言ったか。何を言わな

かったか」


彼はその手帳を見た。


「誰かが、一年まるごと記録から破り取るからだ」と彼は言った。「僕は、身近な人間

が白紙の頁になるのを見たくない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。