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第二章 空白の一年

夜が明ける前に、僕は布の包みの中身を全部ひっくり返して、数え直した。


手稿七巻。地図四枚。資料サンプル十二点。インク瓶一つ。


目録は母さんの字で、巻頭に挟んである。十二点、一つも足りないものはない。


僕は十二点を番号順に並べて、一つずつ照合した。


第一号から第十号までは鉱物と土だ。灰白色の岩屑、黒ずんだ川砂、結晶のついた砕石

がいくつか。


第十一号は、砂がひとつまみ。


第十二号は、ガラス。


違う。砂が焼けてガラスになったものだ。指先ほどの大きさで、縁は溶け、断面には溶

けきらない砂粒が残っている。ごく短い時間、極端な高温に晒されたみたいに。


僕はそれを摘まんで二回転がした。薪の火では、この断面はできない。


元の場所に戻して、目録の第十一号の行を開く。


「第十一号 砂 灰谷裏山 七四二年冬」


僕は長いこと、それを見ていた。


七四二年の冬。


その冬、両親は最後の報告書を提出した。その冬、両親は源橋を離れた。


その冬、僕は生まれた。


そしてこの砂は、灰谷の裏山から採られている。


僕が育った場所だ。


つまり――二人が灰谷へ行ったのは、「逃げ込んだ」んじゃない。


最初から、あそこを採りに行っていた。


僕は目録を閉じて、巻頭に戻した。それから全部を順番に、自分のノートに書き写した

。一つも省かずに。


昨日は中身を写した。今日からは、別のものを写す。紙の寸法、一頁あたりの行数、墨

の濃さ、綴じ糸の位置。


僕が写しているのは、「中身が寄りかかっているもの」だ。


いつか原本が消えた時、それが確かに存在していたと、誰かが証明できるように。


---


「早いな」


入口に人が立っていた。


林新年が、片手に本、片手を鴨居に当てて、部屋に先客がいると思っていなかったらし

く、一瞬止まった。


「君のほうが早いと思ってた」


「眠れなかったので」


「昨日来たばかりだろ」


「だから、なんです」


彼は何も言わずに入ってきて、自分の机に本を置いた。朝の光が高い窓から斜めに差し

て、壁の星図の上に落ちる。


僕は昨日から、あの図が少し気になっていた。


「あの星図」と僕は言った。「一か所、直してあります」


林新年が振り返る。


「分かるのか?」


「直した場所の墨が、周りより新しい。それに、直した人は手が安定している。細い筆

を使っている。でも、描き足した星が、元の星より一回り小さい」


彼はしばらく僕を見ていた。


「観星科が直した。三年前だ」


「なぜ直したんです?」


「その星の位置が間違っていたからだ」と彼は座った。「あの図は学院が二百年使って

きた定本だ。直した人間は叱られた。観星科の老先生たちは言った。定本は動かすな、

と」


「直したのは正しかったんですか?」


「分からない」


「名前は?」


「シェジェリカ」と彼は言った。「星体占卜と観測の科だ。今年十四歳」


彼は本を開いて、また止まった。


「彼女はもう一言言って、老先生たちを本気で怒らせた」


「何て?」


「自分が直したのは位置じゃない、と」


林新年は僕を見た。


「速度だ、と」


部屋が一瞬静かになった。


僕は昨日、誰かが両親の記録を半分に書き換えたのを見つけた。書き換えられたのは、

これも速度だった。


星が動くことと、世界が壊れていくことが――同じ問題の別の言い方かもしれない。


僕はそれを書き留めた。書きながら思っていた。この学院の壁には、誰かに直された図

が掛かっていて、直した人間は叱られた。


この学院は、動くものを好まない。


---


午前、林新年は僕を档案室に連れて行った。


一番奥で、廊下より半階低い。扉には錠が二つ、框には印章のような紙が貼ってある。


「入る前に言っておく」と彼は声を落とした。「教授が許可証を切った。だが許可され

たのは『閲覧』だけだ。『筆写』は入っていない。だから見るだけだ。書くな」


「はい」


「それから――棚に触るな。嬴倩に殺される」


扉が開いた。


中は思ったより高く、思ったより詰まっていた。木の棚が天井まで並び、真ん中に細い

通路が一本だけ。一番奥に脚立が立っていて、その上に黒髪の少女が座り、膝に冊子を

広げて字を書いていた。顔も上げない。


「嬴倩」と林新年。「陳臨だ。教授の許可証はここにある」


「机に置いて」


「見もしないのか?」


「教授の字は分かる。左に傾く」


彼女はその頁を書き終えてから、ようやく僕を見た。


水底の石みたいに静かな目だった。


「十歳で档案室、君が初めて」


「ありがとうございます」


「褒めてない」


彼女は脚立から降りた。動作が速い。


「何を探してる?」


「七四二年。古代文化研究室の収蔵記録です」


彼女は一瞬止まった。


「……君の両親?」


「はい」


「あのノートは私が目録を作った」と彼女は言った。「三年前に組み直した。古い番号

が乱れていたから」


彼女は奥へ歩き出す。


「来て。棚に触らないで」


僕は档案が時系列で並んでいると思っていた。


違う。出所で並んでいる。どの部門が、どの年に収蔵し、誰が手を通したか。だから何

かを探すには、まずそれがどの門から入ってきたかを知らなければならない。


「決まりはこう」と嬴倩は歩きながら言った。「資料が档案室に入ると、三つの手を通

る。登録、目録、捺印。三つの手の名前を全部書く。誰かを記念するためじゃない。問

題が起きた時に、人を見つけられるように」


彼女は棚の前で止まり、冊子を一冊抜いた。


「七四二年冬。古文化と生物学。収蔵第七一〇号」


開く。


「収蔵第七一〇号 神隕処生態調査 七巻 七四二年冬」


「登録:周明遠」


「目録:周明遠」


「捺印:院長室」


僕はその三行を見つめた。


「下が貸出」と嬴倩は言った。


彼女は頁をめくる。


「貸出:七四二年冬 第十二日」


「借用者署名:周明遠」


「経手:院長室」


「教授?」と僕は言った。


「教授」と彼女は言った。


林新年が僕の手から冊子を取り、長いこと見ていた。


「おかしい」と彼は言った。


「どこが?」


「収蔵は冬月初三だ」と彼は上の行を指した。「貸出は第十二日」


「だから?」


「十一天」と彼は言った。「档案室に入って十一天で、そのまま貸し出されている。し

かも借りたのは、それを持ち込んだ本人だ」


彼は冊子を閉じた。


「借りるなら、最初から出すなよ」


嬴倩が横で少し考えた。


「その月」と彼女は言った。「教授は源橋にいない」


「何?」


「公文冊を取りに行く。待ってて」


彼女は速かった。戻ってきた時には、もう一冊抱えていた。


「七四二年冬 古代文化研究室 公文控え」


彼女はその十日間をめくっていく。


「七四二年冬 第十四日 発行地:理城」


――収蔵は初三、貸出は第十二日、発行は第十四日。


つまり、その十日間、彼は内城の理城にいた。


そして貸出の日、源橋の档案室で、誰かが彼の名前で「周明遠」と書いた。


僕は二つの頁を見た。


同じ人間、同じ名前が、二か所。一つは本人が書いた。一つは違う。


彼の字は、左に傾く。


---


「もう一つある」


林新年が急に言った。


彼は第三列へ行き、一番上の段を見上げた。


「届くか?」


「……届きません」


彼は脚立を運び、登って、冊子を一冊抜いた。表紙にはこうある。


『北境駐防・哨所名録』


僕は一瞬止まった。


さっき、収蔵記録の列で、彼はもう一冊『王都武官名録』を開いていた。今抜いたのは

、同じ列の別の一冊だ。


彼が探しているのは武官じゃない。


哨所だ。


彼は降りて、冊子を机に広げ、めくり続けた。


僕は横で見ていた。頁をめくる速度が、だんだん遅くなる。


そして止まった。


その頁は、白紙だった。


一頁めくる。白紙。


もう一頁。白紙。


彼は最後までめくった――冊子まるごと、その一年は、最初から最後まで一行もない。


紙は黄色く、縁は古い。頁の番号はつながっている。綴じは無傷。ただ、字がない。


「七四二年」と彼は言った。


声は平坦だった。


「祖父はその年、北境にいた。第四哨所。二十六歳で」


「それから?」


「それからはない」と彼は言った。「一年まるごと。正月から大晦日まで、白紙だ」


「他の人間の記録は?」


「調べた」と彼は言った。「その年、王都武官名録には、他の連中の異動も昇進も戦死

も全部載っている。北境第四哨所だけが、一年まるごと空白だ」


彼は手をその頁に置いた。離さない。


「父は、戦時の記録が残らなかったと言った」


「信じますか?」


「信じない」


彼は冊子を少し僕のほうへ押し、綴じを見せた。


「この冊子は生きている。綴じ糸が替わっているし、前後の紙も違う。誰かが分解して

、元の頁を抜き、新しい白紙を入れて、縫い直した」


僕は紙に触れた。


新しい。前後の古い頁より、新しい。


「四年前から探している」と彼は言った。


彼が僕を見ずに話すのは、これが初めてだった。


「一人で四年だ。家では誰もこの話をしたがらない。三回聞いた。三回目に、父はコッ

プを割った」


彼は冊子を閉じた。


「だから、誤解するな」


「してません」


「してる」と彼は言った。「今、なぜ僕が君を助けるのか考えている」


「僕は、あなたが何を探しているのか考えてました」


彼は顔を上げた。


「僕は君を助けに来たんじゃない」


「分かってます」


「うちは王都だ。僕はこういうものを読んで育った」と彼は言った。「君の両親の研究

は七四二年で止まっている。あの年の冬で」


彼は少し間を置いた。


「僕は君を助けているんじゃない。うちのことを調べている。ついでに君を助けている

」


部屋は静かだった。脚立の脇の小さな灯が揺れている。


「いいですよ」と僕は言った。


彼は固まった。


「何がいいんだ」


「ついでで、いいです」と僕は言った。「ただし条件が一つ」


「何だ」


「データの共有」と僕は言った。「君が何か見つけたら、僕は原本を見る。僕が何か見

つけたら、君が見る。どちらも結論だけ渡すのはなしだ」


林新年は長いこと僕を見ていた。


「……君は、本当に変わってる」


「昨日も同じことを言われました」


「褒めてない」


「その人も褒めてませんでした」


脚立の上から声が降ってきた。


「二人とも、他人の倉庫で財産分けの相談をするなら、もう少し静かにできない」


嬴倩は脚立に座ったまま、顔も上げずに、筆を止めない。


「それから」と彼女は言った。「あの頁は抜かれたんじゃない。入れ替えられた。抜く

と針穴が残る。入れ替えは残らない」


僕と林新年は同時にそちらを見た。


「なぜ分かるんです?」


「目録を作る時に測ったから」と彼女は言った。「どの冊子も、綴じ糸から紙の端まで

の距離を記録してある。あの冊子だけ、半ミリ短い」


彼女は最後の一文字を書いて、顔を上げた。


「七四二年を探してるんでしょ」


「はい」


「なら、がっかりするよ」と彼女は言った。「院長室の文書冊は、この列にない」


「どこに?」


「七四九年、内城が王国の観測記録と行政記録を統一すると言い出した。源橋は大量に

渡した」と彼女は言った。「移管目録はここにある。番号も巻数も日付も書いてある」


「目録にあるものは、全部届いたんですか?」


「届いた」と彼女は言った。「目録は揃ってる。中身は揃ってない」


彼女は薄い冊子を僕に渡した。


「移管・理城档案庫・七四九年」


僕は一頁ずつめくった。六頁目で止まった。


「北境観測記録・第四哨所・七四二年」


「冊数:一」


「状態:移管済」


「目録には『移管済』と書いてあります」と僕は言った。


「うん」


「その一冊は理城に?」


「ない」


「なぜ分かるんです?」


「去年、誰かが調べに行ったから」と彼女は言った。「戻ってきた時の申請書には、こ

う書いてあった。『該当冊子なし』」


---


外に出た時には、日はもう傾いていた。


マティルドが档案室の前の廊下に立っていた。石板を抱えて、三人で出てきたのを見て

、眉を上げる。


「入ったの?」


「入りました」


「凭什么——何でよ」彼女は石板を抱え直した。「私、去年、七四二年の貸出冊を見せて

欲しいって申請した。却下された」


「誰に?」


「院長室」


彼女はしばらく僕を見て、それから林新年を見た。


「許可証、君が?」


「教授が切った」


「周明遠教授が?」


彼女は二秒黙って、振り返らずに行った。


二歩で止まった。


「君たち、七四二年を探してる」


「なぜ分かるんです?」


「七四二年を探す人間は、まずここに来るから」と彼女は言った。「十年前にも一人い

た。君より年上で、君よりいい服を着ていた」


「その後は?」


「その後、来なくなった」


彼女は行った。


---


研究室に戻った時には、外は暗くなっていた。


僕はランプを点し、今日のものを一つずつ書き留めた。


「第三号:収蔵と貸出の間は十一天。署名は本人の筆跡と一致せず(標本数:一。結論

は保留)。」


「第四号:七四二年冬、本人は理城にいた。同期、誰かがその名義でノートを借り出し

た。」


「第五号:『北境駐防・哨所名録』の七四二年は一年まるごと空白。冊子は分解・再綴

じされている。林新年の祖父は第四哨所。」


「第六号:院長室文書冊は七四九年に理城へ移管。去年、誰かが調べた結果は『該当冊

子なし』。」


書き終えて、僕はペンを置き、一番最初の頁に戻った。


第一号の記録の下に、一行足す。


「第十一号資料:砂。出所:灰谷裏山。採取時期:七四二年冬。」


僕はその一行を長いこと見ていた。


七四二年の冬。


両親はその冬、報告書を出し、源橋を離れ、灰谷へ移った。


林新年の祖父はその冬、記録から消えた。


院長室はその冬、両親のノートを借り出した。


そして灰谷の裏山で、誰かがその冬、砂をガラスに焼いた。


僕は芯をいじった。炎が跳ねる。


入口に足音がした。


「まだ起きてるのか」


周明遠が扉の前に立っていた。ランプを提げている。中には入らず、框にもたれる。


「教授」


「今日は一日、档案室にいたそうだな」


「はい」


彼はうなずいた。まるで、ごく普通のことみたいに。


「来月、学院が古い資料を理城へ送る」と彼は言った。「本来は僕が行く」


彼は僕を見た。


「行きたいか?」


僕はすぐには答えなかった。


一つ考えていた。彼が僕たちの档案室行きを知ったのは、今日の午後だ。


だが彼が聞いたのは「何を見つけた」ではない。


「行きたいか」だった。


「行きます」と僕は言った。


「では行け」と彼は言った。「林新年を連れて行ってもいい」


彼は行った。


僕はノートの最後に一行足した。


「第七号:教授が聞いたのは、我々が何を見つけたかではない。記録しておく。」

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