第十四章 記録の地
二度目の許可は申請しなかった。
五日目の夜、忍んで行った。
行ったのは四人。僕、林新年、マティルド、ルナ。
マティルドは遮光灯を二つ、縄一卷、銅の定規を一つ。
林新年は紙と筆と、空白の記録表を一式。
ルナは母の帳面。
僕は希捷莉卡がくれた北境星位を一卷。
真夜中に土手を越えた。
草は変わらず整っている。一時間ほど進むと、あの灰白色の地面がまた現れた。
今度は音を頼りに進んだ。
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音の源は、一つの穴だった。
自然のものではない。縁は円く、切り口は平ら。直径四尺ほど。中は暗い。
熱い風が外へ吹いている。
暖かい。
灯を中へ向けた。
穴の壁は土ではない。暗い色の、滑らかな、規則的な文様のあるもの。文様は装飾では
ない。繰り返しだ。同じ形が、一度、また一度、また一度。間隔が完全に同じ。
僕はその文様を長いこと見ていた。
そして地面に座った。
「陳臨?」
答えられなかった。
僕はそれを見知っていた。
この世界のものではない。
前世のものだ。
前世で大学院にいた時、データセンターの案件を手伝った。古い機械室を一度見に行っ
た。あの架空地板、あの列に並んだラック、あの異常が一目で分かるようにわざと規則
的に並べた配置。
目の前にあるのは機械室ではない。
だが同じ考え方だ。
誰かが「物を保管する」ということを、建物にした。
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「陳臨」
林新年の手が肩に置かれた。
「顔が白い」
「大丈夫です」
「震えてる」
自分の手を見た。
そうだ。震えている。
怖いんじゃない。信じられないんだ。
なぜならこの世界の「神隕処」が、前世で僕が見た機械室と、設計の考え方で同じもの
だというなら――
この世界で「神」という字は、使い方を間違えている。
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僕たちは穴のそばに一時間ほどいた。
僕は、馬鹿げているがやらねばならないことをした。
穴を測った。
直径、四尺一寸。
数字を書き留めた。
次に文様。
間隔、約二指。
これも書き留めた。
次に温度。
手を穴の中に入れ、六十数えて引っ込めた。中の風は暖かく、熱くはないが、確かに熱
い。
これも書き留めた。
それから四つ目のことをした。
懐から希捷莉卡の北境星位を取り出し、地面に広げた。
ルナが覗き込んだ。
「これは?」
「彼女がくれた」と僕は言った。「着いたら空と照合しろと」
顔を上げた。
北境の星空は、僕の知っているものと違う。長く探して、ようやくあの星を見つけた。
学院の星図で希捷莉卡が直した星だ。
彼女は図の上で、その位置を少し東へ動かした。
そしてここでは、その位置は間違っている。
彼女が間違っているんじゃない。源橋の空と、ここの空は、そもそも違う。
僕は地面に座って長く計算した。
計算し終えて、手を止めた。
「どうした?」とマティルド。
「彼女が直したのは、あの星じゃない」と僕は言った。
「じゃあ何を?」
「観測点を直したんだ」と僕は言った。「源橋から見れば、彼女の修正は正しい。ここ
から見ても、彼女は正しい。だが――観測点をこの二つの間のどこかに置くと、どちらも
合わない」
ルナがゆっくり言った。「つまり――」
「つまり」と僕は言った。「空は動いていない。地が動いた。」
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僕たちが離れたのは明け方だった。
あの石は持って帰らなかった。
あのガラスも持って帰らなかった。
持って帰ったのは一つだけ。
穴の壁から落ちていた破片。
爪の先ほどの大きさで、暗い色。文様が一本。
包んで、懐に入れた。
帰り道、空が明け始めた。
土手を越えると、第七哨所の旗竿が遠くに見えた。
林新年が急に言った。
「さっき、穴の前での君の様子」
「はい」
「あれを知っていた」
僕は答えなかった。
「陳臨」と彼は言った。「見たことのないものを、なぜ知っている」
僕は彼を見た。
転生してから今まで、この質問を正しくした人間は、初めてだった。
口を開いた。
そして前のほうでマティルドが僕たちを呼ぶのが聞こえた。
走った。
土手の下に、五人の人間が立っていた。
内城の服を着ている。




