第十二章 第七哨所
哨所には人がいた。
入っていくと、一番奥の部屋から老人が出てきた。
低く、背が少し曲がっている。髪は真白で、周りだけ残っている。手には薪割りが一本
。
僕たちを見て、通行証を見て、それからマティルドを見た。
「スケーラー家」
「はい」
「君の家で前回来たのは」と彼は言った。「三十九年前だ」
彼は薪割りを腰に差した。
「入れ。外は風が強い」
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彼の名は安九。
守哨人ではない。守哨は七四年に引いた。「引き上げの令には『当哨所はすでに軍事的
価値なし』とあった」と彼は言った。「俺が残っているのは、家の畑が南に三里あるか
らだ。動けない」
彼は粥を煮てくれた。
「記録を取りに来たのか」
「はい」
「何の記録だ」
「七四二年の冬」
安九の杓が鍋の中で止まった。
それから笑った。
「十年遅い」
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「七四二年の冬」と彼は言った。「上から令が来た」
「いつです?」
「冬月初七」と安九。「日を覚えてるのは、その日、弟が戻ったからだ」
「令の内容は?」
「本年の冬季、観測・行旅・糧秣の記録一切を上申せず、現地封存。」
「現地封存」
「そう。封存だ」と安九。「封存の意味は、物はある、札を貼るだけだ」
「では、その物は?」
安九は立った。
部屋の一番奥の壁へ歩いていく。
「紙に書くなと言われた」と彼は言った。「俺たちは十年書いた」
彼は壁に掛かった古い幕をめくった。
壁は刻みでいっぱいだった。
床から梁まで、びっしり。刻みは一つ一つが一日。いくつかの列に分かれ、列の頭に一
字、月の名。
七四二年。
三百六十。
「紙は封じた」と安九は言った。「壁は封じなかった」
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僕はその壁の前に、長いこと立っていた。
記録は消えていない。
ただ場所を変えただけだ。
林新年はずっと数えていた。
数え終えて、一歩下がった。
「三百六十」と彼は言った。
「そうだ」
「全部合っている」
「合っている。一日足りない日もない」
「では、第四哨所は」
安九の手が下がった。
「第四哨所は」と彼は言った。「俺のところにはない」
「なぜです?」
「第四哨所の連中は」と安九。「あの冬、北から下りてきたからだ」
部屋が静かになった。
「北から?」
「そう」と安九。「冬月初五の夜、第四哨所は全隊で北から戻った。百三人で出て、十
九人で戻った」
「何をしに?」
「上からの仕事だ」
「何の?」
「四文字」と安九。「『禁地踏査』」
「戻った後は?」
「戻った後」と安九。「また令が来た」
「何の令ですか?」
「『第四哨所士卒、別冊に記録。原冊に入れず』」
分かった。
誰かがその年を破ったのではない。
その年は二冊に分けられた。
一冊は原冊。原冊では、第四哨所のその年は空白だ。
もう一冊は「別冊」。
「別冊はどこに?」
安九は首を振った。
「誰も見たことがない」と彼は言った。「だが、一人だけ見た」
「誰を?」
「あの冬」と安九。「内城から来た男だ。いい服を着て、内城の言葉を話した。哨所に
三日泊まって、紙を全部持ち帰った」
「名前は?」
「言わなかった」と安九。「だが、第四哨所の隊長と言い争った。言い争いの後、隊長
がそいつを一つの名で呼んだ」
「何と?」
安九は顔を上げた。
「デリルス」
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その晩、林新年は一人でその刻み壁の前に立っていた。
僕は遠くから見ていた。
彼は長く立っていた。それから懐からあの小さな手帳を出した。
開いて、二、三筆書いた。
書き終えて、閉じ、しばらく壁を見上げた。
そして僕がやったのと同じ動作をした。彼は手を伸ばし、あの「七四二年」の刻みに触
れた。
あのガラス紙に僕が触れたのと同じように。
人間が物に触る時、それはそこにあると確かめている。
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林新年はその晩、僕に一つ聞いた。
「もし選べるなら」と彼は言った。「君は、自分の家族が被害者であってほしいか、加
害者であってほしいか」
僕は長く考えた。
「分からない」
「僕は分かる」と彼は言った。「被害者であってほしい」
「なぜ?」
「被害者は覚えてもらえる」と彼は言った。「加害者は消されるだけだ」




