第十一章 北へ
あの写しを使うかどうかで、僕たちは一晩中言い争った。
ルナは父の字を机の上に広げた。〇・〇四七。
「出せば」とマティルド。「崔叙の課題はその場で終わる」
「だめだ」と林新年。
「なぜ?」
「出せば、最初に問い詰められるのは彼女だ」と彼はルナを指した。「王都から来た貴
族の娘が、他人の家の十年来の手紙を持って、源橋に現れる。審査会が最初に調べるの
は崔叙じゃない。彼女だ」
ルナは反論しなかった。ただ紙をしまい、畳み、懐に戻した。
「では保留にしよう」と僕は言った。
「いつまで?」
「一撃で殺せるときまで」
林新年が僕を一目見た。
僕たちは十日ほど口をきいていなかった。
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彼が戻ってきたのは、その晩だった。
扉を開けると、廊下に立っていた。荷物を二つ背負っている。一つは本、一つは着替え
。
彼は僕を見て、僕は彼を見た。
謝らなければならなかった。
十七通りの言い方を考えて、一つも口に出せなかった。
先に言ったのは彼だった。
「四年、調べた」
「知ってる」
「ここで止まれない」
「知ってる」
彼は荷物を下ろし、入ってきて、自分の机の後ろに座った。
「北境はいつだ」
「三日後」
「わかった」
彼はもう僕を見なかった。
その晩、彼は冊子を半分読み、僕はノートを三頁書いた。途中で四回、顔を上げた。四
回とも、向かいの人間は手を止めた。
あの件は、一言も話さなかった。その後もだ。
話さないことがある。それが僕たちが一緒に働ける理由だ。
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北境の通行証はスケーラー家のものだった。
林家のものではない。マティルドはそのために指導教官と一戦やった。
アリスの書き込みは見た。
「申請人、未成年。保護者意見:勧めない。」
「許可。理由:学院に禁止の先例なし。」
二行。一行目は反対、二行目は通過。彼女は反対もせず、止めもしなかった。
「これは、自分で行けということ」とマティルドは言った。
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同行は六人。
僕、林新年、マティルド、ルナ、それに学院が付けた護衛兼記録係が二人。
希捷莉卡は行かなかった。源橋に残って、自分の用を片づける。
里門で見送ってくれた時、彼女は紙を一巻くれた。
「北境の星位を計算した」と彼女は言った。「緯度が違う。着いたら、これで照合して
」
「何と照合するんです?」
「空と」と彼女は言った。「もしそこの空が、私の計算と合わなければ――君は、私がど
こで間違えたか分かる」
彼女は少し間を置いた。
「あるいは、私が、自分の物差しがどの年から歪んだかを知る」
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駅道を北へ七日。
その七日は、僕がこの世界で過ごした中で、一番「太平」に近い七日だった。
畑に麦があった。雨には傘があった。三日目に寄った町の宿の女将が、肉の入った汁を
出してくれた。五日目に塩隊と一緒になり、半日同行した。彼らは長くてゆっくりした
歌を歌った。
マティルドは馬上で三度、林新年と言い争った。一度目は僕の座る位置、二度目は塩隊
の騾馬、三度目は理由なし。
ルナはずっと僕を見ていた。
「何を書いてるの?」
「今日のことです」
「何を?」
僕はノートを見せた。
「七五二年四月 北行第一日。異常なし。これを基準線とする。」
「第二日。異常なし。」
「第三日。異常なし。汁に肉。」
彼女は長いこと見ていた。
「なぜ、これを書くの」
「後で要るからです」
「何が?」
「太平がどんなものかを、知っておく必要がある」
彼女はもう聞かなかった。
六日目の夜、風を避けられる岩壁の下で野営した。
ルナが火のそばで急に言った。
「君の父さんの手紙に、この道のことが書いてあった」
「どの一通に?」
「最後の一通」と彼女は言った。「七四二年の秋。こう書いてある。『第七哨所から北
へ一日行くと、土手がある。土手を越えると、草が変わる』」
「どう変わるんです?」
「三文字しか書いていない」とルナは言った。
「『整わない』」
火が鳴った。
僕はその三文字を書き留めた。
「第七日予報:土手の先、草は整わない」
その時は、彼が書き足りなかったのだと思っていた。
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第七哨所が視界に入ったのは、八日目の午後だった。
思ったより小さい。思ったより古い。
石の塀が一周、半分崩れている。中に三棟、二棟は屋根がない。旗竿はまだ立っている
。旗はない。
壁の番号札も残っていた。
「北境哨所・第七」
林新年は壁の下に長く立っていた。
僕は歩いていった。
「第四哨所は、あとどれくらい先ですか?」
「三日」と彼は言った。「だが道が切れている」
「道が?」
「第四哨所へ行く道は、地図では消されている」と彼は言った。「僕は別のところで知
った」
後ろからルナが口を開いた。
「道なら分かる」
僕たちは振り返った。
「母の帳面に、北境の路線図がある」と彼女は言った。「彼女が描いた。七四五年、一
度行っている」
「どこまで?」
「土手まで」とルナは言った。「そして戻った」
「なぜ戻ったんです?」
「帳面に四文字書いてあるから」とルナは言った。「君の祖父と、同じ四文字」
彼女は懐から紙を一枚出した。
「記録するな」




