表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
77/77

第76話 民の波と黒衣の影

 扉の前に立った瞬間、胸の奥で渦巻いていたざわつきが、ひとつの形を持ち始めた。

恐怖でも不安でもない。

ただ、進むしかないという感覚だけが、静かに私の背中を押していた。


 騎士団長が横に立ち、低い声で言う。


「リリア殿、外に出るなら私の後ろにいてくれ。絶対に離れるな。」


「……はい。」


 公爵は腕を組んだまま、扉の向こうを睨んでいた。


「外はもう騒ぎじゃない。波だ。飲まれるなよ。」


 カイルは私のすぐ後ろに立ち、静かに告げる。


「リリア様。民の魔力は限界です。あなたが出れば、一時的に静まります。」


 その言葉が、私の足を前へ進める最後の後押しになった。


 扉が開いた瞬間、空気が変わった。


 まるで、外の世界が私の存在を待っていたかのように、ざわめきが一度だけ大きく波打ち、

次の瞬間には、嘘のように静まり返った。


 邸の前の広場には、民が押し寄せていた。

数えきれないほどの人々が、互いに肩を寄せ合い、前へ前へと押し出されるように集まっている。


 その中心に、黒衣の一団が立っていた。


 黒衣の一団は民を囲うように並び、しかし民を守っているようにも見える奇妙な配置だった。

彼らは全員、私が姿を見せた瞬間に動きを止め、視線をこちらへ向けた。


 騎士団長が低く言った。


「……見ろ。民の魔力が一気に静まった。」


 公爵も息を呑む。


「……やはり、本当に止まったか。」


 カイルは私の横で、静かに頷いた。


「リリア様の存在が、民の魔力の乱れを抑えています。」


 私は自分の胸の奥が少し軽くなるのを感じた。

民の魔力が静まったことで、空気が落ち着いたのだ。


 しかし、その静けさは、安心ではなかった。


 まるで、嵐の前の均衡のような、張り詰めた静けさだった。


 民の中から、誰かが小さく叫んだ。


「……あれが……リリア様……?」


「本当に……魔法を消した……?」


「黒衣の人たちが言ってた通りなのか……?」


 ざわめきは小さく、しかし確実に広がっていく。


 そのざわめきを断ち切るように、黒衣の一団の中心人物が前へ進み出た。


 黒衣の一団の中心人物は、他の者よりも一歩前に立ち、まるで民の代表であるかのように堂々と声を上げた。


「リリア様、ようこそ。」


 その声は、広場全体に響くほどよく通った。


 民が息を呑む。

騎士団長が剣に手をかける。

公爵が舌打ちする。


 私はただ、その人物を見つめた。


 黒衣の中心人物は、ゆっくりと手を広げた。


「あなたこそ、魔力の新しい流れを開く者だ。」


 民がざわめく。


「新しい流れ……?」


「どういう意味だ……?」


「魔力が弱まってるのは……そのせいなのか……?」


 私は意味が分からず、ただ立ち尽くした。


「……新しい流れ……?」


 カイルが即座に前へ出て、鋭い声で言った。


「リリア様を利用するつもりだ!その言葉に惑わされてはいけません!」


 黒衣の中心人物は、カイルの言葉をまるで風の音のように受け流し、民へ向けて静かに告げた。


「民よ。恐れる必要はありません。魔力は新しい形を求めています。その中心に立つのが、リリア様なのです。」


 民の空気が揺れた。

ざわめきが、期待と恐怖の混ざった波となって広がる。


 騎士団長が低く言った。


「……まずいぞ。民が黒衣の言葉に傾き始めてる。」


 公爵は歯を食いしばる。


「黒衣の一団め……民の不安を利用しやがって。」


 カイルは私の横で、静かに言った。


「リリア様。民の魔力はあなたに反応しています。あなたが立っているだけで、魔力の乱れが抑えられている。」


 私は胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……私が、民の魔力を……?」


「ええ。あなたは魔力の外側にいる。だからこそ、民の魔力の揺らぎを中和できるのです。」


 民のざわめきは、私の存在に呼応するように波打ち、黒衣の一団はその波を利用しようと、静かに動き始めていた。


 私は息を吸い、民の顔を見渡した。


 恐怖、期待、不安、希望。

そのすべてが混ざった視線が、私へ向けられていた。


 この瞬間、私は理解した。


 民は黒衣の一団の言葉を信じ始めている。

そして、私の存在がその流れを止めることも、加速させることもできる。


 何を選ぶかで、王都の魔力は変わる。


 黒衣の中心人物が、再び声を上げた。


「リリア様、あなたの力が、王都を救うのです。」


 その言葉が広場に響いた瞬間、民の空気が一段と揺れた。

ざわめきは波のように広がり、私の足元まで震えが伝わってくる。


──救う?私が?どうして?


 胸の奥で疑問が渦を巻く。

けれど、民の視線はその疑問を許さないほど強く私へ向けられていた。


 騎士団長が一歩前に出て、黒衣の中心人物を睨みつける。


「勝手なこと言うな。リリア殿はお前らの道具じゃない。」


 黒衣の中心人物は、騎士団長の言葉をまるで風の音のように受け流し、静かに微笑んだ。


「道具ではありません。彼女は“鍵”です。」


 公爵が舌打ちした。


「鍵だの何だの……勝手な理屈を押しつけるな。リリア殿をお前たちの都合で巻き込むつもりなら、黙って見ていると思うなよ。」


「巻き込む?違います。」


 黒衣の中心人物は、民へ向けて手を広げた。


「民が求めているのです。魔力の新しい流れを。」


 民のざわめきが再び波打つ。


「新しい流れ……?」


「魔力が弱まってるのは……そのせいなのか……?」


「リリア様が……何かできるのか……?」


 その声は、期待と不安が混ざった複雑な響きだった。


 カイルが私の横で、低く言った。


「リリア様、民の魔力があなたに反応しています。あなたが立っているだけで、魔力の乱れが抑えられている。」


「……私が、民の魔力を……?」


「ええ。あなたは魔力の外側にいる。だからこそ、民の魔力の揺らぎを中和できるのです。」


 その言葉は、私の胸の奥に重く沈んだ。


 魔力の外側、魔力を持たない私だからこそ、できることがある。


 でも、それは本当に“救う”ことなのだろうか。

それとも、黒衣の一団の思惑に乗せられているだけなのだろうか。


 黒衣の中心人物が、再び声を上げた。


「民よ。恐れる必要はありません。魔力は弱まっているのではない。“形を変えようとしている”のです。」


 民が息を呑む。


「形を……変える……?」


「魔力が……変わるのか……?」


 黒衣の中心人物は、ゆっくりと私へ向き直った。


「リリア様。あなたが魔法を断つ力を持つのは、偶然ではありません。魔力の流れがあなたを選んだのです。」


 私は思わず言葉を失った。


「選んだ……?」


「ええ。魔力核はあなたを認識しました。あなたの力は、魔力の流れを新しい形へ導く“起点”となる。」


 騎士団長が鋭く言った。


「ふざけるな。魔力核がリリア殿を選んだなんて、勝手な解釈だろ。」


「勝手ではありません。」


 黒衣の中心人物は静かに言った。


「魔力核の脈動は、リリア様が魔法を断った瞬間に変化しました。それは“魔力核が彼女を認識した証”です。」


 公爵が息を呑む。


「……おい、それは本当なのか。」


 カイルは苦しげに目を伏せた。


「……事実です。魔力核はリリア様の力に反応しました。」


 民のざわめきが一気に大きくなる。


「魔力核が……リリア様を……?」


「じゃあ……本当に……新しい流れが……?」


「リリア様なら……魔力を戻せるのか……?」


 その声は、期待と恐怖が混ざり合い、私の胸の奥を強く締めつけた。


 黒衣の中心人物は、民のざわめきを利用するように声を張った。


「民よ、リリア様こそ、魔力の新しい流れを開く者だ。彼女が立つ場所に、魔力は集まり、形を変える。」


 騎士団長が叫ぶ。


「勝手なこと言うな!リリア殿はそんなこと望んでない!」


「望むかどうかは関係ありません。」


 黒衣の中心人物は静かに言った。


「魔力は、彼女を中心に動き始めているのです。」


 公爵が怒りを露わにする。


「やはり……お前ら……民を煽って、リリア殿を利用する気だろ。」


「利用ではありません。リリア様は、魔力の新しい未来を開く存在です。」


 民の空気が揺れ、私の周囲の魔力がわずかに集まり始める。


 胸の奥が熱くなる。

まるで、魔力核の脈動が遠くから響いてくるような感覚。


 私は息を吸い、黒衣の中心人物を見つめた。


「……私に、何をさせたいんですか。」


 黒衣の中心人物は、静かに微笑んだ。


「何も。ただ、そこに立っていてください。それだけで、魔力は動きます。」


 民が息を呑む。


「リリア様が……立つだけで……?」


「魔力が……動く……?」


 騎士団長が私の肩を掴んだ。


「リリア殿、聞くな。こいつらの言葉は全部罠だ。」


 公爵も低く言った。


「そうだ。あなたが立つだけで魔力が動くなんて、そんな都合のいい話はない。」


 カイルは私の横で、静かに首を振った。


「……しかし、事実です。リリア様が立っているだけで、民の魔力は静まっています。」


 私は胸の奥が強く脈打つのを感じた。


 民の魔力が静まり、黒衣の一団が私を中心に動こうとしている。


 そして、魔力核が私を認識したという事実。


 すべてが、ひとつの方向へ向かっている。


 黒衣の中心人物が、最後に静かに告げた。


「リリア様、あなたが立つ場所が、魔力の未来を決めるのです。」


 その言葉が広場に落ちた瞬間、民の空気が再び大きく揺れた。

面白いと思ったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ