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第62話 魔法の弱まり、王都全域へ

 朝の光が公爵家の廊下を照らしていた。

けれど、その明るさとは裏腹に、屋敷の空気は重かった。

昨日から続く報告の嵐が、今日も止む気配を見せない。


 執務室へ向かう途中、廊下を走る騎士たちの姿が目に入った。

普段は規律正しく歩く彼らが、急ぎ足で駆けている。

それだけで、王都の状況がどれほど深刻なのかが伝わってきた。


 執務室の扉を開くと、すでに公爵が地図を広げていた。

その横には魔導士団長が立ち、騎士団長が静かに腕を組んでいる。


「リリア殿。来てくれたか。」


 公爵の声は落ち着いていたが、その奥に緊張が潜んでいた。

私は小さく頷き、席に着いた。


「状況が変わったのですか。」


 魔導士団長が書簡を手にし、深刻な表情で言った。


「はい。王都全域で魔法の弱まりが確認されました。魔法灯が消え、魔法式の扉が開かなくなり、街の生活に支障が出ています。」


 騎士団長が静かに息を吐いた。


「魔法灯が消えたとなると、夜の治安が悪化するな。民が不安になる。」


 魔導士団長は続けた。


「魔導士団の魔法も、ほぼ使えなくなりました。発動しない、あるいは途中で消える現象が増えています。」


 私は思わず息を呑んだ。

魔導士団が魔法を使えない。

それは、王都の防衛が大きく揺らぐことを意味する。


 公爵は地図の上に手を置き、静かに言った。


「魔法の弱まりは、想定より早い速度で広がっている。」


 魔導士団長が地図の印を指した。


「こちらが昨日の範囲。そして、こちらが本日の範囲です。」


 昨日の印よりも、今日の印は明らかに広い。

王都の中心部だけでなく、商業区、住宅区にも広がっている。


 騎士団長が低い声で言った。


「このままでは、魔法に頼った生活が成り立たなくなる。」


 魔導士団長は頷いた。


「魔法式の水路も止まり始めています。水の供給に影響が出る可能性があります。」


 水路まで。

王都の生活は魔法に依存している。

それが止まれば、民の不安はさらに増す。


 公爵は静かに言った。


「王宮は沈黙したままだ。民は不安を募らせている。」


 騎士団長が報告書を手に取った。


「王宮前には人が集まり始めている。『王太子は何をしている』という声が増えているそうだ。」


 胸の奥が痛んだ。

アレクシスが沈黙している理由は、私も知っている。

けれど、民はそんな事情を知らない。

ただ、王都が危機にあるのに王太子が何も言わないことに不安を抱いている。


 魔導士団長が静かに言った。


「魔法が弱まる中で、魔法を無効化できる力はむしろ安定しています。」


 その言葉に、公爵がゆっくりと私へ視線を向けた。


「リリア殿。あなたの力は、今の王都で唯一安定している力だ。」


 騎士団長も続けた。


「魔法が暴走したり、制御できなくなった時、止められるのはあなたしかいない。」


 魔導士団長は丁寧に言った。


「魔法の弱まりが進むほど、魔法が不安定になります。リリア殿の力は、その対処に大きく役立つでしょう。」


 私は胸の奥に手を当てた。

自分の力が、王都の混乱の中で必要とされている。

その事実が、重く、そして確かに響いた。


 公爵は静かに言った。


「リリア殿。あなたの力を、王都のために使わせてもらう可能性がある。」


 その言葉は慎重で、重かった。

公爵は私の意思を尊重してくれている。

それが伝わる声だった。


 私はゆっくりと頷いた。


「……必要であれば、力になります。」


 公爵は静かに微笑んだ。


「ありがとう。あなたの言葉は、王都にとって大きな支えだ。」


 その時、執務室の扉がノックされた。

騎士団の隊員が入ってきて、深く頭を下げる。


「公爵様。王都北部でも魔法灯が消えたとの報告が入りました。魔法式の橋が動かなくなり、通行に支障が出ているそうです。」


 魔導士団長が目を見開いた。


「北部まで……。弱まりの速度が上がっています。」


 騎士団長は落ち着いた声で言った。


「橋が動かないとなると、物流が止まる。商業区に影響が出る。」


 公爵は隊員へ向き直った。


「北部の状況を詳しく調べさせろ。魔導士団にも追加の調査を依頼する。」


 隊員は深く頭を下げ、部屋を出ていった。


 魔導士団長は地図を見つめながら言った。


「魔法の弱まりは、王都全域に広がる可能性があります。魔法に頼った生活ができなくなる区域が増えるでしょう。」


 騎士団長が静かに言った。


「王宮が沈黙している今、民は不安になる。公爵家が動くしかない。」


 公爵は私へ視線を向けた。


「リリア殿。あなたの力は、王都のために必要になるだろう。」


 胸の奥が強く震えた。

王都の混乱の中で、私の力が必要とされている。

その事実が、静かに、しかし確かに心に響いた。


 私は深く息を吸い、ゆっくりと頷いた。


「……はい。」


 公爵は静かに言った。


「状況を見極めながら進める。あなたの力は、王都の新しい支えになる。」


 その言葉に、胸の奥に小さな決意が灯った。


 執務室の空気は、報告が重なるたびに静かに緊張を増していった。

魔法の弱まりは、もう王都の一部ではなく、全域へ広がっている。

魔導士団が魔法を使えないという事実は、王都の防衛の根幹を揺らすものだった。


 公爵は地図の上に手を置き、深く息を吸った。


「……状況は、想定以上に悪い。」


 その声は静かだったが、重さがあった。

騎士団長と魔導士団長も、言葉を失ったように地図を見つめている。


 魔導士団長が口を開いた。


「魔法式の設備が次々と停止しています。魔法灯、水路、扉、橋……。魔法に依存した生活が成り立たなくなりつつあります。」


 騎士団長は落ち着いた声で言った。


「民の生活が止まれば、不安はさらに広がる。王宮が沈黙している以上、頼れるのは公爵家だけだ。」


 公爵はゆっくりと椅子から立ち上がり、窓の外へ視線を向けた。

王都の街並みが広がっている。

そのどこかで、魔法が消え、民が困っている。


「……リリア殿。」


 呼ばれた瞬間、胸の奥が強く震えた。

公爵はまっすぐに私を見つめていた。


「魔法が弱まる中で、魔法を無効化できる力はむしろ安定している。」


 その言葉は、静かで、確信に満ちていた。


 騎士団長が続けた。


「魔法が暴走したり、制御できなくなった時、止められるのはあなたしかいない。魔導士団が魔法を使えない今、あなたの力は王都の安全に直結する。」


 魔導士団長も丁寧に言った。


「リリア殿の力は、魔法の弱まりの影響を受けません。むしろ、魔法が不安定な区域でこそ役に立つ可能性があります。」


 私は胸の奥に手を当てた。

自分の力が、王都の混乱の中で必要とされている。

その事実が、重く、しかし確かに響いた。


 公爵は静かに言った。


「リリア殿。あなたの力を、限定的に使わせてもらう。」


 その言葉は慎重で、重かった。

公爵は私の意思を尊重してくれている。

それが伝わる声だった。


 私はゆっくりと頷いた。


「……必要であれば、力になります。」


 公爵は静かに微笑んだ。


「ありがとう。あなたの言葉は、王都にとって大きな支えだ。」


 騎士団長が地図を見つめながら言った。


「まずは、リリア殿の護衛を増やす。魔法が不安定な区域へ行く可能性がある以上、守りを固める必要がある。」


 魔導士団長も続けた。


「リリア殿の力がどの範囲で作用するのか、どの程度の魔法を無効化できるのか、調査を進めます。」


 私は深く息を吸った。

胸の奥に灯った決意が、少しずつ形を持ち始める。


「……お願いします。」


 公爵は静かに頷いた。


「リリア殿。あなたの力は、王都の新しい戦力になる。」


 その言葉は、胸の奥に静かに染み込んだ。

公爵の言葉はいつも穏やかで、強くて、揺るぎない。


 騎士団長と魔導士団長はそれぞれ指示を出すために部屋を出ていった。

扉が閉まると、執務室は静かになった。


 公爵は窓の外を見つめたまま言った。


「リリア殿。あなたの力が必要になる時は、必ず私が判断する。安心してほしい。」


 私は静かに頷いた。


「……ありがとうございます。」


 公爵は静かに言った。


「さあ、準備を整えよう。王都のために。」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に灯った決意が、静かに強くなった。


 王都のために動く覚悟は、もう揺らがない。

胸の奥で静かに灯った思いは、確かな形となって息づいていた。

その力を求められる時が来るなら、私は迷わず応える、そう心に刻んだ。

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