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第58話 レグナートの嘘、暴かれる

 朝、公爵邸の中庭が妙に騒がしかった。

騎士団員が数名、早足で戻ってきている。

その足取りは、ただの巡回帰りとは違う。

何かを急いで伝えようとしているように見えた。


 私は廊下を歩き、玄関へ向かった。

そこには騎士団長が立っていた。

いつも飄々としている彼が、今日は眉を寄せている。


「団長。何かあったんですか。」


 騎士団長は私へ向き直り、短く息を吐いた。


「リリア殿。王都が少し騒がしくなってる。」


「騒がしい……?」


「市場で妙な話が広まってる。魔導士団が調べてる“魔法の弱まり”が、自然じゃないって噂だ。」


 私は息を飲んだ。

魔導士団の調査内容は、まだ公に発表されていないはずだ。


「どうして民がそんなことを……。」


「団員の誰かが漏らしたか、調査の様子を見た誰かが勘づいたか。どっちにしても、広まっちまった。」


 騎士団長は腕を組み、低く言った。


「『レグナートは嘘をついたんじゃないか』って声が出始めてる。」


 胸の奥がざわついた。

レグナートの言葉は、王都の民にとって希望だった。

その希望が崩れ始めている。


 そこへ、公爵が姿を見せた。

騎士団長の報告を聞いていたらしい。


「騎士団長。民の動きはどうだ。」


「王宮前の集まりが増えてます。『レグナートを出せ』という声も出てきています。」


 公爵は短く息を吐いた。


「沈黙を続ければ、民は自分で答えを探す。王宮はそれを分かっていない。」


 私は公爵へ向き直った。


「魔導士団の調査結果が、民に広まってしまったのですね。」


「そうだ。魔導士団が動けば、民は必ず反応する。」


 公爵は玄関の外を見つめた。

その視線は、王都の中心を見据えているようだった。


「魔導士団長が来る。詳しい報告があるはずだ。」


 騎士団長が頷き、玄関の扉を開けた。

そこへ、魔導士団長が姿を現した。

昨日よりも疲れた顔をしているが、その目には迷いがなかった。


「公爵様。リリア殿。」


 公爵は魔導士団長を執務室へ案内した。

騎士団長も護衛として同席する。


 魔導士団長は机の上へ数枚の書類を置いた。

その紙には、魔法の弱まりが起きている場所が細かく記されていた。


「魔法の弱まりが自然現象ではない可能性が、団内でほぼ確信へ変わりました。」


 公爵は書類を手に取り、目を通した。


「……規則性があるな。」


「はい。魔力が弱まっている場所が、一定の距離で並んでいます。自然現象では説明できません。」


 魔導士団長は地図を広げ、印がつけられた場所を指でなぞった。


「魔力の流れが乱れている場所が、まるで同じ力に触れたような痕跡を残しています。」


 私は地図を覗き込んだ。

魔法が弱まった場所の印が、昨日よりも増えている。

その並び方が、妙に気になった。


 騎士団長が地図を見ながら言った。


「この並び方……民が見れば、何かを疑うだろうな。」


 魔導士団長は静かに頷いた。


「すでに広まり始めています。市場では『レグナートの言葉は根拠がないのでは』という声が出ています。」


 私は胸の奥が締め付けられた。

レグナートの発言は、王都の民にとって希望だった。

その希望が嘘だったと知れば、民はどうなるのだろう。


 公爵は椅子に腰を下ろし、腕を組んだ。


「王宮が沈黙を続けている以上、民は自分で判断するしかない。レグナートの言葉が嘘だと分かれば、怒りはあいつに向かう。」


 魔導士団長は続けた。


「王宮前の民の集まりはさらに増えています。『レグナートを出せ』という声も強まってきています。」


 私は窓の外へ視線を向けた。

王宮は遠くて見えないが、その前に集まる民の声が風に乗って届くような気がした。


 騎士団長が低く言った。


「王都の空気が変わり始めてる。魔導士団の調査結果が民の動きを変えた。」


 魔導士団長は静かに頷いた。


「民は王宮の沈黙を待たず、自分たちで情報を集め始めています。」


 公爵は深く息を吐いた。


「レグナートの嘘が暴かれれば、王宮内部も揺れるだろう。」


 私はその言葉に胸が締め付けられた。

王宮の沈黙が崩れたことで、王都は揺れ始めている。

その揺れは、レグナートの嘘によってさらに大きくなっている。


 魔導士団長は書類をまとめ、公爵邸を後にした。

騎士団長はその背中を見送りながら、静かに言った。


「リリア殿。王都は、もう昨日の王都じゃないぞ。」


 私は地図を見つめたまま、胸の奥のざわめきを抑えられなかった。

魔導士団の調査結果が民の動きを変え、王都の空気を変えた。

その変化は、もう止まらない。


 王都は揺れている。

王宮も揺れている。

そして、私自身も揺れていた。


 その揺れは、ただの不安ではない。

胸の奥に沈んでいた小さな予感が、形を持ち始めているようだった。


 魔法の弱まりが自然ではない。

その事実が民へ広まり、王都の空気を変えた。

レグナートの言葉が嘘だったと知った民は、王宮を信じなくなる。


 私は静かに息を吸い、地図から目を離した。

胸の奥に沈んでいたざわめきが、少しずつ形を持ち始めている気がした。

魔法の弱まりが自然ではないという事実が、王都全体を揺らしている。


 公爵は机の上の書類を整えながら、低く言った。


「リリア殿。民の動きは、もう王宮の沈黙では止められん。」


 騎士団長が腕を組み、窓の外を見た。


「王都の空気が変わってる。昨日までとは別物だぞ。」


「……そんなにですか。」


「そうだ。民が自分で情報を集め始めてる。魔導士団が動いたって噂も広まってるしな。」


 魔導士団長の報告が、王都の民に影響を与えている。

それは予想していたことだったが、実際に聞くと重さが違った。


 公爵は椅子に腰を下ろし、指を組んだ。


「レグナートの言葉が嘘だったと民が気づけば、王宮への不信は一気に高まる。」


「……民は、どう動くのでしょう。」


「沈黙を続ける王宮を責めるだろうな。だが、最初に矢面に立つのはレグナートだ。」


 騎士団長が鼻で短く笑った。


「自分で撒いた種だ。レグナード殿の言葉を信じてた民が怒るのは当然だ。」


 私はその言葉に胸が痛んだ。

レグナートの言葉は、民にとって希望だった。

その希望が嘘だったと知れば、怒りは大きくなる。


 魔導士団長が静かに口を開いた。


「公爵様。王都の各地で、魔法の弱まりについて民同士が話し合っているようです。」


「話し合い……ですか。」


「はい。魔法に頼らない生活の工夫を共有したり、魔力の揺らぎが起きた場所を自分たちで確認しようとする者もいます。」


 騎士団長が驚いたように眉を上げた。


「民が自分で調べ始めたのか。王宮より早いじゃないか。」


 公爵は深く頷いた。


「王宮が沈黙を続ければ、民は自分で動く。魔導士団が調査していると知れば、なおさらだ。」


 私は机の上の地図へ視線を戻した。

魔法の弱まりが起きている場所の印が、規則的に並んでいる。

その並び方が、どうしても気になった。


 魔導士団長が地図を指でなぞりながら言った。


「この規則性は、民にも気づかれる可能性があります。」


 騎士団長が肩をすくめた。


「気づいたら最後だな。『自然じゃない』って噂が本物になる。」


 公爵は静かに言った。


「レグナートの嘘が暴かれるのは時間の問題だ。」


 私は胸の奥が締め付けられた。

王都の揺らぎは、もう止まらない。

魔導士団の調査結果が民の動きを変え、王宮の沈黙が民の不信を増幅させている。


 魔導士団長が書類をまとめながら言った。


「公爵様。団は引き続き調査を続けます。魔力の揺らぎの原因を突き止めるために。」


 公爵は頷いた。


「頼む。民の不安を少しでも減らすためにも、情報が必要だ。」


 騎士団長が魔導士団長へ向き直った。


「団長。民の前で調査する時は気をつけろよ。今の王都は何が起きてもおかしくない。」


 魔導士団長は静かに頷いた。


「承知しています。団員にも注意を徹底させます。」


 魔導士団長が執務室を出ていくと、部屋の空気が少しだけ軽くなった。

だが、その軽さは安心ではなく、次の緊張の前触れのように感じられた。


 騎士団長が机の端に寄りかかり、私へ視線を向けた。


「リリア殿。お前、顔が少し青いぞ。」


「……そんなにですか。」


「まあな。王都の空気が変われば、そりゃ気持ちも揺れるだろ。」


 公爵が静かに言った。


「リリア殿。無理をするな。状況は変わり続けるが、焦る必要はない。」


 私は小さく頷いた。

だが、胸の奥のざわめきは消えなかった。


 魔法の弱まりが自然ではない。

その事実が民へ広まり、王都の空気を変えた。

レグナートの言葉が嘘だったと知った民は、王宮を信じなくなる。


 騎士団長が窓の外を見ながら言った。


「王宮前の民、今日も増えるだろうな。」


 公爵は深く息を吐いた。


「レグナートが沈黙を続ければ、民の怒りはさらに強まる。」


 私はその言葉に胸が締め付けられた。

王都の揺らぎは、まだ始まったばかりだ。

そして、その揺らぎは私自身にも影響を及ぼしている。


 騎士団長が私へ向き直った。


「リリア殿。お前はどう感じてる。」


「……怖いです。王都が変わっていくのを、近くで見ているのが。」


 騎士団長は少しだけ優しい声で言った。


「怖いと思えるなら大丈夫だ。何も感じなくなったら、それこそ危ない。」


 公爵が静かに頷いた。


「リリア殿。王都が揺れている今、お前の感じることは大切だ。」


 私は深く息を吸った。

胸の奥のざわめきは、ただの不安ではない。

何かが近づいている予感だった。


 魔導士団の調査結果が民の動きを変え、王都の空気を変えた。

レグナートの嘘が暴かれ始め、王宮の沈黙が民の怒りを増幅させている。


 私は静かに言った。


「……王都は、もう昨日の王都ではないですね。」


 騎士団長が短く笑った。


「そうだ。今日の王都は、昨日とは別物だ。」


 公爵は机の上の地図を見つめながら言った。


「揺らぎは広がっている。だが、まだ崩れてはいない。」


 私はその言葉を胸に刻んだ。

王都は揺れている。

王宮も揺れている。

そして、私自身も揺れていた。


 その揺れは、次の変化を予感させるものだった。

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