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第57話 魔力の痕跡

 朝の光が公爵邸の庭に落ちていた。

昨日よりも風が冷たく感じられる。

王都の空気が変わり始めているのが、肌で分かった。


 私は窓辺に立ち、庭を歩く騎士団の姿を眺めていた。

彼らの動きはいつもと同じなのに、どこか落ち着きがない。

王宮の沈黙が崩れたことで、王都全体が揺れているのだ。


 公爵邸の廊下から、低い声が聞こえてきた。

公爵が騎士団員と話しているらしい。

内容までは聞こえないが、声の調子で緊張が伝わってくる。


 私は窓から離れ、廊下へ向かった。

公爵が地図を広げているのが見えた。

王都の各地に印がつけられている。

魔法の弱まりが報告された場所だ。


 公爵は地図から目を離し、私へ視線を向けた。


「リリア殿。王都の空気がさらに荒れてきてる」


「……民の集まりが増えているのですか」


「それもあるが、魔導士団の動きが気になる」


 公爵は地図を指で叩いた。

その指先は、魔法の弱まりが集中している場所を示していた。


「団が王宮の指示を待つかどうか、揺れてるらしい」


 私は息を飲んだ。

魔導士団が揺れるということは、王都の防衛が揺れるということだ。


「団長は、どうするのでしょう」


「判断を迫られてるだろうな。王宮があの調子じゃ、団員の不安も強まる」


 公爵は椅子に腰を下ろし、腕を組んだ。

その表情は、いつもより険しい。


「団が勝手に動けば、王宮との関係が悪化する。だが、動かなければ民が困る」


 私はその言葉に胸がざわついた。

王宮の沈黙が崩れたことで、状況はむしろ複雑になっている。


 廊下の奥から足音が聞こえた。

規則正しく、迷いのない足取り。

魔導士団の団長だ。


 団長は執務室へ入り、公爵へ深く頭を下げた。


「公爵。リリア殿」


 公爵は団長へ視線を向けた。


「団長。団の様子はどうだ」


 団長は短く息を整え、静かに口を開いた。


「団内の空気が揺れています。王宮の判断を待つべきだという者と、民を守るために動くべきだという者で意見が割れています」


 公爵は眉をひそめた。


「王宮があの調子じゃ、団員も不安になるだろうな」


 団長は頷き、続けた。


「団員の中には、王宮が状況を把握していないと考える者もいます。『指示を待つ意味はない』という声が強まっています。」


 私は団長の言葉に胸が締め付けられた。

魔導士団が揺れるなど、今まで考えたこともなかった。


「団長。団は……どう動くつもりなのですか」


 団長は私へ視線を向けた。

その目には迷いがあったが、同時に強い決意も見えた。


「独断で動くわけにはいかない。団として動くなら、判断を誤るわけにもいかない。だからこそ、公爵様とリリア殿に相談しに来た」


 公爵は椅子から立ち上がり、団長へ向き直った。


「団が動くなら、民の安全を最優先にしろ。それだけは絶対だ」


 団長は深く頷いた。


「承知しました」


 私は団長へ一歩近づいた。


「団長。団員の方々は……不安なのですね」


「ああ。魔法が弱まっている状況で、王宮が明確な指示を出せないことが、団員の焦りを生んでいる」


 団長は静かに続けた。


「暴走を防ぐためにも、団としての方針を早く決める必要があります」


 公爵は地図を指差した。


「団が動くなら、王都の状況を把握するのが先だ。民の安全を守るためにも、まずは情報を集めろ」


 団長は頷き、私へ向き直った。


「リリア殿。団として動く覚悟は固めました。民を守るために、王宮とは別に行動します」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が強く揺れた。

王宮の沈黙が崩れたことで、魔導士団はついに動き始めた。

その動きは、王都の流れを確実に変え始めている。


 私は静かに息を吸い、団長の言葉を受け止めた。


 魔導士団が動く。

王都が変わる。

そして、その変化は、私自身にも影響を及ぼすのだと感じていた。


 団長が去ったあと、公爵邸の執務室には静けさが戻った。

その静けさは、決断の余韻のように重く感じられた。

魔導士団が動くという事実が、空気を変えていた。


 私は机の上の地図へ視線を落とした。

魔法の弱まりが報告された場所に印が並んでいる。

その並び方が、妙に気になった。


 公爵は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。


「団が動けば、王都の流れは一気に変わる」


「……はい」


 公爵は地図を指で叩いた。

その指先は、魔法の弱まりが集中している区域を示していた。


「魔法の弱まりは、ただの偶然じゃない気がする」


 私は地図を見つめたまま、胸の奥がざわついた。

魔法の弱まりが起きている場所。

その距離。

その並び方。


 どこかで見たことがある。


 廊下の奥から足音が聞こえた。

規則正しく、迷いのない足取り。

魔導士団の団長だ。


 団長は執務室へ入り、公爵へ深く頭を下げた。


「公爵。リリア殿」


 公爵は地図から顔を上げた。


「早かったな」


 団長は手に持っていた新しい地図を机へ広げた。

そこには、魔法の弱まりが起きている場所が細かく記されていた。


 私はその地図を覗き込んだ。

印が増えている。

昨日よりも明らかに。


 団長は指で印をなぞりながら言った。


「魔法が弱まる場所には、共通点があります」


 公爵が眉をひそめた。


「共通点?」


「はい。魔力の流れが乱れている場所が、一定の距離で並んでいます」


 団長は地図を少し回し、別の角度から示した。


「この並び方は、自然に起こるものではありません」


 私は地図を見つめたまま、胸の奥がざわついた。

魔法の弱まりが起きている場所。

その並び方。

その距離。


 私が力を使った場所と、似ている。


 団長は私へ視線を向けた。


「リリア殿。何か心当たりはないか」


 私は地図を指でなぞった。

魔法が弱まった場所。

その並び方。

その距離。


 胸の奥が熱くなるような、冷たくなるような、不思議な感覚が広がった。


「……この並び方。どこかで見たことがある気がします」


 公爵が私へ視線を向けた。


「リリア殿。何か感じたか」


「はい。魔法が弱まっている場所が……私が力を使った場所と、少し似ている気がします」


 団長は目を細めた。


「やはり……何か関係があるのかもしれません」


 私は地図を見つめたまま、胸の奥のざわめきを抑えられなかった。

魔法の弱まりは偶然ではない。

団長の言葉がそれを裏付けている。


 公爵は静かに言った。


「リリア殿。あなたの力が、王都の魔力に影響している可能性がある」


 私は唇を噛んだ。

自分の力が、王都に影響を与えている。

その可能性は、怖さと責任の重さを同時に感じさせた。


 団長は地図を畳みながら言った。


「団は引き続き調査を続けます。魔法の弱まりの原因を突き止めるために」


 公爵は頷いた。


「民の安全を守るためにも、頼む」


 団長は深く頭を下げ、公爵邸を後にした。


 私は地図を見つめたまま、胸の奥のざわめきを抑えられなかった。

魔導士団が動き始めたことで、王都の流れは確実に変わっている。

そしてその流れは、私自身の力へと静かに繋がり始めていた。


 魔法の弱まりの“共通点”。

その並び方。

その距離。


 それは、私が知らないはずの何かを示しているように見えた。


 私は静かに息を吸い、地図から目を離した。

王都は変わる。

魔導士団も変わる。

そして、私も変わらざるを得ない。

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