第0話 婚約破棄の宣告
静かな婚約破棄から始まる物語です。
魔法至上主義の王国で、ひっそりと均衡を支えていた令嬢が捨てられ、やがて国の崩壊を見届けることになります。
短いお話から少しずつ広げていきますので、どうぞ気軽にお読みください。
王城の大広間は、いつもより静かだった。
魔法の光が揺らめく天井の下で、王太子アレクシスは私を見下ろしながら、淡々と告げた。
「リリア・エヴァンス。君との婚約を破棄する」
その言葉は、まるで冷たい水をかけられたように、私の胸に落ちた。
けれど、驚きはなかった。
――ああ、ついに来たのだと。
アレクシスの隣には、聖女エレナが立っていた。
彼女は柔らかく微笑み、まるで自分が選ばれるのが当然だと言わんばかりに、王太子の腕にそっと触れる。
「魔法を無効化する君の体質は、王国の発展を妨げる。これからは、聖女エレナと共に歩む」
その瞬間、周囲の魔法灯がふっと揺れた。
私の体質が反応したのだろう。
魔法を無効化する、この世界でただ一人の力。
それを“邪魔”と言い捨てる王太子は、どこまでも愚かだった。
「……正気ですか?」
私の声は静かだった。
怒りも悲しみもない。ただ、事実を確認するだけの声音。
アレクシスは眉をひそめる。
「正気に決まっている。魔法の時代に、魔法を消す君は不要だ」
――その言葉こそが、王国の終わりの始まりだった。
魔法障壁を安定させるのは、私の体質。
魔物の暴走を抑えるのも、私の体質。
王国の均衡を保っていたのは、魔法を使える者ではなく、魔法を“消せる”私だった。
それを知らないまま、王太子は私を捨てた。
「分かりました。婚約破棄、受け入れます」
私は静かに頭を下げた。
その瞬間、王城の空気がわずかに震えた。
魔法の流れが乱れ始めているのが、私には分かった。
――もう止める必要はない。
「あなたの力の時代を終わらせ、滅びゆく王国の結末を見届けます」
誰にも聞こえないほどの小さな声で、私はそう呟いた。
そして、王城を去った。
その背後で、魔法灯がひとつ、またひとつと消えていく。
王国の崩壊は、すでに始まっていた。
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この物語は本日、7月30日18時10分より第1章が開幕します。




