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竜人の番は竜殺し【BL】  作者: 出口もぐら@「継母の品格」書籍化進行中
第一章

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第5話 診察及び、治療方針(1)

 * * *


 ルドウェンは治療を受けるため、ゼリオンに案内されながら、施設内を歩いていた。

 そこですれ違う竜人達は立ち止まり、ゼリオンに一礼をして去って行く。それだけで、彼が地位のある竜人だと理解するのは容易かった。


 施設内ですれ違ったのは竜人だけではない。人や獣人も見受けられ、患者と思しき衣服を身に纏っていた。


 それらを視線で追いながら、ルドウェンはぼんやりと考える。

 竜都は人の国と比べると、文化的にも文明的にも数段先をいっているようだ。それはどこか、ルドウェンに自らが異物であるかのような錯覚を抱かせる。


 そんな彼を現実に引き戻したのは、ゼリオンの声だった。


「ルドウェン」

「あ、あぁ……」

「大丈夫ですよ、私がついていますから」


 親しげに名を呼ばれ、ぎこちなく返事をするルドウェン。こうして、寄せられる好意に戸惑いながら、ゼリオンとの距離を測りかねていたのだった。


 ゼリオンは先を歩きながら、腕の治療にあたる「医者」について語った。


「彼は少々、性格に難がありまして。医者でありながら、魔法を熱心に研究しているので……。研究職特有の性格といいますか。長生きしている分、治癒魔法の腕は確かなのですが……」

「はぁ……」


 ルドウェンは曖昧な返事をした。「そもそも竜人自体、人の常識とかけ離れているだろうに」という指摘を無理矢理呑み込んだのだ。


 そうして、ゼリオンが足を止めたのは一見、研究室のような部屋の前だった。ゼリオンがおもむろに扉を開く。


 そこにいたのは――白衣を纏った竜人族の男性。長生きしている、と語られていたがルドウェンよりも若々しい。

 彼の手にはグラス。椅子に腰掛けながら、優雅に酒を嗜んでいる。書類の山や本に囲まれ、日頃は忙しく過ごしている様子が想像できる。


 彼は二人に気付くとグラスを机に置いた。そして、軽快に声を上げる。


「あ、来た来た。待ってたわよ」

「勤務中では? それに、ここは医療機関ですよ」

「そんな勤務中に番を見つけて、のぼせてるアナタには言われたくないわね。それに、酒は百薬の長ってね」


 ゼリオンの至極真っ当な指摘を、彼は軽々と言い返す。どうやら、二人は軽口を言い合う仲のようだ、とルドウェンは巻き込まれないよう傍観に徹する。

 会話を交わしながら、ゼリオンとルドウェンは彼のもとまで足を進めた。


 件の人物と思しき彼はルドウェンを一瞥すると、にやにやとしながらゼリオンに詰め寄った。


「で、番ってどんな感じ? 見た瞬間にビビッときた? 公表はするの?」


 矢継ぎ早に尋ねられる質問に、ゼリオンは嫌悪感を隠しもしない。眉を寄せて、大きな溜め息をつく。


「はぁ……、あなたと無駄な話はしません。それに今は彼の治療を――」

「そうだった、そうだった」


 彼はポンと手の平を打つと、再び椅子に腰掛ける。ゼリオンに絡んでいた彼だったが一転、好奇心に溢れた視線をルドウェンに向けたのだ。


「アタシはシルヴァート。こんな喋り方だけど、ちゃんと男よ。こっちの方が仕事上、都合が良くってね。よろしく」

「…………ルドウェンだ。よろしく頼む」

「ふふっ、『竜殺し』に会えるなんて、光栄ね」


 互いに挨拶を交わした後、くすりと笑みをこぼしたシルヴァートの言葉。

 びくりとルドウェンの肩が大きく跳ね、表情が強張る。まさか、「竜殺し」と「光栄」という言葉が並ぶとは思ってもみなかったのだ。


 青ざめて沈黙したルドウェンに、シルヴァートは不思議そうな顔をする。それから、顔色を窺うように首を軽く傾げたのだった。


「ちょっと、アタシ何も変なこと言ってないじゃない」


 と、拗ねたように口を尖らせた。


 ――そう言えば、ゼリオンも似たような態度だったと、ルドウェンは思い出す。

 彼らは同胞を討たれたからといって、人のように報復、復讐に執念を燃やすことはないのだろうか。


(竜人というのは、皆こうなのか……? 理解に苦しむ……)


 心の中で呟いた言葉は、小さな溜め息として昇華されたのだった。


 シルヴァートは肩をすくめると、軽快に話を進めた。


「ま、いいわ。先に診察よ。診てみないことには、治せるものも治らないでしょ。さ、座って」


 言われるがまま、ルドウェンは患者のための椅子に腰を下ろした。シルヴァートを前に、膝の上で握った拳に力が入る。

 彼はそれを目にしたのだろう。「別に取って食おうって訳じゃないから、安心なさい」と、柔和に声を掛けたのだった。


 ゼリオンが心配そうに見守る中、診察が始まる。診察と言っても、それは魔法による透視、判断のようだ。

 シルヴァートはルドウェンに一言だけ断りを入れ、彼の右腕を手に取る。歌うような詠唱を終えた後、右腕を温かな光が包み込んだ。


 しばらくして――光が徐々に小さくなっていく。すると、シルヴァートは怪訝に眉を寄せたのだ。


「はぁ……? 腕の神経断裂。それに――魔力回路がズタズタ。こっちは腕だけじゃなく全身ね。これじゃあ、後遺症が酷いのも納得だわ」


 彼は「これはすぐに治らないわね」と、告げた重い言葉とは反対に軽い口調で語った。


「魔力……回路、だと?」


 己の体の現状と聞き慣れない言葉。ルドウェンが発した声は掠れていた。

 それに対して、今度はシルヴァートがさらに眉を寄せた。


「ええ、そう。アナタ、魔法が使えないの?」

「あ、あぁ……」

「うっそ。ん~……まぁ、魔力回路自体は誰でも持ってるものだから。血管みたいなものよ」


 戸惑いながら頷いたルドウェンをよそに、シルヴァートは簡潔に語った。それからルドウェンの腕を解放し、こともなげに告げる。


「ただの人間が純粋な力だけで竜を討てる訳ないじゃない? 極限状態の中で覚醒。無意識に身体を限界まで魔法強化していた、と考えるのが普通よ」

「そんなこと……。いや……そう、なのか……」


 ルドウェンは納得の言葉を小さく呟くことしかできなかった。――魔法に抗った己にも、魔力回路という物が存在していたという皮肉。さらに、竜殺しを成すために無意識下で魔法を使っていたという事実を、すぐには受け止められなかった。


 完全に沈黙したルドウェンを見つめながら、シルヴァートは確信に迫ろうと問い掛ける。


「それで? 腕の怪我は竜を討ったときに?」

「いいや……違う」


 緩やかに首を横に振ったルドウェン。それは彼らにとって意外な言葉だったのだろう。二人同時に驚きの声が上がった。


「え、そうなの?」

「そうなのですか……? では、一体……」


 ゼリオンに至っては、驚きのあまり目を見開いている。それから一呼吸おき、意を決したように口を開く。


「聞かせて下さい、ルドウェン」



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