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株式会社ゲートレーディング異世界支部 ~王国も魔王軍も、弊社のお客様です~  作者: 門倉コウ
二部 日用品は国境を越える

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消えた二十四本

懐中電灯の販売を始めてから、一か月が過ぎた。


 鉱山組合へ三十個。


 王国軍へ二十個。


 魔王軍へ二十個。


 合計七十個。


 すべてに、異世界支部の管理番号を付けた。


 レオルが製造番号と販売先を台帳へ記録し、山田が現物と照合する。


 引き渡し時には、管理責任者が番号を読み上げ、受領書へ署名する。


 日本で扱っていた日用品より、はるかに手間が掛かった。


 だが、販売先が軍と鉱山である以上、面倒という理由で省くことはできなかった。


 鉱山では、夜間の救助訓練に掛かる時間が短くなった。


 坑道の奥で油灯が消える事故も減った。


 王国軍では、治療所で夜間の縫合や包帯交換に使われた。


 魔王軍からは、バルガスが『倉庫の鼠を見つけやすくなった』という報告を持ってきた。


「それは、契約用途に含まれていますか」


『兵站倉庫の確認だ!』


「鼠の追跡が主目的にならないようにしてください」


『見つけた鼠が、食料袋を破っていたのだぞ! 立派な兵站業務だ!』


「捕まえた後、懐中電灯を武器にしていませんね」


『投げてはいない!』


「その言い方ですと、別の使い方をしたように聞こえます」


『照らしただけだ!』


 問題なく運用されている。


 山田がそう考え始めた日の午後、グレゴールが壊れた懐中電灯を持って支部へ来た。


 表面には泥が付き、透明な覆いには細い亀裂が走っている。


 番号を刻んだ金属板は、刃物で削り取られていた。


『国境近くで捕らえた密輸商人が持っていた』


 グレゴールは、品物と一緒に短い押収記録を差し出した。


 発見場所。


 所持者の名。


 押収した兵士二名の署名。


 山田は手袋をして、外側の傷を確認した。


 電池の蓋を開ける。


 内側には、日本のメーカーが印字した製造番号が残っている。


 さらに、異世界支部で検品した際に付けた小さな青い印もあった。


「弊社が販売した商品で間違いありません」


『魔王軍へ売ったものか』


「確認するまで判断できません」


『販売を止めろ』


「両軍と鉱山組合への新規販売を、一時停止します」


『魔王軍だけでよい』


「原因が分かっていません」


『国境の魔王領側で見つかった』


「場所だけでは、販売元を特定できません」


 話している最中に、扉が勢いよく開いた。


『ヤマダ! うちの補給所へ、王国軍から苦情が来たぞ!』


 バルガスだった。


 いつものように大きな声だが、笑ってはいない。


 壊れた懐中電灯を見ると、眉間に皺を寄せた。


『俺たちが流したと言われている』


『魔王領の商人が持っていた』


『魔族が持っていれば、すべて魔王軍の物か!』


『軍へ売った品が流れた可能性を確認している』


『確認する前に、うちの補給所へ兵を寄越しただろう!』


「お二人とも、確認が終わるまで結論を出さないでください」


 山田は二人の間へ壊れた商品を置いた。


「ここで言い争っても、製造番号は変わりません」


 レオルへ、販売台帳を渡す。


「王国軍、魔王軍、鉱山組合。製造番号と管理番号を、すべて照合してください」


『承知しました』


「それから、この商品は確認が終わるまで封をします」


 レオルは布で包み、紐を掛け、結び目へ支部の蝋印を押した。


 誰がいつ開いたか分からなくなることを避けるためだった。


 王国軍と魔王軍の二人には、その場で配備記録を取り寄せてもらう。


 グレゴールは伝令を走らせた。


 バルガスは支部の固定電話を見て、『俺たちの城にも、これを売れ』と言いかけたが、山田に睨まれて黙った。


 夕方までに、両軍の計四十個はすべて所在が確認された。


 番号も一致している。


 王国軍の一個は治療所で使用中。


 魔王軍の一個は修理のため倉庫にあったが、管理番号と製造番号は一致した。


『ほら見ろ! 魔王軍ではない!』


『鉱山から王国へ流れた可能性もある』


『なぜ王国側へ流す!』


「まだ、鉱山の商品と決まったわけではありません」


 レオルは、壊れた懐中電灯の製造番号を指で追った。


『鉱山向けの第三箱に入っていた商品です』


 支部では、十個ずつ箱へ分けていた。


 第一箱が一番から十番。


 第二箱が十一番から二十番。


 第三箱が二十一番から三十番。


 壊れた商品の製造番号は、第三箱の二十二番に対応していた。


 レオルは、台帳の頁の隅を指した。


『引き渡し時、二十二番は鉱山の保管担当者ペクトが受領しています』


「鉱山組合へ確認しましょう」


『俺も行く』


 グレゴールが言った。


『なら、俺も行くぞ!』


「両軍の方が同時に鉱山へ向かうと、調査より先に別の問題が起きます」


『俺は何もしない!』


『その言葉を信用できん』


「私とレオルで確認します。結果は、同時にお伝えします」


 二人は不満そうだったが、最終的に同意した。


 翌朝、山田とレオルは北部鉱山へ向かった。


 エルダは、険しい顔で保管庫を開けた。


『三十個、すべてある。毎日確認させている』


 棚には、確かに三十個並んでいた。


 番号札も、欠けていない。


 山田は一瞬、自分たちの記録ミスを疑った。


 レオルは何も言わず、一つずつ手に取る。


 一番。


 二番。


 三番。


 二十一番。


 二十二番。


 壊れた商品と同じ番号が、棚にもあった。


『偽物を持ってきて、鉱山の責任にするつもりか』


 エルダの声が低くなる。


「その可能性も含めて確認します」


 レオルは棚の二十二番を裏返した。


『これは、番号札だけが付け替えられています』


 金属板の縁に、新しい傷がある。


 固定用の鋲も、支部で使った物とは形が違った。


 中の製造番号は、別の商品のものだった。


 しかも、電池蓋の内側にあるはずの青い検品印がない。


 同じ方法で確認すると、二十一番から三十番までの十個すべてが、番号札を付け替えられていた。


 さらに使用記録を調べる。


 第三箱の担当者欄は、毎日違う者の名が書かれているのに、筆跡がすべて同じだった。


 数字の七だけが、毎回同じ形に傾いている。


 レオルは、別の箱も確認した。


『第一箱のうち四個。第二箱の十個も、中身が入れ替わっています』


「合計、二十四個」


 山田が言った。


 エルダは保管担当者を呼ぶよう命じた。


 レオルは、偽造された使用記録を見つめている。


『これは、盗難を隠す帳簿ではありません』


「どういう意味ですか」


『盗まれたなら、同じ番号の商品を用意する必要はありません。数が足りないと分からないよう、安い油灯へ番号札を付け替えています』


「定期確認を通すために」


『はい。それに、記録は一日で作られていません。少なくとも三週間、同じ者が少しずつ書き足しています』


 レオルは、静かに帳簿を閉じた。


『誰かが、継続的に持ち出し、代わりの品を棚へ置いています』


「盗まれたのではない」


『はい』


 レオルの声が、少しだけ硬くなった。


『売られたのだと思います』

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