表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
株式会社ゲートレーディング異世界支部 ~王国も魔王軍も、弊社のお客様です~  作者: 門倉コウ
二部 日用品は国境を越える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/24

人の仕事を奪う道具

片目の男は、ラゼル荷運び人組合の長、ガド・ルーメンと名乗った。


 四十八歳。


 二十年以上、港と市場で荷を運び、今は百十六名の組合員をまとめている。


 支部の会議用椅子へ座ると、腕を組んだまま、壁際の台車を睨んだ。


 ほかの荷運び人たちは外で待っている。


 窓越しに、何人もの視線が支部の中へ向けられていた。


『あれ一台で、何人分の荷を運べる』


「荷物と道によります」


『缶詰の箱なら』


「平らな場所であれば、一人で八箱ほどです。石畳向けの改造後は、安全を見て六箱から試します」


『今は、二人で四箱だ』


「作業量だけを見れば、効率は上がります」


『なら、半分の人間が要らなくなる』


「そう使われる可能性はあります」


 否定しなかったことで、窓の外の空気が険しくなった。


 レオルが山田を見た。


 しかし、都合のよい説明をしても、台車を見れば分かる。


 少ない人数で多く運べる。


 それは長所であり、彼らが恐れる理由そのものだった。


「ただし、弊社が提案したいのは人員削減ではありません。怪我を減らし、同じ人数で扱える量を増やすことです」


『雇い主は、そう考えん』


 ガドは即答した。


『十人でできた仕事を五人でできるなら、残りを追い出す。商人は人の腰より、払う銀貨を気にする』


「ガドさんの懸念は、もっともです」


『では、売らないのか』


「条件を付けます」


『道具へ条件を書いても、雇い主は読まんぞ』


「雇い主との契約に書きます」


 山田は、組合の仕組みを尋ねた。


 荷運び人は、個人で商店と契約するのではなく、組合が仕事を受け、人数を割り当てる。


 港、市場、倉庫、工房。


 朝に組合所へ集まり、その日の仕事先へ振り分けられる。


 怪我をして働けない者には、組合の積立金から最低限の生活費が支払われる。


 ただし、積立金は常に不足していた。


『去年は、腰を壊した者が十三人。足を挟まれた者が九人。戻れなかった者が二人だ』


「戻れなかった、というのは」


『一人は荷崩れで脚を失った。もう一人は、坂で荷車に潰された』


 ガドが組合の古い記録を持ってきた。


 羊皮紙の束には、日付と名前、怪我の内容、支払われた見舞金が細かく残されている。


 レオルは一時間ほど掛けて数字を整理した。


 途中で、何度か別の頁を見比べる。


『昨年、怪我で働けなかった日数は、合計四百七十二日です』


『そんなに多いのか』


『支払われた見舞金は、王国銀貨九百四十四枚。さらに、欠員を埋めるために急ぎで人を集めた日が六十七日あります』


「仕事そのものは足りていますか」


 山田が尋ねた。


 ガドは少し黙った。


『夏と収穫期は、足りん。夕方までに運べず、翌日へ回す荷が出る』


 レオルが記録の端を指した。


『昨年は、未処理の荷が合計三百二十一件あります。特に市場の閉門前と、雨の翌日に集中しています』


『そこまで書いてあったか』


『見舞金の横に、代替人員を出せなかった理由が記されています』


 山田は、改造後の台車十台分の費用と比べた。


「十台導入しても、昨年の見舞金の四分の一以下です」


『だから人を減らせる、と言うのか』


「いいえ。怪我で失っていた四百七十二日分を減らし、処理できなかった三百二十一件の仕事へ回します」


『仕事が増えなければ』


「試験期間中に確認します。仕事量が増えない場合、導入台数を増やしません」


『商店が直接買いたいと言ったら』


「売りません」


 ガドが、初めて台車から山田へ視線を移した。


「台車を商店へ売るのではなく、組合へ貸し出します。管理権を組合が持つ。利用する商店には、試験期間中、荷運び人の人数と日当を減らさない条件へ署名してもらいます」


『商店が、その条件を飲むと思うか』


「荷崩れと遅延が減るのであれば、飲む店はあります。すべての店に売る必要はありません」


『また、売る相手を減らすのですね』


 レオルが言った。


「最近、それが弊社の特徴になりつつあります」


『便利な道具を売る会社なのか、売らない理由を考える会社なのか分からんな』


 ガドが言った。


「売った後に困る相手が増えると、次の商売ができません」


『綺麗事だ』


「そう見えると思います。ただ、弊社はこの町で、まだ店を畳めません」


 山田は窓の外を見た。


「一度だけ売って日本へ帰るのであれば、条件は必要ありません。支部を続けるつもりですので、必要です」


 ガドは、山田とレオルを交互に見た。


『試験中に一人でも追い出されたら、道具を壊す』


「壊した場合は、修理費を請求します」


『そこは譲らんのか』


「会社の商品ですので」


『試験は何日だ』


「二十日間。台車四台。支部と、協力していただける倉庫二か所で使用します」


『日当は変えない』


「契約書へ入れます」


『台車を押す者は、組合が決める』


「問題ありません」


『積める量の上限も、組合と工房で決める』


「安全上の条件は守ってください」


『記録係を一人付ける。運んだ箱、掛かった時間、壊れた箇所、怪我の有無を全部書く』


「その費用は、試験料金へ反映します」


『値上げするのか』


「記録は、組合だけでなく弊社にも必要です」


 交渉は、夕方まで続いた。


 ガドが帰ったあと、レオルは組合の記録をもう一度見直していた。


『支部長』


「はい」


『試験の説明を、私に任せていただけませんか』


「組合への説明をですか」


『私は、商家で帳簿を付けるだけでした。客へ商品を提案したことはありません』


「それでも、やってみたい」


『はい。組合の数字を整理したのは私です。彼らが怖いのは、道具ではなく、仕事を失うことだと分かりました』


 レオルは、未処理の荷の記録を指した。


『それに、彼らには仕事がないのではありません。怪我と人手不足で、受けられない仕事があります。そこを、説明したいです』


 山田は、机の引き出しから新しい名札を取り出した。


 日本語と現地語で、同じ言葉を書いてある。


『現地取引担当 レオル・バッケル』


「明日の説明会から、これを付けてください」


『取引担当』


「嫌でしたか」


『いいえ』


 レオルは、名札を両手で受け取った。


『失敗した場合は』


「二人で修正します」


『支部長が代わりに話すのではなく』


「必要であれば補足します。ただし、最初に話すのはレオルさんです」


『私の説明で、契約がなくなる可能性もあります』


「私が説明しても、なくなるときはなくなります」


 レオルはしばらく名札を見つめ、赤い帳面へ何かを書き込んだ。


 何を書いたのか、山田は聞かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ