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株式会社ゲートレーディング異世界支部 ~王国も魔王軍も、弊社のお客様です~  作者: 門倉コウ
二部 日用品は国境を越える

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13/24

最初の給料日

異世界支部に二人目の職員が加わって、最初に起きた問題は仕事ではなかった。


 給料である。


 翌朝、山田は机の上へ王国銀貨を八枚並べた。


 向かいに座るレオルは、硬貨ではなく、その横に置かれた羊皮紙を見ている。


『勤務時間。朝の鐘が八つ鳴ってから、夕方の鐘が六つ鳴るまで』


「休憩は昼に一時間。残業が必要な場合は、事前に相談します」


『奴隷に残業というものがあるのですか』


「職員に、です」


『はい、支部長』


 昨日までなら、主人と言い直していた。


 山田は羊皮紙の次の行を指した。


「七日に一日、休みです。体調不良の場合も休んでください。賃金は一週間につき、王国銀貨八枚を基本とします」


『多すぎます』


「相場を確認しました」


『帳簿係の見習いなら、五枚で十分です』


「あなたは見習いではありません。昨日だけで、金貨四枚分の帳簿上の損失を見つけています」


『だからといって、奴隷へ八枚も払えば、周囲から笑われます』


「笑う方には、弊社の給与台帳を見せません」


 レオルは、羊皮紙の末尾へ目を移した。


『解放金積立。金額は本人が決める』


「賃金のうち、いくらを解放金へ回すかは、レオルさんが決めてください。積立は会社の金庫で別に管理し、毎週、残高を二人で確認します」


『すべて積み立てます』


「認められません」


『私の賃金では』


「食事と衣服、身の回りの物に使うお金が必要です。最低でも半分は手元へ残してください」


『支部の奥で眠り、食事もいただいています』


 異世界支部には、以前の担当者が使っていた小さな寝台があった。今はレオルがそこで眠っている。


 本来、職場と住居を同じにするのはよくない。


 だが、身分証を持たない奴隷へ部屋を貸す大家は、まだ見つかっていなかった。


「それは、部屋が見つかるまでの一時的な対応です。それに、自分で使えるお金がない状態は、雇用とは呼べません」


『では、四枚を積み立てます』


「承知しました」


『残り四枚は、何に使えばよいのですか』


「自由です」


『自由が、一番分かりません』


 山田は答えを考えた。


 自分なら、仕事帰りの定食と、休日に読む本に使う。


 家族はいない。広くない部屋で、一人で静かに過ごせれば十分だった。


 だが、その説明をしても、レオルの参考にはならない気がした。


「急いで使わなくても構いません。貯めてもいいですし、欲しいものができてから使ってください」


『使わずに持っていることも、自由なのですね』


「そうなります」


 山田が雇用条件の読み合わせを終えたところで、扉が三度、大きく叩かれた。


『ヤマダ! 新しい職員の初出勤祝いを持ってきたぞ!』


「勤務開始から二日目です」


『祝いは遅れても、ないよりいい!』


 声だけで、誰か分かった。


 扉を開けると、バルガスが大きな鍋を抱えて立っていた。護衛の二人は黒パンと焼いた肉を積んだ籠を持っている。


『レオルだったな! 俺はバルガスだ! 魔王領軍需府で、兵の飯と靴下と、足りない物を全部集めている!』


『レオル・バッケルです。昨日から、こちらで帳簿を担当しています』


『よし! 帳簿が分かる者は大事だ! 俺は数字を見ると腹が減る!』


「普段から減っているように見えますが」


『ヤマダ。お前、少しずつ俺への遠慮がなくなってきたな!』


 バルガスはうれしそうに笑い、鍋を机へ置いた。


『今日は祝いだけではない。相談がある』


「食べる前に伺ってもよろしいですか」


『妻から、商談相手を空腹にするなと言われている!』


「では、食べながら伺います」


 鍋の中身は、鶏肉と根菜を香辛料で煮込んだものだった。


 レオルが三人分の皿を並べる。


 バルガスは大きな黒パンをちぎりながら、急に声を落とした。


『南方の補給所で、腹を壊す兵が増えている』


「缶詰を食べた部隊ですか」


『いや。缶詰を食った者も、食っていない者もだ。医官は水か食事を疑っているが、原因が分からん』


「私は医師ではありません」


『分かっている。だが、お前は食料を売る前に、食べ方まで聞いた。何か気づくかもしれんと思った』


 山田は、鍋をよそうレオルの手を見た。


「現場を確認させてください。商品を売る話になるかどうかも、まだ分かりません」


『それでいい! 明日、連れていく!』


 バルガスは安心したように肉を頬張った。


 缶詰の次に何を売るのか。


 山田は、まだ考えていなかった。


 まさか翌日、石鹸の見積もりを作ることになるとは、この時点では思ってもいなかった。

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