8.かつてのこと①
ドルイトン王国の聖女である私は、追放されることになった。
何故、そうなったかというと、国王を怒らせたからである。現国王、ダルゼルトは病によって生前に代替わりすることになった前王に比べて、傍若無人であったのだ。
「聖女セスティア、お前の行いは看過できないものだ。俺が下した判断に対して、逆らうなどということは言語道断だ。この場で首をはねてやりたいくらいだが、今回は特別に便宜を図って、国外追放ということにしておいてやろう」
玉座に座るダルゼルト陛下は、私を見下し下卑た笑みを浮かべていた。
しかし私としては、彼に逆らわざるを得なかった。そうしなければ、多くの命が失われることになったからだ。
「お言葉ですが、ダルゼルト陛下の判断は間違っています。これ以上、税を徴収するなど、あってはならないことです。ドルイトン王国は今年、異常気象に見舞われています。その中でさらなる税を課すなど、国民を疲弊させるだけでしょう。私の追放など、この際どうでもいいことですから、それだけは考え直していただけませんか?」
ダルゼルト陛下は、税金を上げようとしていた。
それはなんとも、忌むべきことである。私は元々、平民の孤児院の出身だ。税というものが、自分達の生活を簡単に覆すことは、よくわかっている。
「この期に及んで、まだ俺に逆らうというのか? まあ、その精神力の高さについては、評価してやろう。しかし、権力が担っていない者の言葉など、負け犬の遠吠えにもならないな。税金を上げるのは決定していることだ。今更、覆ることはない」
「何故、そこまで頑ななのですか? 今のままでも、この国はやっていけるでしょう?」
「蓄えというものは、どれだけあっても足りないものだ。それに、お前が税金に文句を言える立場か? お前の高い給料は、何によって賄われていると思う? 下賤の出の者では、想像も及ばないか」
ダルゼルト陛下は、間違っている。しかし、今の彼を止められるものはいなかった。
貴族というものは、多くが欲望に塗れた者達で、国民に寄り添える者は少ない。ダルゼルト陛下の考えに賛同する者が多いというのが、この国の現状だ。
しかし、このまま彼の政策が通ってしまえば、多くの民の命が失われることになる。
それは避けなければならなかった。私にとって何よりも重要なのは、そこである。
「ダルゼルト陛下、税金を上げれば民は疲弊し、その結果多くの命が失われることになります」
「その程度のことは、どうでも良いことだ。どうせ民などは、はいて捨てる程にいる。多すぎるくらいだ。選別には丁度良いだろう」
「民が減れば、税を取り立てられる者も減るということですよ? それでいいのですか?」
「……ふむ」
私の言葉に、ダルゼルト陛下は少しだけ考える仕草を見せた。
彼にとって、民の命はどうでも良いものであるらしい。だが、税金を取れる人数が減るということは、気になったようだ。
益々、ダルゼルト陛下に私は嫌気が差していた。
ただ、今の言葉が刺さったのは収穫だ。彼をどのように攻めれば良いのかが、なんとなくわかってきた。




