6.欠けた意識
「カビの生えたパンと濁ったスープ、そのどちらも論外だといえる。凡そ、王城で振る舞われる類のものではない。だが、ことはそれだけで終わるものではない。お前はこの厨房を汚したのだ。その罪は重いと思え。お前は謀反を働いたのだ」
「そ、そんな……」
ライゼル殿下は、ボドールに対して冷たい視線を向けていた。
恐らく、この若い料理人からすれば、本の出来心からの行動だったのだろう。私に対する嫌がらせ、それだけのことだったはずだ。
だが彼は、王城の要ともいえる厨房で問題を起こした。その大きさを、ボドールはここに来て理解し始めているらしい。
「ま、待ってください。確かに俺は、その女にカビの生えたパンとスープを出そうとしました。でもそれが、謀反になるなんて……」
「その女、か? セスティア嬢に対して、お前が何を思っているのかは知らないが、彼女は俺の客人だ。この王城に真似ている方だ。それに対して無礼な振る舞いをすることが、軽いことだと思っていたことが、そもそもの間違いだといえるな?」
「うっ……」
ボドールはまた、気軽に言葉を発していた。いや彼には、気軽という意思さえなかったかもしれない。
しかしライゼル殿下は、そこを容赦なくつついた。その視線は冷たい。容赦や情けなどというものが、読み取れないくらいに。
「そしてお前には、この王城の厨房に立つという意思も欠けていた。料理長からの紹介ということもあって、父上はお前のことを受け入れた訳ではあるが、それは失敗だったといえる。まさか、これ程までに意識の欠片もない者とは」
「……申し訳ありません、ライゼル殿下」
「料理長、あなたにも当然責任を取ってもらう。しかしボドール男爵令息、まずはお前だ。その首には刃がかかっていると、思ってもらおうか?」
「や、刃……」
ライゼル殿下からの宣告に、ボドールの表情が大きく変わった。
彼は恐怖している。それは当然だ。この国の王太子から、死罪を仄めかされたのだ。怖くないはずもない。
同時に彼は、混乱しているようだった。自らの行いがここまで糾弾されることに、まだ納得していないのだろうか。
「ど、どうして、俺がそんな目に……ただ俺は、その女がこの王城から出て行けばいいと思って。だって、おかしいじゃないですか。他国で罪人として追放された者が、王家の賓客になるなんて、意味がわからない」
「それがどうした? お前に王家の考えというものを一々説明しなければならいのか? 履き違えてもらっては困る。お前のここでの役割は、与えられた指示に従うことだ」
「そ、それは…」
「ここでのお前は、料理人として客人に料理を振る舞う。その役割に徹するべきだったな? もっとも、お前は料理人などとは言えないが……」
彼もネレーナ嬢と同じく、私のことが気に食わないようだった。
それで嫌がらせを実行した、そういうことだったのだろう。だがそれはなんとも、愚かなことだと言えた。
ボドールはこれから罰を受けることになる。それは彼が想像しているよりも、何倍も何十倍も重たいものだろう。




