5.軽い態度
「ボドール、お前は自分が何をしたのかわかっていないのか? それでも料理人の端くれか!」
「お、大叔父上、落ち着いてください……」
料理長は、ボドールの首を絞めかねない勢いであった。
服を強引に引っ張られて、ボドールは表情を歪めている。苦しさを感じている、ということなのだろう。
しかし、そのような苦しさとは比べ物にならない程に、料理長は今苦汁を飲んでいる。又甥のしでかしたことの大きさを、彼はよく理解しているようだ。
「料理長、そこまでにしてもらおうか? あなたの気持ちは理解しているつもりだが、ここからは王家の領分だ」
「……はい、失礼いたしました」
「……ふう」
ライゼル殿下の制止に、料理長は素直に従った。彼自身は、長年王城に勤めていただけあって、忠実ということなのだろう。
一方でボドールの方は、呑気なものであった。彼は料理長から詰め寄られなくなったことで、明らかに安心している。安心できる要素など、何もないというのに。
「ボドール男爵令息、お前はこの期に及んで、まだ自分がしでかしたことの大きさに、気付いていないようだな?」
「……ライゼル殿下、何を仰っているのですか? 俺は確かに、失敗をしたかもしれません。それについては、申し訳ありませんでした。謝ります」
ライゼル殿下に呼ばれて、ボドールはすぐに謝罪の言葉を述べた。
それは心のこもっていない、形式的なものである。それから彼は自分がしたことを、失敗だと口にした。その部分について、ライゼル殿下は眉をひそめている。
「失敗か。まるで今回のことが、意図的ではなかった、というように聞こえるな?」
「あ、えっと、そうですよ。今回俺は、失敗をしたんです。間違えたんですよ」
ボドールは、問い掛けに対して少し驚いたような反応を見せた。
どうやら彼としては、意図を持って失敗と口にした訳ではないらしい。それについても、彼の軽薄さというものが現れているような気がした。
「……仮にこれが失敗だったとしても、意図的なものだったとしても、結果はそう変わるものではない。ボドール男爵令息、ここは王城の厨房だ。そこがどのような場所であるか、わかっているのか?」
「どのような場所って、厨房は厨房でしょう? それ以上でもそれ以下でもないはずです」
「ここでは、王城で振る舞われる全ての食事が作られている。例えば、この場所で誰が悪意を持って行動を起こせば、王城は壊滅的な打撃を受ける訳だ。例えば、お前がしたようにな?」
「……はい?」
ライゼル殿下の言葉で、ボドールの表情がやっと大きく変わった。
彼は目を丸めて、それから大量の汗を流している。気が付いたのだろう。自分の行動がこの王城において、どういった意味を持つのかを。




