4.厨房にて
私はライゼル殿下とともに、王城の厨房にやって来ていた。
ここでは、数人の料理人達が働いている。その誰もが、王太子の来訪に背筋を伸ばしているようだ。
私のことを気にしている者もいる。その中で一際動揺している若い男性に、ライゼル殿下は視線を向けた。
「バングレイ男爵家のボドールはお前か?」
「……は、はい。なんでしょうか、ライゼル殿下」
「俺が何故ここに来たのか、それがお前にはわかっていることだろう。お前が何をしたのか、それをここで白状しろ」
ライゼル殿下は、ボドールのことを睨みつけていた。
背の高い彼と比べると小柄なボドールは、さらに身を縮こませている。王太子からの圧力というもtのに、怯え切っているようだ。
「ライゼル殿下、何のことでしょうか? 私には、何もわかりません」
「何もわからない? なるほど、まだ白を切るつもりか? 料理長、こちらに来い」
「はい、ライゼル殿下……」
ライゼル殿下の呼びかけに、厨房にいる年老いた男性が答えた。
彼はここの料理長であるようだ。その顔からは、焦りと混乱が伺える。ボドールがしたことを、料理長は知らないのだろうか。
「料理長、あなたは長らくこの王城に尽くしてこられた。しかし、今回の件で俺はあなたに責任を問わなければならない。このボドールが何をしたのか、あなたは知らないか?」
「はい、申し訳ありません、ライゼル殿下。私の監督不届きです。しかし、ボドールは一体何をしたのでしょうか?」
「彼はこちらにいるセスティアに、カビの生えたパンと濁ったスープを出した。メイドのネレーナと共謀してな。当然のことながら、どちらも食べられたものではない。それがこの王城の厨房から出されたのだ。これは、由々しき事態だといえる」
ライゼル殿下の言葉に、料理長は青ざめていた。周囲にいる料理人達も、各々目を丸めている。ことの重大さというものが、わかっているからだろう。
その中でボドールだけが、実行した本人であるというのに、反応が薄かった。つまり彼は、何もわかっていなかった、ということなのだろうか。
「ボドール、お前はなんということを……」
「大叔父上、何を……」
「この馬鹿者……大馬鹿者がっ!」
料理長は、そんなボドールの胸倉を掴んで怒号を上げた。
どうやら二人には、血の繋がりがあるらしい。だからライゼル殿下は、責任者とはいえ料理長を先んじて呼びつけた訳か。
しかし料理長の必死の形相に対する呼びかけに対しても、ボドールの反応は薄いと言えた。
彼という人間は短絡的に、また深く考えずことを実行したということなのだろう。それを理解して私は、思わず頭を抱えることになった。




