3.王太子からの謝罪
「……本当に、申し訳ない。ネレーナ嬢をあなたにつけたのは俺のミスだ」
「いえ、お気になさらないでください。彼女も私でなければ、優秀なメイドだったのでしょうから」
「いや、素行の調査などについては、もう少し入念にしておくべきだった。少なくとも、命令に忠実に従える者を選ぶべきだったといえる」
ネレーナ嬢が去ってから、私はライゼル殿下と対面していた。
彼は本当に、申し訳なさそうにしている。ネレーナ嬢のことを悔やんでいるということだろう。
ただこれに関しては、仕方ない側面もある。彼女にあのような本性があったなんて、そう簡単にわかることではない。
私のような特殊な境遇の者を担当しなければ、それは露見しなかったことなのだろう。もちろん、メイドとしてそれができなかったことは、致命的と言えるのかもしれないが。
「まあ、私に対して反感を抱く者がいるということは、わかっているつもりです」
「個人の内心の考えというものは、自由だ。しかし、それを表に出すようならば、こちらとしては厳正に対処しなければならなくなる。ネレーナ嬢の場合は、メイドとしての職務を放棄した訳だ。この天下の王城において、それは看過できない。あなたにも、随分と迷惑をかけてしまった」
ネレーナ嬢は、メイドであった。その立場である以上、私に対して嫌がらせを行うことは許されなかった。
内心で嫌っているだけならば、何も起こることはなかっただろう。全ては、行動を起こした結果だ。
それは彼女の自業自得であるといえる。とはいえ、私としては少しだけ罪悪感のようなものはある。我ながら、面倒な存在であることは理解しているから。
しかし、自らの取った選択に後悔はしていない。彼女の行動を許容すれば、私自身がどんどんと追い詰められていくだけなのだから。
「まあ、私としても、降りかかる火の粉は払っておきたいものです。この王城の全ての方々に、ネレーナ嬢のようなことをされても困りますから」
「何かあったら、すぐに俺に話を通してくれ。その方が、こちらも楽だ。ネレーナ嬢に関しては、我慢し過ぎているとさえいえる」
「多少のことは、見逃していました。私からしてみれば、仕事をしてもらえるなら、それで良かったので。ただ、次からはもう少し早くお伝えします」
ネレーナ嬢の些細な敵意を、私は見逃していた。
それがもしかしたら、良くなかったのかもしれない。結果として、彼女を付けあがらせてしまったのだろう。
王城での暮らしというものは、やはり中々に難しいものだ。故郷でもそうであったが、あまりにも上手くいかないことが多すぎる。
「……さて、今回の件でもう一人糾弾せねばならない者がいるな。セスティア嬢、あなたも同行してくれるか? その方がこちらとしては、都合が良い」
「ライゼル殿下がお望みであるならば、同行しますよ。犯人の顔を見ておきたいという気持ちも、ありますから」
ライゼル殿下らからの提案に、私はゆっくりと頷いた。
カビの生えたパンと濁ったスープに関しては、ネレーナ嬢だけの問題ではない。関わったシェフがいるのだ。
それが誰であるかは、既に調査は行われている。その犯人についても、然るべき対応をしなければならない。




