21.先代の来訪
「くおっ……あぐっ、なんだ? これは? 俺は何が……」
剣が引き抜かれて、ダルゼルト陛下は机にその身を倒した。
その一瞬で、彼の後ろにいた人影は消えていた。周囲の護衛達は、焦っているようだ。まんまとダルゼルト陛下を暗殺されたのだから、それは当然だろう。
混乱しているのは、私とライゼル殿下も同じであった。
これは、ロムセルト王国側が起こしたことではない。それならば一体何者が、ダルゼルト殿下に剣を突き立てたというのだろうか。
「……ダルゼルト」
「……あうっ、その声は」
少し呆然としていた私は、耳に入ってきた声に、また少し驚くことになった。
ただその声には、聞き覚えがある。私はよく知っていた、その声を。この国の民であるならば、それは大抵知っている。
部屋の入口の方に視線を向けると、そこには先代の国王様がいた。
ひどく痩せ細り、杖をつきながら歩くその姿は、実の年齢以上に老け込んで見える。だからこそ先代の国王様は、ダルゼルト陛下に国を任せて、療養していたはずなのだが。
「父上……どうして、こちらに? うぐっ、ああ、そうだ。ニルヴァンが、俺もまずい……あ、あいつらがやったのです。ロムセルト王国が……」
「先に手を出したのは、お前の方だろう、ダルゼルト。なんともお前は、馬鹿者め。最早これしか、私には選択がなかった」
「……父上? ま、まさか、あなたが、おれを?」
前国王様は、なんとも物悲しそうに言葉を発していた。
彼はゆっくりとダルゼルト陛下に近づき、その頬に手を触れた。
ただ触れられた本人は、表情を歪めている。それは実の父によって、自らの体に刃が突き付けられたことへの絶望、ということだろう。
「う、うそだっ……なぜ、俺を? あなたは、息子を手に、かける、のか?」
「残念ながら、そうするしかないのが現状だ。私は父である前に、王家の一員――時には非情な選択も、せねばならん。この国に生きる、全ての者達のために」
「ふざけるなっ……うぐっ、俺は、この国の王、なのだぞ? それが、何故、こんなこと、に……? うくっ……」
ダルゼルト陛下は、必死に前国王様に言い返そうとしていた。
しかし、彼の言葉は途切れる。既に限界だったということだろう。彼の体からは、力が抜けていく。
それを前国王様は、涙を浮かべながら見つめていた。その光景はなんとも、物悲しいものであった。
「……」
「ダルゼルト、長く待たせることはないだろう。私もすぐに、そちらに行く。その後はどうか、ただの親子に戻らせてくれ。かつてのように、な……」
前国王様の中には、親子としての情は多大にあったのだろう。
しかしそれでも、彼はこうすることを選んだ。そこには彼の王家としての、覚悟が現れているような気がした。




