19.戦乱の場
「罪過の森で会った時に、見覚えがあるとは思っていたが、元聖女セスティアだったとは……まあ、そんなことはどうでも良いことか」
ダルゼルト陛下と負けず劣らず愚かな公爵令息ニルヴァンは、私に対していとこと同じように下卑た笑みを向けてきた。
この二人が国のトップに立っているということが、まず間違いなくドルイトン王国が落ちぶれた要因だろう。最早呆れて、言葉も出てこない。
「ダルゼルト、この二人と連れの奴らは、全員やってしまっていいんだよな?」
「ああ、しかしあまり時間をかけるなよ? この後には大きな争いもあるのだからな」
「ふん、問題はないとも。さあ、やれ」
「はっ!」
ニルヴァンが指示を出すと、兵士達がこちらに向かってきた。
私達の命を奪うつもり、ということなのだろう。そういうことならば、こちらも応戦せざるを得ない。
ただ、忠告はしておくべきだろう。この兵士達にも、家族はいるのだから。
「今ならまだ間に合います。どうか手を引いてください。今はこちらも、手加減できる状況ではないのですから」
「何をごちゃごちゃと……聖女だかなんだか知らないが、あまり俺達を舐めるなよ?」
「……そうですか」
「おらっ!」
私の言葉に従う者は、いなかった。それならばこちらも、然るべき対応をするしかない。
心苦しいものではあるが、今はこちらも命がかかっている場だ。残念ながら、ここで加減できる程、私は慈悲深くもない。
「……安心してください。すぐに、終わりますから」
「え? あっ……」
近づいてきた兵士の攻撃を受け止め、私は魔法を放った。
それで、終わりであった。彼の体は、力なく崩れ落ちて、その場に横たわる。
全力ではないが、それでも相手が動かなくなるであろう出力で魔法は使った。運が良ければ助かっているかもしれない。
「ライゼル殿下!」
「……感謝する」
「くっ、何を……ぐわっ!」
私は倒れた兵士の持っていた剣を蹴って、ライゼル殿下に渡した。
彼はそれを手に取ると、向かってきた兵士の一人を切り伏せた。護衛についていたロムセルト王国の兵士達も、それぞれ武器を取って応戦している。
対話の場は一瞬にして、戦乱の場になっていた。
この場においては、私達の方が優勢に思える。ニルヴァンが連れてきた兵士達は、質が良い者達という訳ではないようだ。
とはいえ、私達が生きて帰るためには、困難があるといえる。
早くこの場を切り抜けて、身を隠さなければならない。それができなければ、私達に命はないといえる。




