18.決裂した交渉
「ダルゼルト陛下、こちらから提案があります」
「……なんだ?」
「セスティアを助けたことについては、謝罪いたしましょう。しかし彼女が生きていたのですから、彼女を頼ればいいだけのこと。それでこのドルイトン王国で起きている問題は、解決することができるはずです」
目を血走らせていたダルゼルト陛下に、ライゼル殿下がゆっくりと言葉をかけた。
それは私との間で、事前に話し合っていたことである。この国を守るためには、私の帰還が必要であった。
ダルゼルト陛下のために戻りたくはないが、こちらの国には私の大切な人達もいる。この国が崩れ去ることは、私にとっても許容できることではなかった。
国を守る結界の崩落などから、ダルゼルト陛下は戦争を起こそうとしているとも考えられる。それがなくなるから、彼は先んじて他国を制圧しようとしているのかもしれない。
それが止められるのならば、私は喜んでこちらの国に帰るとしよう。ダルゼルト陛下への恨みなど、この際関係はない。
「もちろん、私が新たな聖女に引き継ぎを行うということでも構いません。どちらにしても、この国の聖女を復活させることが、今は必要なのではありませんか?」
「……」
ダルゼルト陛下は、私の言葉を静かに聞いていた。
彼とてもちろん、このままではいけないということはわかっているのだろう。国が疲弊していくことが、わからない程に馬鹿ではないはずだ。
前者でも後者でも、私としては構わない。ただとにかく、聖女がこの国は必要だ。それですべて持ち直せるという訳ではないが、それでも状況は改善する。
「くくくっ……」
「ダルゼルト陛下?」
「俺に指図しようとは、偉くなったものだな、セスティア? ライゼルに拾われて、以前よりも増長しているらしい」
そこでダルゼルト陛下は、笑みを浮かべた。
それはなんとも、下卑た笑みである。私はそれを見て、周囲を警戒することになった。
「ダルゼルト、そろそろ時間のようだな!」
その直後、対話の場の扉が開かれた。
そこにはニルヴァンと、兵士達がいる。見覚えがある面子だ。罪過の森で引き連れていたのと同じ兵士達か。
いや、そんなことはどうでも良いことだ。今はこの対話の場に、武装して殺気立った集団が現れたことの方が問題である。
私は、ダルゼルト陛下の方に視線を向けた。すると彼は、なんとも下卑た笑みを返してくる。その邪悪さというものは、底知れないものであった。
「ダルゼルト陛下、これはどういうことか、答えてもらいたいものです」
「ライゼル? お前は馬鹿だったな? こちらにわざわざ、乗り込んでくるとは……」
「今が交渉の場であることをお忘れか? このような行いは、周辺の国々から反感を買うことになりますよ? ロムセルト王国と周辺国家は手を組み、この国を落とすことになるでしょう」
「そんなことは知ったことか。 要は勝てばいいのだろう?」
ダルゼルト陛下は、なんとも愚かな選択をしたようだ。
正式な対話の場でこのようなことをしたとなれば、周辺の国からの信頼は地に落ちる。他国から一気に非難され攻め込まれ、結果的に国は亡びるだろう。
それもわからない程に、ダルゼルト陛下は愚かだったということか。




