15.森に住まう者達
「ライゼル殿下、こちらの方は?」
「セスティア、彼はヤードだ。この罪過の森に住まう部族の族長の息子だ」
「族長の息子、ですか……」
ライゼル殿下は、私の質問に対してすぐに言葉を返してくれた。それは彼が、要人であるということもあるのだろう。
相手が部族の族長の息子であるというならば、規模の違いはあれど、ライゼル殿下と立場は変わらないということになる。
今まで部族とロムセルト王国が築いてきた信頼関係を、私が崩してはいけない。私も気を引き締めて、対応しなければならないだろう。
「ヤード様、初めまして。私はセスティアと申します」
「……ライゼルの連れか。悪いが、自己紹介は後にしてくれ。今は妹――ユンファンを助けたい」
「彼女は、あなたの妹君でしたか。しかし、私が話したいのは正に彼女のことです。治癒の魔法が必要でしょう? 私なら使えます」
「なるほど、そういうことだったか。それなら、手を貸してくれ」
「はい、もちろんです」
ニルヴァンで矢で射抜かれた女性は、ユンファンという彼の妹だったようだ。あの愚かな公爵令息は、とんでもない人を打ち抜いたものである。
いや、誰であっても、矢を向けていいことにはならないか。彼の愚かさや野蛮さというものには、本当に吐き気がする。
「ユンファン、大丈夫か?」
「ユンファン様……わかりますか? 私はセスティアと申します」
「……大丈夫では、ないかもしれません。体が、動かない、のです」
「……恐らく、矢に何か仕込まれていたのでしょう。直接触れるのは危険です。ここは私にお任せください」
「わかった」
「ユンファン様、少しだけ我慢してください……それでは、抜きます」
私は、手を魔力で覆ってユンファン様の足に刺さった矢に触れた。
そして矢を引き抜くと同時に、治癒の魔法を使う。同時に解毒も行い、ユンファン様の体を正常なものにと戻していく。
「……体が動きます」
「はい、もう大丈夫だと思います」
「あなたは、魔法使いなのですね? しかも、かなりの手練れ……名手ですね?」
「まあ、一応は……」
ユンファン様は、動けるようになったことに驚いているようだった。
それは私の治療が、早かったからだろう。通常ならば、もう少しかかるものだということを、彼女は知っているのかもしれない。
ただ私は、一応元聖女である。これくらいの治療は秒でできなければ、その名も廃るというものだ。
「セスティア、感謝する。あなたのお陰で、妹は助かった」
「ありがとうございます、セスティアさん」
「いえ、お気になさらず。私は当然のことをしたまでですから……しかし、あなた方は一体、何者なのですか? あの魔物は……」
「安心しろ。あいつは俺の相棒だ。あなたに危害などは加えない。俺達は、魔物と心を通わせることができるからな」
「魔物と心を……?」
ヤード様とユンファン様は、私にお礼を述べてきた。
しかし二人の素性というか、罪過の森に住まう部族の性質に、私は驚きを隠せない。
魔物と心を通わせる。そんなことが可能なのだろうか。
しかし現にあのワニの魔物は、ニルヴァンだけを襲い、それでも命を奪わなかった。
本当に、誰かに従っているとしか言いようがない動きだ。それならばヤード様の話も、本当であるということなのだろう。




