13.出会ったのは
「……出るぞ」
目の前の光景に唖然としていた私は、ライゼル殿下の呼びかけで我に返った。
恐らく、兵士達もそうだったのだろう。彼は号令とともに、足を進め始めた。私もそれに合わせて、前に出て行く。
すると、貴族らしき男と彼が引き連れている兵士達の視線も、こちらを向いた。彼らも彼らで、武器を構えている。
「……何をしている?」
「……こんな森で、人と会うとは思っていなかったな。まったく持って、面倒なものだ」
「あれは……」
ライゼル殿下の言葉に、男は忌々しそうに返答を返した。
その顔を見て、私は思い出す。彼のことは知っていた。ドルイトン王国で、会ったことがある。
彼の名前はニルヴァン、ノークス公爵家の令息だ。
ノークス公爵家、それは前国王陛下の弟が当主を務める家である。
つまり目の前にいる彼は、ダルゼルト陛下のいとこだ。このニルヴァンも陛下に負けず劣らず、高慢なことで有名であった。
「何をしているのかと、こちらは問いかけているのだ? あなたは確か、ニルヴァン公爵令息だな?」
「ああ、そうだ。僕の名前はニルヴァン。偉大なるノークス公爵家の令息だ。そういうお前は確か、ロムセルト王国の王太子だな? このような所で、何をしている?」
ニルヴァンは、ライゼル殿下の言葉に答えず、笑みを浮かべていた。
その態度というものは、凡そ隣国の王太子に向けるようなものではない。彼は自身の立場というものを、わかっているのだろうか。
「まあ、お互いに答えるはずもない問いかけか。各々理由を持って、こちらにいるのだからな」
「その女性に何をした?」
「うん? ああ、ははっ! 正義の味方でも気取るつもりか? この女は、なんということもない。この森に住まう部族の者だろう? それが一人消えた所で、何か問題でもあるのか?」
「公爵家の令息が、聞いて呆れる……この場から、即刻立ち去れ。これは忠告だ」
下卑た笑みを浮かべるニルヴァンに対して、ライゼル殿下は淡々と言葉を発した。
当然のことながら、彼の振る舞いには怒りを覚えていることだろう。しかしそれでも、ライゼル殿下はそれを表に出しはしなかった。
それは、ニルヴァンに危害を加えられないから、なのだろう。あんなのでも、一応ドルイトン王国の重鎮だ。隣国の王太子としては、手を出せない。
「僕に指図するというのか? しかし、それはなんとも無駄なことだな? 例え、今僕がこの女を刺したとしても、お前は何もできないだろう? この罪過の森で起きたことをいくら主張しても無駄だ。そもそも、ロムセルト王国からの抗議など、聞く必要もない」
「何か履き違えているようだな? お前は今、自分が置かれている状況を理解していないように見える」
「……何が言いた――」
ニルヴァンが下衆なことを言った直後、ライゼル殿下は首を横に振った。
それに反論しようとしていた愚かな公爵令息の言葉が、途切れる。それは森の茂みの中から、大きな顎が現れたからだ。
私の視界を横切ったそれは、ニルヴァンの体に嚙みついた。いや、噛みついたというのは正しくないだろう。彼の体は、私の視界から消えたのだから。




