10.かつてのこと③
「疲れた……」
ドルイトン王国とロムセルト王国の間には、罪過の森と呼ばれる場所がある。
そこは二国にとっても、容易に足を踏み入れられる場所ではない。凶悪な魔物がはびこっているからだ。
国外追放とは、基本的にここに放り出されることを意味している。その処罰を受けて、生き残れる者は少ない。大抵は、魔物の餌になることだろう。
「でも、とりあえずこれだけ肉があれば、しばらくは大丈夫か……」
だが、私は元聖女である。魔物の一匹や二匹くらいならば、仕留めることは難しいことではない。
しかし問題はあった。森に居続ければ、疲弊するということだ。いくら私が優れた魔法使いであっても、魔物に襲われ続ければ命はない。
「この森から、抜け出さないと……」
目下の課題は、この森から抜け出すことだった。
ただ、私は目隠しされて放り出されたこともあって、自分が今森のどの辺りなのか、まったくわからなかった。
歩いても歩いても、周囲の景色は変わらず、森の奥深くへと歩いているのではないか、と錯覚したくらいだ。
「……うん?」
そんなことを思っていた私は、足音が聞こえていることに気付いた。
また魔物の類か、私は周囲への警戒を強めた。足音が複数聞こえてきたこともあって、私の気は引き締まっていたといえる。
「……む?」
「……え?」
しかしそれは、一気に緩むことになった。その足音の主が、誰であるかわかったからだ。
多くの兵士を引き連れるその人物に、私は見覚えがあった。そう、それはロムセルト王国の王太子であるライゼル殿下だったのだ。
私は安心した直後に、驚くことになった。王太子が罪過の森に足を踏み入れているという状況が、よくわからなかったのだ。
「……あなたは、聖女セスティア、だな? 何故、あなたがこのような場所にいる?」
「ライゼル殿下……それは、こちらの疑問でもあります。しかしとりあえず、お答えしましょう。私は罪人として、ドルイトン王国から追放されたのです」
「何? あなたが?」
私は、ライゼル殿下からの質問に答えた。
彼はそれに、目を丸めていた。隣国の聖女である私が、罪人として追放されるなんて、彼からしてみれば思ってもいないことだったのだろう。
ただこの罪過の森で、一人取り残されているということは、概ねそういうことだ。もちろん、演習や討伐などの際に、はぐれたなどもあり得ない話ではないと言えるが。
「ダルゼルト王は、乱心したのか? 最近のドルイトン王国の振る舞いは、目に余るものだ」
「私が単に罪を犯したとは、考えられないのですか?」
「あなたのことは、知らない訳ではない。ドルイトン王国の現状からも、事態の推測はできるというものだ……良ければ、ロムセルト王国であなたを保護しよう」
「それは……ありがとうございます。そうしていただけると、助かります」
私はライゼル殿下の言葉に、ゆっくりと頷いた。
彼からの申し出は私にとって、とてもありがたいものであった。
こうして私は、ロムセルト王国で保護してもらえることになったのだ。それからは多少の問題はあれど、ある程度には平穏に暮らすことができている。
私は本当に、幸運なものだった。あの時ライゼル殿下に保護してもらわなかったら、どうなっていたことか。私の命は、なかったかもしれない。




