第九夜:呼吸を忘れてしまうほど、美しい
少しずつシンシアが懐いていってます、多分。難しかったです。
今回は最初から最後までリオ視点です。
「……リオ、ありがとう!」
——初めて見る表情だった。
出会ってまだ1日しか経っていないが、普段の彼女は泣いている時以外、驚いている時も微笑んでいる時もあまり表情が動かない。
普段はどんな事を考えているのか分からない瞳で月を見上げたり、こちらを見つめて答えてくれる。
まるで有名な人形職人が手がけた美しいお人形のように見えることすらある。
彼女の感情を教えてくれるものは、強いて言えば瞳に少し見え隠れする感情くらいだろうか。
それなのに。
普段の彼女からは想像もできないほどの晴れやかな笑顔をして見せたのである。
まるで大輪の花のように笑って見せた。
長く雪に覆われていた山が、急激に春模様に変わってしまったような、そんな瞬間だった。
一瞬、呼吸が止まる。
これまで経験してきた長い人生の中で1番、というよりも考えるまでもなくこれから先、わたしはこの表情を忘れることはできず、きっと誰にもこの美しさをうまく伝えることができないと思った。
無意識に感嘆の声をあげてしまう。
時が止まったかのように、まるで永遠のように感じられた。
言葉がうまく出ない。早く、返事をしなくては。
「……!……うん……!どういたしまして!」
言葉を口にしてもなお、いまだに少し頭が働かない。それなのに、わたしの鼓動は止むことを知らない大雨のように存在を知らせている。
……シアに鼓動が聞こえてしまうかも、なんて考えてしまう。
この溢れ出した水流のような鼓動の存在を知られたくなくて、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
とにかく必死だった。
なるべくいつもと変わらぬように、けれど真剣に、この気持ちが伝わるように丁寧に伝える。
正直言った内容は朧げだ。
殊更丁寧に言葉を重ねたのかもしれないし、「かわいい!」なんてありきたりな言葉だけを、ひたすら繰り返していたかもしれない。
でも、それでもよかった。
わたしは今、一生の宝物を得たのだから。
もしかしたら、これからも宝物が増えていくかもしれない。そんな確かな予感がする。
さっきは彼女のことを「面白くて可愛い」だなんて言ったけれど、今はもう違う。
——間違いなく彼女は、美しい。
それこそ呼吸を忘れてしまうほど、一等美しい。
「……うん。……ありがとう、リオ。」
彼女は心なしか満足そうな声で、大切な思い出を噛み締めるようなそんな表情をしてそう言うものだから。
リオは湧き上がるような笑い声を、抑えきれなかった。
彼女は意外と表情豊かなのかもしれない。
「ふふっ……シアは笑顔が似合うね。ありきたりな言葉だけれど……とても素敵。」
「……ありがとう!」
少しずつ、けれども確実に、シンシアとリオの距離は、あの日オリアナと見た春の訪れのように縮まっていく。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字、表情の間違いなどがありましたらそっと教えてもらえると幸いです。




