第七十九夜:プリン
ぎりぎり滑り込みセーフです。
「イルゼはいつも何を頼んでいるの?」
「えぇっと、プリンです」
イルゼは開かれたメニュー表の右端を人差し指で指差す。
メニュー表には文字が羅列されているだけで、品物に関する説明や見た目がわかるようなものは何も印刷されていないため、プリンという名前だけではどんなものか想像がつかない。
プリン……可愛らしい響きだわ。
「プリン、良いね。シアも好きそうだ」
隣に座るリオはプリンを知っているのだろう。
気になる。
「私もプリンを頼むわ。リオとイルゼが気に入るようなものなんだから、きっと美味しいと思うの」
未知の食べ物だが、イルゼのお気に入りで甘い食べ物だというし、リオは私が好きそうだと言っていたのだから、美味しいに違いない。
「シンシアはプリンを食べたことがないのか? 前にシンシアと同じくらいの女の子に会ったことがあるが、プリンが好きだと言っていたから、きっと気にいると思うぞ」
最初から頼むものが決まっている護衛たちは、シンシアたちの話を聞いていたようで、シンシアがプリンを頼むことを決めると、初めてのプリンに胸を躍らせるシンシアの背中を後押しするような言葉を述べた。
商人のリアムに雇われていると言っていたし、今までに色んな場所を巡ってきたのだろう人が言うということは、人気の品物なのだと思う。
「これで俺らとシンシアは決まったな。リオはどうする?」
何を頼むかが決まっていないのはリオだけだ。
手元に置いてあったメニュー表を隣に座るリオの元へ近づける。
「わたしはクリームソーダで」
リオはシンシアが寄せてくれたメニュー表にさっと目を通して、すぐに品物を決めた。
旅に慣れていると言っていたことを思い出して、こういうお店の食べ物も食べたことがあるという事に辿り着く。
リオって私が知らないことを何でも知っているのね。
少しだけ羨ましい気持ちになる。
シンシアにとってはメニュー表にうつるものはどれも初めて見るものだが、リオはその全てを知っている。
自分の知らない味を知っているんだと思うと羨ましい。
「全員決まったな」
これでリアムを除く7人全員が何を頼むか決まった。
護衛の男が手を挙げて、店員の女性に声をかける。
「俺らはいつもので、そこの2人はプリンとクリームソーダを頼む」
男はシンシアとリオを手で示す。
「はい、お任せください。リアムさんのもですよね? もう用意して大丈夫ですか?」
「あぁ、構わない。そろそろ来るはずだ……ってもう来たな」
男が女性から目線を外して窓の方を見ると、店に向かって歩くリアムの姿があった。
なかなか良いタイミングでは無いだろうか。
「あら、本当ですね。何年も一緒だとそういうのも分かるようになるんですね、ふふっ」
「はぁ、冗談はよせ」
女性は男を揶揄いながら店の奥へと消えていく。
「自分もリアムが来るの知ってるのにな、ははっ!」
女性の姿が見えなくなってすぐ、誰かがぽつりと呟いた言葉に、一同は吹き出すように笑う。
「違いないな」
「ですね」
皆口々に同意の言葉を口にしていると、リアムが店内に現れ、こちらへと向かってくる。
「おー、皆何話してるんだ? 楽しそうだな」
リアムはイルゼの隣が空いてるのを見つけ、がらんと音を立てて椅子に腰掛ける。
「いや、共に過ごす時間が長くなると相手のことを分かるようになるなーって話をしてたんだ。な?」
1人がそう説明してくれたので、皆でうんうんと頷く。
リアムは「それがどうしてそんな楽しそうな雰囲気になるんだ?」とでも言いたそうに首を捻る。
「よくわからないが、そうか」
「あ、リアムさんの分も頼んでおきましたよ」
「おう、ありがとな」
イルゼとリアムの会話も先程までの仲の良い会話のように聞こえてきてしまう。
シンシアは唇をきゅっと結び、笑いを堪える。
隣に目をうつすとリオも笑いを堪えるようにこちらを見ていた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、表現のミスがあったらそっと教えてくれると嬉しいです。




